2016.03.10

人はなぜ変われないのか――
「見たくないものは見ない」確証バイアス

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 前回に続いて、今回も認知バイアスを取り上げよう。個人レベルでも、組織レベルでもしばしば見られ、意思決定のプロセスや結果に重大な悪影響を及ぼしかねないバイアスである。

 聞き慣れないかもしれないが、そうしたバイアスを「確証バイアス」と呼ぶ。確証バイアスはなかなか強固なバイアスであり、人が自分の信念・考え・仮説や選択の結果を支持・補強する情報だけを取り上げようとする傾向のことである。

自分と同じ意見ばかり求める

 「確証」とは確かな証拠のことだから、自分の考えが正しいことを証明するためには、自分の考えに対立したり、矛盾したりする情報がないかどうかを確かめなければならない。それがなければ、自分の考えはほぼ正しいと主張することができる。あるいは、経営上の意思決定などでは、自分の提案にも欠点はあるが、利点と欠点を総合的に見て、その提案を採用するかどうかの判断ができる。

 つまり、合理的な正しい判断をするためには、自分の意見を裏付ける証拠ばかりでなく、自分の意見に反する見解も探し出して検討しなければならないのである。ところが、人にはそれができないのだ。

 人は自分が見たいものしか見ない。見たくないものは見ないのだ。新聞やテレビを見るときでも、人は自分と同じ意見・感想を持つ人の意見・感想ばかり求める。自分と同じ意見の本ばかり読み反対側の意見は無視する。自分の選択に関してもそうだ。選択結果を合理化する物事ばかり目につく。Aというメーカーの製品を買ってBというメーカーの製品を買わなかったなら、その後はAのテレビCMばかり熱心に見たりする。

 研究者は、自分の見解に対する反証例がないかどうかを見つけようとすることは研究のイロハだと教えられる。しかし、研究者でもそう簡単ではなく、自分の考え方に合致する例ばかり取り上げようとしてしまう。ノーベル化学賞を受賞したある科学者は、ビタミンCが万能の薬品であると主張して、反例がたくさん見つかっても自説を曲げなかったことで知られている。

 事件の捜査では、容疑者Aが犯罪発生時刻に犯罪発生場所にいたのかどうかをまず調べる。アリバイとは、他の場所にいたことの証明であり、アリバイが成立すれば、容疑者Aは当該の犯罪現場に犯行時刻にいなかったことが証明できる。つまり、Aが犯人であるという仮説は成立しないことになる。もちろん、アリバイが成立しないというだけでは、Aが真犯人だという証明にはならないから、物証や動機などが調べられる。これは犯罪捜査の初歩の初歩だろう。

反証する根拠がないことを理由に正しいと主張する

 しかし、現実はなかなか難しい。以前、この連載で変わった根拠で重要な決定をした架空のMJ社の例を取り上げたのを思い出して頂きたい(該当記事)。その例では、製品Aの売上減少は、新製品Bの導入が原因だという主張と、製品Aの売上減少は、Aのデザイン変更が原因だという主張がなされた。そこでの専務の発言は次のようなものであった。

 専務:「2013年には、同時に製品Aのデザインを変更したのは事実である。その年に製品Aの販売数が減少したのであるから、他にも原因はあるかもしれないが、デザインの変更が販売数減少の原因であることは明らかである。したがって、製品Aのデザインを旧来のものに戻すべきである」

 この発言で、専務は「製品Aのデザイン変更がAの売上減少の原因である」という自分の仮説の根拠として「Aのデザイン変更後に売上が減少した」ということだけを述べている。Aのデザイン変更以外の原因、例えば、製品Aの品質そのものが悪い、ライバル他社の製品が優れていたなど――があればAの売上が減少することを、全く考慮していないのである。つまり、自分の仮説が正しいかどうかを主張する際に、他の原因を考慮せず、自分の主張に固執するだけであった。

 この時、一般社員の一人は、「専務の主張は、他の原因について考慮していないから、デザインの変更が売上減少の原因であることの証明にはなっていない」と反論した。これに対して専務は「では、私の主張が間違っているという物証を出してください」と言った。これはおかしい。一般社員は、専務の主張が間違っていると言ったのではなく、専務の主張は証明になっていない、と言っているのだ。証明する責任は専務側にあるにもかかわらず、専務は一般社員が反証する根拠をもっていない(当然だが)、のを理由に、自分の主張はあくまで正しいと強弁した。

疑うためには意図的な作業が必要

 MJ社の会議がまさにそうであったように、確証バイアスは、集団思考においてはいっそう強くなるという研究も報告されている。

 「信じる」という行為は、システム1の働きであり、「疑う」のはシステム2の役割だといわれている。つまり、人は信じやすく、疑うためには意図的な作業が必要なのだ。自分の考えに固執するのは本能的なのである。したがって、確証バイアスは、知識を持って、意識的に取り組まないと解消しないバイアスなのである。忙しかったり、疲れていたり、権威者による圧力や場の空気によってシステム2がうまく働かないと、確証バイアスに陥りやすいので注意が必要だ。

 このバイアスの解消はなかなか難しく、特効薬はないとされている。しかし、3つの策がとりあえず有効である。

第1に、確証バイアスの存在を知ること。
第2に、意識的に反例を探す努力をすること。
第3に第三者による検証であり、自分の見解を、利害関係のない第三者に判断してもらうこと

――である。

 これらの対策によって確証バイアスから完全ではないにせよ、少しでも逃れることができるだろう。

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