2016.06.30

人はなぜ変われないのかーー
表現に惑わされる!? 狭義の「フレーミング効果」

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本質的には同じでも、表現を変えただけで非合理な選択をしてしまう経験も多いのでは?

 「フレーミング効果」とは、対象の提示や表現の仕方が異なったり、思考の枠組みが与えられたりすると、それによって意思決定が影響され、時には非合理的な選択がなされるような現象に対する広い名称である。選択対象の価値は、それらの実質的な内容によって判断されるという合理性に反する事例であり、認知バイアスの一つである。

 フレーミング効果は、狭い意味と広い意味で使われることがある。狭い意味でのフレーミング効果とは、本質的に同じ内容であっても、選択肢の表現の仕方や提示の仕方によって、意思決定者が異なる判断をすることを指す。広い意味でのフレーミング効果は、人が意思決定に際して、考える範囲や枠組みが限定されると、その枠組みの中だけで思考し、そのため非合理的な決定をしてしまうことを言う。

 狭い意味でのフレーミング効果については以前簡単に触れたが、ここでもう少し詳しく見てみよう。広い意味でのフレーミング効果については、次回解説する。

 狭い意味でのフレーミング効果の簡単な例は、病気の患者に「この手術の成功率は95パーセント」と言う場合と「手術の失敗率は5パーセント」という場合が挙げられる。両者は本質的には同じことを言っているが、前者のように言われれば、成功する可能性を頭に描き、手術を受けやすくなる。一方、後者のように言われれば、失敗の恐怖が頭に浮かび、手術を拒否したくなるだろう。野球の試合でAチームとBチームの対戦結果について、「Aが勝った」と言うのと、「Bが負けた」と言うのとでは、同じ内容であるのに受ける印象は異なるだろう。

 フレーミング効果を最初に発見し命名したダニエル・カーネマンらは、次のような選択問題に答えてもらい、回答者が異なる判断をすることを示した。

質問1 まず無条件で1000ドル得られたとする。次にどちらかを選べ。
     A 確率0.5で1000ドル得られる。
     B 確実に500ドルが手に入る。

質問2 まず無条件で1000ドル得られたとする。次にどちらかを選べ。
     C 確率0.5で1000ドル失う。
     D 確実に500ドル失う。

 質問1では、Aを選んだ者が16%、Bが84%、質問2では、Cが69%、Dが31%であった。ところが、最終的な状態に着目すると、AとCの結果は同じであり、BとDの結果も同じである。そのため、回答者の選択は矛盾している。質問1では、問題は利得で表わされており、質問2では、損失で表わされている。たとえ結果が同一であっても、問題が利得で表わされた場合にはリスク回避的となって安全な選択肢を選び、損失に関してはリスク追求的になることが分かる。これは以前説明した損失回避性の影響であるが、本質的には同一の内容であっても、表現の仕方が違えば選択の結果が異なるという好例である。カーネマンらは、このような利得と損失に関するフレーミング効果の存在を多数示した。

 フレーミング効果は、このような利得と損失に関する場合のみならず、様々な現実的な場面でも生じ得る。ある心理学者の研究が面白い。彼らは、車の燃費に関する質問をした。

 次のようなシナリオを考えてほしい。Aさんは、燃費がガソリン1リッター当たり12kmの車から、リッター14kmの車に乗り換えた。Bさんは、リッター30km走る車から、リッター40kmの車に乗り換えた。ここで、どちらの人の乗り換えがより良いと言えるだろうかという質問をすると、大多数の人がBさんと答える。Aさんの車の燃費は改善されたが、たった2km、12%良くなったに過ぎない。Bさんの方は、10km、33%も良くなった。多くの人がBさんの方が燃費改善の程度が高く、より環境にプラスであると判断するのはもっともである。

 しかし、よく考えると違うのである。1万km走行するとき、どれだけガソリンを消費するのかを考えてみよう。Aさんの車は、1万kmの走行に833リットルのガソリンを使っていたが、今や714リットルで済む。Bさんの方は、333リットルだったのが、250リットルに減った。Aさんは110リットルの節約であるが、Bさんは83リットルの節約に過ぎないのだ。環境保護のために、ガソリン消費量が減ることが望ましいのであれば、節約効果はAさんの方が大きいことになる。

 しかし、たいていの人が直感的に間違った方を選んでしまうのだ。この原因は、燃費の表わし方にある。たいていの場合には、燃費は、1リットル当たり何キロ走るかで表示されるが、実は1キロを走るのに何リットル必要かと表示する方が適切なのである。実際には、実用性を考えると、100キロ走るのにガソリン何リットル必要かとする方がより良いが、ドライバーも、企業も、政府さえ、表わし方を間違えているのである。広告も、政策も不適切な可能性がある。これもフレーミング効果の一種であり、表示方法の違いが思わぬ間違いを生み出している。

 また別の例では、15年ほど前に問題となった狂牛病がある。「狂牛病」と言われると何か恐ろしいイメージがあり、日本で狂牛病になった牛が発見されたときには、大騒ぎになり、焼き肉店が店を閉じたり、ハンバーガーの売れ行きが大幅に減ったりした。ある実験によると、狂牛病を学名の略である「BSE」と表示すると、恐怖感情が大きく減少し、その発生確率が数倍も低く見積もられたのである。報道が、恐怖を募らせるような「狂牛病」という表現ではなく、最初から「BSE」と言っていれば、それほどの騒動にならなかったかもしれない。

 さらに日本では、同じ内容を日本語と英語で表わした場合、印象が異なることは多々ある。例えば、同じ年代物の車であっても、「中古車」と表記する時と、「ビンテージ・カー」と表記する場合では、まったく違った印象が与えられるだろう。このようなフレーミング効果はマーケティングにはしばしば利用されている。

 フレーミング効果恐るべしである。

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