2017/08/18 09:39:36

【イベントレポート06】TeamSpirit Day 2017:働き方改革の実践例〜「左脳」と「右脳」の両輪アプローチ〜

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2017年5月9日、東京コンベンションホール(東京・京橋)で開催されたTeamSpirit Day 2017。ここで、「働き方改革が難しいことのひとつに、議論すべき範囲が広く、主管事業がはっきりしないという点が挙げられます。これを一旦引いて、俯瞰で見てみましょう」と提示したのは、デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 ヒューマンキャピタルリーダーの土田昭夫氏です。

この記事では、「働き方改革」の本質を「ハッピーになりたい、という希望を叶えるものだ」と定義した上で、「右脳と左脳に働きかけることで改革を実現する」という考え方について語った、土田氏の講演をレポートしたいと思います。


改めて「働き方改革が進む社会的背景」を整理する

冒頭、土田氏は自身の経歴を説明し、

「私は1990年に社会人デビューしたいわゆるバブル世代です。その当時、流行っていたのが『会議を効率化しよう』というスローガンとアクションでした。四半世紀たった今、また同じような話が出てきたことはなんとも感慨深いものです。

ただ、当時とは状況がかなり変わっており、特に働く環境、ツールや技術がまったく異なっているということは周知の通りです。しかし、そうした違いを前提とせず、バブル以前の世代の方々は『働き方改革って昔もやったんだけど、上手くいかなかったんだよ』と断じてしまう傾向があるように感じます。

ぜひ今日は、そう簡単に結論付けるのではなく、今の『働き方改革』についてお話ができればと考えています」と、口火を切りました。

さて、昨今、日本のホットイシューとなっている「働き方改革」。
この議論が進むことになった背景について、土田氏は社会や経済に大きな変化の潮流が起こっているためだと考えられます。私たちはその変化をリアルに感じなければならないのだと思いますと、指摘しました。

では、大きな変化の潮流とはどのようなものでしょうか? 
改めて土田氏の言葉を整理してみたいと思います。

まず、人口問題や"不活性人材"の問題が挙げられます。

ひとつ目の人口問題については、よく聞かれるものでしょう。実際に、1996年以降、生産年齢人口は下降の一途*を辿っています。この"危機的状況"がいよいよ切迫したこととして感じられるようになっており、「これまでと同様の働き方をしていては生産性は上がらない」や「企業は減少する働き手を確保する努力をしなければならない」との議論が高まっている、というわけです。

これに加え、ふたつ目の組織内に存在する"不活性人材"の問題もあります。

彼らにどう仕事をしてもらうか、ほかの働く人たちが不満を持たないようにマネジメントするにはどうすればいいか? 管理職や経営者にとって真剣に向き合うべき難題となっています。

こうした状況の下で、どのような働き方をしたら、人口が減っていく中で高い生産性を維持し、国として栄えていけるのか考えなければならないと、土田氏。

さらに「デジタル時代のビジネスの進展の速さとAIなどの新技術の登場」も無視できないものです。

「これまでなら、何かを変革させる際に『これは3年がかりの計画だ! いや、5年がかりの計画だ!』と言ったものですが、いまは1年で成果を出さなければならないようなスピード感が求められています。また、競争のスピードも速くなっていることはみなさんご承知の通りでしょう」との指摘がなされました。

たとえば、社内外のコミュニケーションの取り方ひとつにしても、この数年で大きな変化が起こっています。この変化に伴い、コミュニケーションのあり方自体が大きく変わってきました。このことは、多くの方が体感していることでしょう。

加えて、「AI」の登場は、「ヒトから仕事を奪うかもしれない存在」と、脅威の視線で見られている側面もありますが、タッグを組めば飛躍的な「働き方改革」が実現できるのでは? との期待の声もあがっています。

また、スペックの向上は目を見張るほどで、そう遠くない未来に、確実に職場でAIが搭載されたロボットを見る機会が出てくると想像できます。

こうした外部要因に加えて、働く人々の価値観の変化も見逃せないものとして考えられます。

たとえば、一般的に"つかみどころがない存在"と称されるミレニアル世代の社員に対し、先輩社員がたびたび驚かされる、というケースが挙げられるでしょう。

「世界でも日本でも、ミレニアル世代は『ひとつの会社に帰属する』という意識が昔ほど強くないなどの傾向が見られます」と、土田氏。これは、これまでの価値観とは異なる考えを持つ人たちが身近に存在する、ということの象徴的な例と言えます。

また、企業のグローバル展開に伴い、「英語力を備えた人材など、今後の方向性と合致した能力のある人材を中途採用しよう」という企業が増え、人材の流動化が進んでいるという実態もあります。

こうしたいくつもの潮流を直視しつつ、土田氏は、企業において生産性が上がらない要因を次のように整理します。

「最近では徐々に本社改革に目が向いてきたように感じられますが、これまで、仕事の業務プロセスそのものが非効率でありながらそのことには目を向けず『本社改革を疎かにしながらも一方でM&Aなどのグローバル展開には熱心である』という企業が多かったように感じられます。

そのため、企業では低付加価値だとされる業務に工数が投下され、それが原因でさらに人手不足が深刻化する、という悪循環が起こっていたのだと考えられます

また、組織が複雑化していることでコミュニケーションに時間がかかったり、意思決定の効率が著しく悪いことも直視するべき問題だと言えます」

さらに、

「組織風土の問題も大きいでしょう。新しいことに消極的で『失敗したくない』と考える方が多く、そのため、他社の事例ばかり求める傾向があるように感じられます」と、土田氏。

さらに、スキルや知識の不足、「たとえば今後伸びしろの大きいデジタルビジネスへの展開を目指さなければいけないのにそもそも構想が描けない、というケースが見られます。これに加えて、働く人々の環境に目を向けると、長時間労働とストレス負荷が働く人たちにとって耐え難く、それがさらなる生産性の低下に繋がるという実情もありますと評しました。

右脳と左脳に働きかけて実現する"人がハッピーになる"働き方改革

前述のようにマイナス要因が多く見られる日本の労働環境に変革をもたらすには、どこからどう変えていく必要があるのでしょうか? 土田氏は次のような見方を示しました。

「どこから手を付けるべきか? これが正解だ、というものはないのかもしれません。しかし、私はやはり業務改善に取り組むことが一番だと考えています。非合理な業務プロセスを変えなければ、どれだけほかを改善しても『ザルで水を受ける』ということになり兼ねないでしょう。

また、業務フローや習慣について、『これまでやってきたからこれを続ける』ということではなく『コチラのほうが合理的だから』と変えていく柔軟性が不可欠なのだと考えます」。

加えて、本当に価値ある仕事を評価する風土や、喜ばれる仕事ができる環境をつくるといった"人間的に充実した働き方"を実現することが求められる、との投げかけがなされました。

そうした上で「働き方改革の本質は長時間労働の是正ということではなく、従業員それぞれが自分の仕事の価値を実感し、評価を得られること。そして、信頼する仲間の中で成長していく実感を得られることだと考えられます。

そうした環境を作るためには、失敗してレーティングが下がり、給与が下がる、ということがないような組織づくりが必要だといえるでしょう」とし、「働き方改革とは『ハッピーになりたい』という気持ちを現実にすること」と、改めてシンプルに評しました。

では、これを現実のものにするためにはどうすればいいか? 
土田氏は「左脳と右脳に働きかけて『働き方改革』を進めてみるのはどうか?」と提案しました。

右脳と左脳の働きを理解する

まず、なぜ働き方を変えるために「左脳と右脳に働きかけること」が、効果的なのか考えてみましょう。

土田氏は、人によって幸福の基準は違うので、感情の有り様を理解しながら働き方を変えるよう促していくことが右脳にアプローチすることになり、一方でITなどのテクノロジーを活用したリアルな変化をもたらすことが左脳に対するアプローチになりますと解説した上で、

「右脳にアプローチする、つまり『幸福をもたらすために働きかけ、その効果をはかる』ということは、難しく、受け手の主観的判断に委ねられると思います。そのため、経営陣や管理職はあくまで一人ひとりが違った価値観を持っていることを認め、誰もがいきいきとした状態でいるように努めること、人間性を尊重する姿勢を示すことが重要です」とし、そうした姿勢は政府肝入りの健康経営にもつながるものだ、との考えを示しました。

では、具体的にはどのような取り組みが考えられるのでしょうか? 当日紹介された事例をもってご説明しましょう。

■左脳への働きかけの事例:ITのチカラを活用して仕事時間、特に会議時間を削減する

デロイト トーマツ コンサルティングが手がけた組織変革の中に、数十人で構成したパイロットチームの業務の実態を分類して分析し、業務の効率化のためにITソリューションを導入する、というものがあったそうです。

その際、「従来であれば、1ヶ月かけて調査を行い、さらに1ヶ月かけて提案内容をまとめる、という流れが一般的でした。しかし、ここではアプリを用いて『会議時間は何時間』『この仕事には何時間』というように登録してもらい、リアルタイムで共有・蓄積された情報を分析して、業務改善を行いました」と、左脳への働きかけが紹介されました。

適切なツールを導入してそこから得られた情報をもとに業務分析を丁寧に行う、という取り組みは、モデルとなるグループを決めたり導入するツールを選ぶといった下準備は必要なものの、すぐに手を付けることができ、成果をリアルタイムで測りやすいというメリットが挙げられます。

できることから始めてみて、細かな改善を繰り返したり、展開する領域を広げるかどうか判断をする、という手法は、実際にそれを活用する現場の人にとっても導入を決定する経営陣や管理職にとっても取り組みのハードルが低いものだと言えます。

昨今ITソリューションは「SMAC(ソーシャル(S)、モバイル(M)、アナリティクス(A)、クラウド(C))」と呼ばれる汎用的で低コストな技術やアプリ、プラットフォームが数多く誕生し、浸透しつつあります。

これを試さないわけにはいかないですね!

デロイト土田様

■右脳への働きかけの事例:実感・納得感を伴う「働き方改革」を実践する

感情を司る右脳へのアプローチについて、土田氏は「誰のための働き方改革か? という考え方に立ち戻り、従業員の困りごとの背景を知りそれを解消していく姿勢とアクションが求められる」と言います。

とはいえ、どういう体験が好意的に受け止められるのか? ということは個々人の感じ方に委ねられるものでしょう。

そこで、「まずは働く人たちに話を聞いて、その内容を総括して傾向ごとにペルソナを設定し、人事部が把握していなかった仕事感やニーズを浮き彫りにすることで、実際の働く人たちに見合った評価を再考することが第一歩になるでしょう」と、新たな人事評価を考えることの重要性について提案しました。こうすることで、企業と働く人たちの間のエンゲージメントを高める、というわけです。

人間性を尊重する、という考え方を根底に持つことが今日の「働き方改革」の肝である

講演の締めくくりに、土田氏は、
「『今日の働き方改革』は、残業規制に対応するといったハードな目標を掲げるのではなく、『ハッピーになるためにどうアクションを起こすか?』を考えながら進めていく必要があり、それこそがこれまでの働き方改革の議論との違いであると考えます。また、そういう風にしていかなければならないでしょう。

フィジカル・メンタル・ソーシャルという面で満たされた状態、つまりWell Beingであること、そしてそれを実現することが求められており、企業は人間性を尊重するという視点をもつ必要があると考えます」と、締めくくりました。

改革を行うにあたっては、それを受け止める人がどう感じているかが重要であり、生産性の向上やさらなる効率化といったハードな目標を掲げるのではなく、働く人たちに共感し、彼ら自身が気付いていないような潜在ニーズを理解して行動を起こすことも、価値ある「働き方改革」のやり方だと言えるでしょう。

本当にその人にあった「働き方改革」を進めるには、「左脳と右脳の働き」を視野に入れつつ、取り組みの仕方を考えていくことも必要なのではないでしょうか?

*生産年齢人口(15歳から64歳まで)は1996年から減少に転じている。

(出典:総務省統計局「人口推計(平成26年10月1日現在)図3 年齢3区分別人口の割合の推移(昭和25年~平成26年)」より)


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