2016.06.07

人はなぜ変われないのか――
全体が細部に影響する「ハロー効果」

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 「ハロー効果(halo effect)」は、心理学者のエドワード・ソーンダイクが100年近く前に発見・名付けたバイアスで、日常生活においても企業経営においてもきわめてよく見られ、影響も大きいバイアスである。それは、人や事物が全体として良い印象をもたらしたり、良い特徴を持っていると、その人や事物のその他の細かい部分まで全て良く見えるという効果のことである。逆に全体として悪い印象があると、全てが悪く見えるということもあり、この逆効果は「デビル(悪魔)効果」と呼ぶこともある。

 ハロー効果の「ハロー(halo)」とは「後光」といった意味であり、後光が差して全体が光り輝いて見えると細部の判断ができず、優れているように感じられることからこう呼ばれる。日本語では「光背効果」ともいう。ハロー効果は、日常でしばしば経験するバイアスである。"イケメン"や美人は見かけだけでなく、性格や知的能力まで良く見えるし、高学歴だったり有名企業勤務だったりすると、人柄や容姿までも良く見えてしまうのが典型的なハロー効果である。

見かけで好印象を与える者は他の面でも優れている?

 ハロー効果の実例や実験例は数多い。ソーンダイクが発見したのは、軍隊で上官に部下の兵士を、「知性」「運動能力」「リーダーシップ」などさまざまな観点から評価してもらったところ、優秀な部下は全ての面で高く評価され、評価が低い者は全ての点で低かったことである。彼は、体格が良い、態度が立派など見かけによって好印象を与える者は、他の面でも優れていると判断されていることを見出し、ハロー効果と名付けたのである。

 ある実験では、まったく同じ内容の答案を専門家に採点してもらったところ、きれいな読みやすい字で書かれた答案は、汚い読みにくい字の答案より明らかに点数が高かった。

 また、米国の有名作家の小説で全米図書賞を受賞した作品を、8年後にタイプで打ち直して新たな原稿を作り、題名を付けずに大手出版社や出版エージェンシー数十社に送るという、いたずらのような実験も行われた。その結果、既に発表された有名作品であることに気づいた出版社やエージェンシーは一つもなく、全ての社が、原稿は出版に値しないとして送り返してきたのだった。元々の作品が、いかに作家の名前によって評価されていたのかが分かる実験である。

 学術論文でも同様な実験が行われた。著者の所属先が有名大学であると、採択されやすいことが分かっている。このような専門家の評価でさえ、ハロー効果を免れないのである。

ハロー効果の影響を受けやすい企業の採用面接や昇進

 企業経営にもハロー効果は、大きな影響を及ぼしている。たとえば、従業員の採用には面接が実施され、採用するかどうかの最終判断が面接によって決定されることは少なくない。しかし、面接はハロー効果の影響を受けやすい。まず出身大学や大企業での職務経験という具体的な情報が与えられると、印象が形成される。その後面接が行われると、その人の仕事に対する熱意や意欲、コミュニケーション能力などの抽象的で評価が難しい項目に関しては、ハロー効果によって判断されやすい。学歴や前職が高く評価されれば、熱意や能力も高く評価され、その逆の場合もある。

 従業員の業務成績を評価する際にも、最初の一つの観点で優れていて全体として良い印象が与えられると、他の観点でも優れているとみなされやすい。昇進にも影響する。たとえば素晴らしい発明などの成果を挙げた技術者が他の面でも優れているとみなされて、役員や社長に昇進することはよくある。

 しかし、それが結局失敗に終わった例も多い。技術的に抜きん出ていると、ハロー効果によって、経営能力も高いと見なされることが一因であると考えられる。ある部署のトップが悪い評価や悪い評判を得てしまうと、その部署に属する他の人たちも悪いと判断されるのもハロー効果の影響である。

 音楽CDや書籍が賞を受けたり大ヒットしたりすると、同じ作者の他の曲や書籍まで売上が伸びることはよくあるし、ブランドが信頼できるため、そのブランドならどんな製品も素晴らしいだろうと思うのもハロー効果が原因である。CMに有名人を起用するのも、ハロー効果を利用しようとしているからだ。

成功したという事実によってハロー効果が生まれる

 そして見逃せないのが、成功した企業を取り上げて成功要因を分析するという書籍である。その成功要因を真似れば、今はうまくいっていない企業や、これから起業しようとしている人の参考になるはずだということで、このような書籍は数多く出版されているし、成功した経営者にその秘訣を聞くなどという記事や番組は、雑誌やテレビでしばしば見かける。

 この類いの書籍で有名なのが、わが国でもベストセラーとなった「エクセレント・カンパニー」(トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン著、国内版は英知出版、大前研一訳)と「ビジョナリー・カンパニー」(ジム・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著、国内版は日経BP社、山岡洋一訳)という2冊の書籍である。

 どちらの書籍の主張も、「後知恵バイアス」と「ハロー効果」のなせる業であると、ダニエル・カーネマンが著書「ファスト&スロー」(国内版は「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるのか」、早川書房、村井章子訳)で、また経済学者のフィル・ローゼンツワイグは、「なぜビジネス書は間違うのか」(国内版は日経BP社、桃井緑美子訳)という刺激的なタイトルの著書で、詳しく解説している(ちなみに後者の原題は、簡明直截に「ハロー効果」である)。

 カーネマンやローゼンツワイグによると、成功している企業の経営者の評価を専門家や評論家に聞くと、ハロー効果が強く見られるという。うまくいっている企業の経営者は優れた理念や判断力、決断力を有していて、人格も高潔であるとみなされがちである。そこに因果関係を見出して、そのような優れた経営者がいて、優れた戦略で経営をリードしたから成功したのだとみなされる。

 実は、優れた資質や能力を持っているから成功したと簡単に言うことはできず、偶然を含む何かの理由で成功を収めると、成功したという事実によってハロー効果が生まれ、経営者自身や戦略がよく見えるということがある。因果関係が逆転しているのだ。多くの企業はやがて業績が悪化してくるが、そうなると決断力があったと評された人物が、独断的であったなどと逆の評価がされたりする。

 成功を収めた企業が幸運に恵まれていたという点は見逃されているし、従って、平均への回帰がもたらす影響が無視されてしまうことになると彼らは指摘する。つまり、成功したからこそ経営者や戦略がよく見え、無意味な英雄伝説が作られることになるのであって、その逆ではない可能性が大きいのだ。

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