2016.02.03

人はなぜ変われないのか――
判断に大きく影響する3つの認知バイアス

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 前回述べたように、システム1(直感や感情に基づくもの、「反射システム」)は、しばしばヒューリスティック(手がかり、近道、目の子、経験則などと言われる)を利用して、素早く、そこそこ良い判断を下す。システム2(よく考えた上で判断を下すもの)は、システム1の判断をモニターして、必要ならば修正する役割を担うが、知識不足や時間がないなどが原因で、うまく働かないことがある。その結果、システム1が下すバイアスのかかった判断をそのまま受け入れてしまう。結果として、バイアスのかかった判断や決定がなされてしまうことになる。

 認知バイアスの中から、生じやすく、影響も大きいものを3点を取り上げよう。

利用可能性バイアス:すぐ思い浮かぶことは、生じやすい?

 第1に、「利用可能性ヒューリスティック」から生じるバイアスがある。いわば「利用可能性バイアス」である。メディアからの情報、記憶や経験によって、よく覚えていて、すぐに思い出しやすいことは、よく生じると考えてしまうことがバイアスの原因である。思い出しやすく(想起の容易性)、何かの情報を検索するときに、すぐ頭に思い浮かぶ(検索の容易性)ためだ。

 例えば、飛行機事故の死亡率は自動車事故の死亡率よりも低い。しかし、飛行機事故は、いったん起こると大々的に報道され、記憶にも残る。そこで、事故直後は、自動車より飛行機の方が危険だと判断されがちになる。米国で2001年9月11日に、旅客機を使った同時多発テロが発生した。その後1年間、米国では交通事故がそれまでの年よりもはっきりと増加し、死者数も増えた。飛行機を危険だと考える人が増加し、移動に自動車を多く使うようになったため、交通事故が増えたのである。これは、思い出しやすく、しかも感情にも強く訴えかけられたために生じた認知バイアスの例である。

 大きな地震が発生した直後は、地震保険の加入者が増加する。この傾向は特に地震の被災者に強い。地震から時間が経ち、記憶が薄れるにつれて、地震の発生確率は同じであっても、加入率は減少する。

 逆に、秋葉原と聞けば、昔は電気街、今は「オタクの聖地」というイメージがすぐ思い浮かぶ。こうしたイメージを利用して、同じような業種の小売店が集まってくる。消費者の記憶や連想によって、情報探索の手間を省けるのだ。

少数の法則:少数サンプルが母集団を代表する?

 第2に、代表性ヒューリスティックから生じるバイアスがある。このバイアスは、「少数の法則」と呼ぶこともある。少数のサンプルであっても、母集団を代表するサンプルだと見なして、サンプルから得られる性質を母集団も持っていると考えてしまうことである。

 少数のサンプルから、全体を推し量るのは極めて危険である。なぜなら、少数のサンプルでは、値の変動が起こりやすいため、それらから何らかの法則や規則を探ろうとすると、不適切な答えが導かれることがしばしばあるからである。

 行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏の著作「ファスト&スロー : あなたの意思はどのように決まるか?」(上下巻、早川書房)に次のような興味深い例が出てくる。

 「米国で腎臓ガンの患者発生率が低い郡は、中西部、南部、西部の農村部の人口密度が低い地域にある。この原因として、空気や水がきれいで、新鮮な食品が入手できるからだ」などと説明される。これを聞くとなるほどと思ってしまう。

 一方、「腎臓ガンの患者発生率が高い郡は、中西部、南部、西部の農村部の人口密度が低い地域にある。この原因として、田舎で医療水準が低く、高脂肪の食事や喫煙の習慣があるからだ」などと説明される。これも何かもっともな説明に聞こえる。

 もちろん、こんな矛盾した説明を同時にされれば、何か変だと気づくが、どちらか一方だけを聞かされたら、納得してしまいそうだ。

 このような矛盾した結果が同時に出る理由は、いずれの郡も人口が少ないからである。サンプル数が少なければ、多い場合に比べて、極端な結果が出やすい。しかし私たちのシステム1は、因果関係を説明されると飛びついてしまい、きちんと精査することはない。

「平均への回帰」を無視して短期で評価してしまう

 偶然に左右される事象では、「平均への回帰」という現象がしばしば生じる。1年間で10回試験を受け、100点満点で平均80点取った人がいるとする。この人が全部の試験で80点をとることはまずない。90点のことも65点のこともあるだろう。ある時には100点、他の時には50点ということもある。100点を取ったら、次の時には点数が上がることはないし、50点を取った次は点数が上がると考えられるだろう。

 どちらも1年間の平均に向かって変化している。つまり「平均への回帰」が生じているのだ。ところが、点数が下がれば、「慢心だ」「怠けた」と言われかねないし、上がれば「頑張った」「努力した」といってほめられる。しかし、1回だけの点数という短期の少数のサンプルだけで、実力や傾向を評価してはいけない。長期に見なければ傾向は分からないのである。このような「平均への回帰」という現象を無視してしまうのが、私たちのシステム1の特徴である。これも認知バイアスの例である。

 経営者も気をつけなければならない。ある月のセールスマンの売上が下がったのだけを見て、そのセールスマンの怠慢だと責めてもしかたないし、商品の評価が下がったのでもない可能性がある。単なる平均への回帰なのだ。しかし、理由をこじつけてしまうことがよくある。

感情によるバイアス:好き嫌いで判断してしまう

 第3に、感情ヒューリスティックがある。これは、好き嫌いによって判断することである。これによってさまざまなバイアスが生じる。例えば、人に対する第一印象は、その人の評価にきわめて強い影響を与えることが分かっている。

 また、発電所やゴミ焼却場のような施設は、便利さとともに何らかのリスクがつきものである。便利さとリスクの評価は本来別々になされることであるし、直接のつながりはない。しかし、ある施設が非常に便利だと思って好感を抱くと、リスクも低いと評価しがちである。逆に、リスクに対して恐怖心を抱いていると、施設の便利さも低いとみなす。同様のことは、企業の新規プロジェクトの評価などにも当てはまる。

 ほんのいくつか見ただけだが、「システム1の判断はバイアスを生みやすい」と知っておくことが大事である。

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