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 クラウド化、スマートフォンの普及といったICTの発展や、ビジネスパーソンの働く動機付けの変化によって、「組織の時代」から「個人の時代」へのシフトは着実に進んで行きます。

 前回話題にした、UberやAirbnbなどのビジネスにおける取引の単位の変化(会社単位から個人単位へ)に加えて、様々な側面で「個人化」の波は進展しており、組織の中での個人のあり方にも大きな影響を与えていくことになりそうです。

 今回は「個人の時代」の進展が、組織における査定や評価にどのような影響を与えていくかの可能性を探ってみましょう。

評判や信頼の考え方が変化する

 Uberにしろ、Airbnbにしろ、これまでは「会社相手だった取引」から、「担当者個人」が前面に出たビジネスに変わってきています。そこではレイティングなどの評価も個人に対してなされ、「Aさんは4.5、Bさんは3.8」といったように評価が明確かつガラス張りになってきます。

 このような変化に加えて、個人の信用や能力を評価するための材料もビッグデータの時代には変化がみられます。

 例えば、カードローンや消費者金融など、個人への融資に際しての与信審査も変わってきています。米国のAffirmEarnestZestFinanceのようなスタートアップ企業は、個人のネット上のビッグデータを基に与信の審査をしていると言われています。そこでは従来の与信評価項目に加えて、「オンラインの契約条項を何分読んだか」といったデータで分かる"振る舞い"すらも査定項目に入っています。

 また、SNSやWeb上での発言や投稿の蓄積も個人の信用度を裏付けるものとして、企業での採用や評価の世界でも今後用いられていくことは多くなっていくことでしょう。

 前述の通り、顧客や取引先からのフィードバックが「会社単位」ではなく、担当者個人に対して顧客や取引先の個人からされるようになり、かつそれがインターネット上に公開された場所になるというのは、弁護士や会計士等の「士業」ではアメリカでは既に何年も前から実現しており、日本でもその範囲は徐々に広がりつつあります。

 そうなれば、これまでは上記のように元々「個人」を前面に出していた仕事だけでなく、組織の中の個別の担当者のレベルにまでその対象が広がっていく可能性があることは容易に予想ができます。おまけにそれは、これまでは「買う側から売る側へ」だけだったものが、逆に「売る側から買った側へ」のフィードバックへという形で、双方向に広がっていくかも知れません。

 「悪い客」は、業界内で共有されるブラックリストに載ってしまうこともあり得ますし、逆に「優良顧客」についても、単に儲けさせてくれる顧客というだけでなく、売る側に対する顧客としての態度といった視点も取り入れられることになっていきます。

 また、前述のようにビッグデータやIoTの進展は、個人の振る舞いデータの蓄積がSNSのようなオンライン上の記録だけでなく、オフライン上での振る舞いにも及びます。例えば顧客訪問をどのように行っているかといったことや、他人から再利用される技術文書をどれだけ作成しているかといった行動レベルにまで、個人データの蓄積を行うことを可能にしていくのです。

査定や評価も「個人対個人」かつ双方向へ?

 このように、個人の評価は、「組織」から「個人」へ、「一方向」から「双方向」へ、「直接形に残っているもの」から「直接形に残っていないもの」へ、といった形で進化していくことが可能になります。

 このような変化は、組織の上司と部下の関係も変化させる可能性を秘めています。よくある部下から上司への不満として、「本当は自分の意見の方が良かったのに、上司の意見に従った結果が裏目に出てしまった」という類の話があります。自分の方が担当者として現場で顧客と密な関係を保っている。現場の生の声を聞いて行動していながら、時に上司の意見と対立して、泣く泣く指示に従ったら、案の定顧客からはネガティブな反応が返ってきてしまい、「それみたことか」となってしまう----。こういったことは、担当者としてはやりきれない経験です。

 それでも実際の組織内での評価は上司からなされるわけですから、意見やアドバイスを無下に否定することもできず、下手をすればこのような「悪評」が自分の責任にされてしまう可能性すらありました。

 それが、(単なる個人の主観だけでなく)ビッグデータという形での「事実」や顧客個人から担当者個人への個別のフィードバックの集積を基にして評価されるようになれば、より組織としての透明性も上がります。さらに事実をベースに評価されることで、従業員の満足度も上がるとともに、真の顧客の声を反映した商品やサービスの提供が可能となり、顧客満足度も上げられるようになっていくことが考えられるでしょう。