2015.07.14

人はお金のために働くのか――前編

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 人はなぜ仕事をするのだろうか? お金を稼ぐため? 仕事が面白いから? そうするのが義務とか自然なことだから? なぜ人のためにボランティアをしたり、寄付や献血をしたりするのだろうか? 人の役に立つことが気持ちいいからだろうか。それとも感謝されるのが嬉しいからか? 社会の慣習や規範に従っただけ......? 仕事に限らず、人が行動するにはさまざまな理由が考えられる。

 人を動かすのにお金は強い力を発揮する。お金のために人を殺してしまうことさえあるのが人間だ。仕事の成果を上げさせるために、成果に応じた報酬を与えようという成果主義は、まさにお金で人を働かせようという考え方である。手伝いをしたら、あるいは学校でよい成績を取ったら、子どもに小遣いを与えるという考え方も一種の成果主義である。逆に、罰金を課して行動を抑制する方法もよく使われる。

 お金を用いて、人の行動を促進させたり、抑制したりするのは、近年の社会では実に広く行われている。最も多く使われる手段といっても過言ではない。このように、人を動かすのにお金に頼る方法に関しては、政治家も、役人も、経営者も、従業員も、経済学者も、経営学者も、世間の人も、異論を差し挟む余地がない当然のこととして受け止めているようだ。

 経済学はインセンティブの学問だと最近よく言われる。人はインセンティブに反応して動くから、経済学の目的は人が組織や社会にとって適切な行動をとるように、効果的にインセンティブを設定することだ、といった意味である。しかし、インセンティブという言葉が示すように、もっぱら外発的な、しかも金銭的な動機づけだけを重視する。楽しいからするとか、規範だからするという理由を否定するわけではないが、基本的には人はお金で動くと考えるのである。

内発的モチベーションと外発的モチベーション

 こうした人をお金で動かす方法は、本当に有効なのだろうか? 再考すべき点はないのであろうか? 特に、職場における成果主義は有効なのだろうか? そのような疑問について答えるためには、まず、人が行動をおこすモチベーションについて考える必要がある。

 モチベーションには、大きく分けて2種類ある。1つは、仕事がおもしろいとか趣味に没頭して時間を忘れるといったような、活動そのものが持っている興味、面白さであり、内発的モチベーションと呼ばれる。そうするのが義務だとか、社会的な規範だと考えて行動するのも内発的モチベーションである。もう1つは、行動することによってその人に外からもたらされる報酬・名誉・地位・評判などを得たり、罰を避けるといったモチベーションであり、外発的モチベーションと呼ばれる。経済や経営の文脈では、外発的インセンティブとか単にインセンティブと呼ばれることが多い。

 人の活動は、内発的モチベーションと外発的インセンティブの両方によって進められる。そこで面白い仕事に対して、金銭的報酬が得られるならば、仕事にいっそう励み、その結果として業績や成果も一段と上がるはずだと考えたくなるが、そうとは限らない。

 職場において、外発的インセンティブによって成果を上げさせようという成果主義は、一時期もてはやされ、多くの経営者によって実践された。成功を収めた企業もあるが、失敗に終わったと結論する経営者や研究者は少なくない。成果主義には次のような疑問や批判が投げかけられている。

 1.成果をどうやって測るのか? 営業成績や売上、特許の件数といった数値で測れることなら評価できるが、それ以外の貢献はどのように評価するのか。

 2.成果報酬に反映されない活動は評価の対象外なので、どうしても力が入らなくなる。それにどのように対処するのか?

 3.成果を誰が測るのか? 上司が評価するとして、評価の結果も評価のプロセスも、評価される方や同僚たちが納得のいく公平な評価が可能なのか。

 4.成果主義にはしばしば競争を伴うが、競争が成果を向上させるとは限らないのではないか。競争が、不正や不適切な行動を招くこともある。

 5.成果報酬のような外発的インセンティブは、内発的モチベーションを阻害する可能性があるのではないか。つまり、仕事がお金目当てになってしまい、仕事が面白いからとか、義務や規範だからやるといったモチベーションが低下してしまう。その結果、成果そのものが低下することもある。

 1~4.の観点については別の機会に譲るとして、ここでは行動経済学が最も問題視する5.について見ていこう。このような、外発的インセンティブが内発的モチベーションを阻害・抑制してしまう現象を、「クラウディング・アウト効果」すなわち「締め出し効果」という。

 実は、ことはそんなに単純ではなく、外発的インセンティブを導入することで、逆に内発的モチベーションが強化されることもある。これは、内発的モチベーションが強化されることを意味し、「クラウディング・イン効果」と呼ばれる。

 問題は、どんな場合に、クラウディング・アウト効果が生じて、外発的インセンティブが内発的モチベーションを阻害してしまうのか。逆に、外発的インセンティブが内発的モチベーションを高めるクラウディング・イン効果はどんな場合に生じるのか? この2つの点は、成果主義ばかりか、社会における処罰・罰金の意義、家庭での子どものしつけなどを考える上でもきわめて重要である。これらの点について、次回以降、詳しく見ていくことにしよう。

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