2016.07.19

人はなぜ変われないのか――
考える範囲を制限、広義の「フレーミング効果」

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なにげない家計簿への記入でも、 フレーミング効果の一種であるメンタル・アカウンティングがはたらく(写真はイメージ)

 フレーミング効果とは、対象の提示や表現の仕方が異なったり、思考の枠組みが与えられると、それによって意思決定が影響され、時には非合理的な選択がなされるような現象に対する広い名称である。選択対象の価値は、実質的な内容によってのみ評価されるとするのが合理性の要件であるから、フレーミング効果は合理性に反する事例であり、認知バイアスの一つである。

 前回は、フレーミング効果のうち狭い意味でのフレーミング効果を取り上げた。それは、本質的に同じ内容であっても、選択肢の表現の仕方や提示の仕方によって、意思決定者が異なる判断をすることを指している。例えば、「成功率95%」と言われるのと、「失敗率5%」と言われるのでは、手術を受けるかどうかの判断が異なる可能性がある。「脂肪分5%」と「非脂肪分95%」では、商品を買うかどうかの判断が異なるかもしれない。

 今回は、広い意味でのフレーミング効果を取り上げる。それは、人が意思決定に際して、考える範囲や枠(フレーム)が限定されると、そのフレームの中だけで思考し、そのため非合理的な決定を下してしまう場合があることを言う。このフレームは、自分自身が無意識に設定することもあるし、他者が設定することもある。

金銭についての心理的操作――メンタル・アカウンティング

 フレーミング効果の一種にメンタル・アカウンティングがある。メンタル・アカウンティング(心理的勘定体系)とは、家計簿に記入するときに「食費」「光熱費」「娯楽費」などの項目に分類するのと同様に、取り引きごとに心の中で勘定項目を設定し、その中でやりくりして損失(赤字)や余剰(黒字)を計上することである。

 メンタル・アカウンティングは、人々が金銭について評価し、管理し、記録するために用いる心理的な操作のことであり、無意識になされることが多い。収入についても、自分で働いて稼いだお金と、思いがけない"たなぼた"の収入とでは異なると捉え、違う使い方をすることもある。

 このような場合に、勘定項目内でバランスをとることを重視しすぎたり、稼いだお金は堅実に使うがたなぼたの収入は散財してもよいと考えたり、といった不合理な選択がなされることになる。例えば次のような質問を考えてみよう。

●質問1
 当日券が5000円のコンサート会場でチケットを買おうとしたところ、5000円札を失くしていたことに気づいた。5000円出してこの当日券を買いますか?

●質問2
 前売券を5000円で買って、コンサートに行ったところ、このチケットを失くしたことに気づいた。5000円出して当日券を買いますか?

 このような質問をすると、1では多くの人が「はい」と答え、2では「いいえ」という答えが多い。いずれの質問も5000円の価値のあるものを失ったことには変わりがないにも関わらず、答えが分かれてしまう。この原因はメンタル・アカウンティングによって説明できる。

 質問1のチケットを買うという行為は、「娯楽費」という勘定項目に含まれていて、現金5000円の紛失はこの項目の収支には無関係と考えてしまうからである。一方、質問2では、同じコンサートに合計1万円支出することになるから、「娯楽費」としては高すぎて支出するのをためらうのである。

 これは「貨幣の代替性」という合理性に反することになる。つまり、お金には色がついているわけではないので、どんな経過でお金を得ても、どんなことに出費しても、同じお金なのだから、他の用途に代替可能であるという合理的な考え方である。メンタル・アカウンティングによって、異なる勘定項目に振り割られたお金は、用途が限定されると考えてしまうという非合理的な判断をもたらすのである。

時間間隔の捉え方、何を適切だと考えるかでも変わる

 それぞれの項目が赤字か黒字かを評価するときには、どんな時間を単位として考えるのかによって選択が変わるのもメンタル・アカウンティングの一つの例である。時間の単位が1日なのか、1カ月なのか、1年で考えるのかといった、時間間隔をどう捉えるかが選択を左右する。

 時間フレーミングに関しては面白い現象が起こる。たとえば、競馬では1日の最終レースでは"穴馬狙い"の賭けが多くなることが知られている。競馬での勝敗や損得を1日単位で捉えていて、その日のそれまでの負け分を、最終レースで一気に取り戻そうとする人が多いのではないかと考えられている。競馬の勝敗は何も1日単位で考える必要はまったくなく、1カ月でも、1年でもよいはずだが、1日単位で考える人が多いのである。

 同じようなことがニューヨークのタクシー運転手の労働時間を調べた研究からも見えてくる。運転手たちは、1日の売上目標を設定し、それを達成するとその日の営業を止めてしまう人が多いことが分かったのである。

 彼らは通常タクシーを借り受けていて、12時間分の固定料金を支払わなければならない。それを越える売上は運転手の収入となる。そこで、12時間働いてもよいし、それ以前にやめることもできる。時間当たりの売上は日によって違うが、彼らはおおよその売上目標額を決めて、それをクリアーするとその日の営業は止めてしまうことが多いのである。つまり、1日を単位として労働時間を決めていることになる。これもメンタル・アカウンティングの例である。

 別の種類のフレーミング効果もある。例えば次のような質問はどうだろうか。

●質問
 数年前にワインを1本5000円で買った。このワインは評価が高く、今では1万円で取り引きされている。さて、このワインを今日飲もうとしている。あなたが感じるコストは次のどれに近いだろうか?
(1)0円 (2)5000円 (3)5000円+利息 (4)1万円 (5)マイナス5000円(つまり5000円の得)

 この質問に対して、多くの場合には、(1)(5)(4)(2)(3)の順に選択者が多いが、経済学的に正しいのは(4)である。しかし、多くの人は、そんな合理的な判断をすることはない。これがなぜフレーミング効果の一種なのかと言えば、どの値を判断のフレームに入れるのが適切なのかがよく分からないからである。

 このようなフレーミング効果は、個人の決定ばかりでなく、組織の決定にも大きな影響を及ぼしうる。

 企業や組織で問題となるのは、部署別に年度の予算を決めておいて、年度内に予算を使うという方法であろう。予算を余らせると次年度の予算が削られたりすることがあるから、必要ないことに予算を使ったりする。

 役所で、年度末に工事が集中したり、必要ない備品を購入したりすることがよくあるのも、このような「予算主義」が災いしている。部署別の予算というフレームが与えられると、もし予算が余ったならば、他部署に回して有効に使うという合理的決断がなかなかできないのが、予算主義の落とし穴である。 

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