2016.10.11

人はなぜ変われないのかーー
計画の錯誤、"イエスマン"ばかり集めない

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楽観主義は計画の錯誤の源

 時間に関して人が最も誤解、というかバイアスがかかった判断をしがちなのが、計画に関してである。締切が半年先の契約ならそれまでに必ず出来上がると確信する、ダイエットや禁煙は始めたら必ず成功すると思って取りかかるーー。誰しもこんな経験をしたことがあるだろう。ところがそのような計画はなかなかうまくいかないことも、誰もが経験していることなのだ。なぜ計画はうまくいかないのだろうか?

計画段階では「何とかなる」「自分は大丈夫」

 実際にはうまくいかないのに、計画段階ではきっとうまくいくだろうと考えてしまうことを「計画の錯誤」という。なぜ計画の錯誤が生じるのだろうか。その根本に横たわっているのが、ほとんどの人が持っている「楽観主義」と「自信過剰」という性質である。簡単にいうと、人は計画を立てる段階で「何とかなるさ」、そして「自分(だけ)は大丈夫」と思ってしまいがちなのだ。

 自動車を運転する人に「あなたの運転は平均よりも上手か下手か」と尋ねる調査がある。「上手だと思う」と答える人と「下手だと思う」と答える人が同程度いて、残りの人は「自分は平均ぐらい」と答えるのではないかと思えるが、この調査では7割から8割の人が「平均より上手」と答えていた。つまり、多くの人は"いわれなき自信"を抱いていることになる。

 米国では、起業した人のうち、8割は自分の成功率を70%以上と見積もっているという調査もある。さらに3分の1の人は「失敗の確率はゼロ」と見なしているのだ。実際には、8割の人が失敗するのだが、「自分(だけ)はその中に入らない」と思っている人が何と多いことか。

 このように、人間には楽観主義と自信過剰とが備わっていて、それで計画を立て、実行に移していく性質がある。楽観主義と自信過剰は決して悪いことばかりではなく、人類が進化する過程では大事な性質だったはずだ。もしも、人類全般が悲観的で、自信のない者の集まりだったとしたら、人類は、自分たちの慣れ親しんだ生活圏から飛び出そうとはせず、新しい狩猟の場を見つけたり、農耕を始めたりもしなかったはずだ。その結果、厳しい自然に耐えられず滅亡してしまったかもしれない。

 楽観主義や自信過剰によるチャレンジ精神が人類の生存や繁栄に役立ってきたのは確かだ。また、これらは資本主義が今日のように発達してきた原動力でもある。新たな挑戦をする企業がなければ資本主義は成り立たない。新たな投資や新製品の開発などには常にギャンブル的要素が含まれていて失敗する可能性がある。それでも敢えて挑戦することで、思ってもみないような新商品が生み出されたり、新しい企業形態が作られたりしたのだ。しかし、楽観主義と自信過剰は計画実現にはしばしば障害となるのである。

先のことを軽視することが「計画の錯誤」を生む

 楽観主義と自信過剰のほかにも、「計画の錯誤」を生む原因がある。前々回説明したように、人には「現在志向バイアス」がある。現在を重視して、先のことを軽視する傾向である。この傾向があれば、目先の誘惑に負け、計画実行を先送りしてしまうのは想像に難くない。近い物しか見ないという本能によって、人は将来にもたらされる価値を低く見積もる。

 ダイエットに悩みながら、ケーキを1個ぐらい食べたって、3カ月後の体重には影響しないはずだ。今日1日休んだからって、仕事の実現には影響しないはずだ。そのように未来の困難を割り引いて捉え、軽く考えてしまい、それで今の行動を決めるわけだ。将来の大事なことより、目の前の快楽に負けてしまうということである。
 
 では、計画の錯誤をなるべく小さくするにはどうしたらいいだろうか。

楽観主義に陥らないためには第三者の視点が大事

 まず計画の錯誤に関する知識を持つことは重要である。誰にでも、計画の錯誤は起こる。ここから得られる教訓は、未来に起こるであろう困難は現在自分が思っているよりも「ずっと大きい」ということだ。そのことを知っているだけで、初動の心構えが違ってくるだろう。自信過剰や楽観主義に関する知識ももちろん重要である。

 次に効果的なのは「記録する」こと、そしてそれをときどきチェックすること、すなわち「フィードバック」である。どこまで計画が進んだかという進捗状況を把握しながら、以前の体験と照らし合わせていく。ダイエットでいうと、体重や食べた物を記録して、目標とする体重などとの差を意識することも効果的なはずだ。

 スポーツ選手などで好成績を残す人は、たいてい試合のメモ(記録)を取り、そこからのフィードバックをきちんと得ている。特に失敗した時の記録は大事だ。こうしたフィードバックは、可能ならば第三者にしてもらうとさらに効果的である。スポーツならコーチなどが考えられる。仕事上のプロジェクトであれば上司や同僚がよいだろう。

 どうして第三者の視点が必要なのかと言うと、たとえば、あるプロジェクトチームを作る際、そのプロジェクトに賛同し、計画立案に携わった人(要はイエスマン)ばかり集めると、楽観主義的な発想しか生まれてこないからだ。外から第三者を入れてフィードバックすることの重要性は楽観主義に陥らないという意味で大事なのである。似たようなプロジェクトを立ち上げて失敗した人、あるいは、そのプロジェクト自体に反対する人などを加えると、マイナス面も考慮に入れた、とても役に立つ話し合いができるのではないだろうか。

 ただ、企業でも公的機関でも大学でも、ほとんどのプロジェクトには、そのプロジェクトに批判的な人は入れてもらえないだろう。これは個人においても言えることで、自分だけで計画を進めようとすると、やはり楽観主義的な発想に陥ってしまうことになり要注意である。

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