2015.07.14

人はお金のために働くのか――後編

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 外発的インセンティブによって内発的モチベーションが減少するという、クラウディング・アウト効果が生じることは、多くの実験や研究によって明らかにされている。実験例から興味深いものを見てみよう。

 行動経済学者のニーズィとラスティチーニが行った実験がある。

 彼らの最初の実験では、大学生の実験参加者に一種のIQテスト50問を解いてもらった。全ての参加者には固定額の報酬が支払われたが、それにプラスして成績に応じて報酬を支払った。成果報酬額の違いによって4つのグループに分けた。第1グループには固定額以外の成果に応じた報酬はないが、残り3グループでは、正答1問につき2.5セント、25セント、75セントがそれぞれ支払われるという条件であった。どのグループの正答率が高いのであろうか? 正答率が最も高かったのは報酬25セントのグループであり(平均34.7問)有意な差はなかったが、2番目が75セントのグループ(34.1問)、次に報酬なしグループ(28.4問)、最もできが悪かったのは2.5セントのグループ(23.1問)であった。

 課題を解くこと自体は面白さもあるだろうし、実験に参加しているのだから頑張るのが当然だと思うこともあるし、自分の能力を知りたいという目的もあるだろう。いずれも内発的モチベーションである。それが、報酬が導入されることで変わってしまうのだ。目的が課題を解くことから、報酬を稼ぐことに変わってしまう。そうは言っても報酬が正解一問につきたった2.5セントではやる気が起こらない、もう少しもらえるなら頑張ると考えたに違いない。回答者がこのように考えたのに違いないことは、正答数ゼロの参加者数から推測できる。正答ゼロの参加者は、追加報酬なしのグループでは4人、2.5セントのグループでは8人であったのに対し、25セントのグループと75セントのグループでは全くいなかったのである。ある程度努力すれば正答が得られる問題であることがわかる。しかし、報酬なしグループにも低報酬グループにも正答ゼロの人がいて、しかも前者より後者の方が人数は多かったのである。

 次に彼らは、高校生に2人一組となって家を一軒一軒訪ねて、慈善団体への寄付金を集めるという仕事をしてもらった。すべての参加者に参加報酬として固定額のクーポン券が渡され、さらに追加報酬額の大小によって3つのグループに分けられた。第1グループは参加報酬以外の追加報酬はない。第2グループは、参加報酬以外に、集めた募金額の1パーセントが報酬として支払われ、第3グループでは、追加報酬額は集めた募金額の10パーセントであった。あらかじめ全てのグループに対して、募金を集める活動の重要性について十分なレクチャーが行なわれた。

 実験の結果、集めた募金額の平均は、追加報酬なしのグループでは238.6ドル、1パーセントのグループでは153.6ドル、10パーセントのグループでは219.3ドルであった。追加報酬がないグループの集めた募金額がもっとも高く、次いで、高報酬グループ、最低が低報酬グループであった。金銭的インセンティブが、募金を集めるという社会的に意味ある行為の内発的モチベーションを低めたと考えられる。低額の追加報酬があると活動は低下し、報酬がある程度高くなると金銭を得るためにより働くようになったのだ。

 彼らの2つの実験にはさらに別の実験が組み込まれていた。これも面白い。

 IQテストを受けたのとは別の参加者1人ずつをIQテストの回答者1人と組み合わせてペアを作り、テストに回答する相手が正解した1問につき25セントの報酬が参加者に支払われるという設定である。さらに参加者は、テストの回答者が正答1問につき2.5セントの報酬がもらえるか、あるいは全く報酬なしにするかの選択をした。すると、正答1問につき2.5セントを支払う方を選択した被験者が大半(87パーセント)であった。つまり悪い成績を誘発したインセンティブ・システムをあえて選んでしまったのである。

 募金集めについても同様の実験が行なわれた。こんどは組み合わせの相手となったペアが集めた募金額の5パーセントが得られるが、相手ペアを、追加報酬なしのグループから選ぶか、募金額の1パーセントを追加報酬として得たグループから選ぶかの選択をしてもらった。その結果、多く(76パーセント)が、1パーセントのグループを選んだ。この場合も同じく、悪い結果を残したグループを選んだのである。

 どちらの場合でも、どのような金銭的インセンティブを与えればよい成果が引き出せるかについて正しい予測ができなかったことになる。金銭的インセンティブが、たとえ少額であっても与えられれば、成果は上がるはずだという思い込みはきわめて強い。この実験で成果予想をした人たちが経営者であり、もともとの実験参加者が従業員であったとしたら、きわめてまずい報酬システムを選んだことになる。経営者としては、従業員の成果を十分に引き出せないという意味でまずく、従業員に追加の報酬を支払わなければならず、二重の意味で不適切な方を選んだことになってしまう。

 外発的インセンティブが内発的モチベーションを阻害することは、「社会科学の分野において、もっとも揺るぎない発見であり、同時にもっともないがしろにされている発見でもある」と『モチベーション3.0』の著者であるダニエル・ピンクは警告する。(p.69)

 われわれは、この現象についてもっと真剣に考察する必要がある。

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