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 全世界でタクシー業界に衝撃を与え、日本では福岡での「ライドシェア」のパイロット実施に行政から"待った"をかけられたUber(ウーバー)。一見タクシーを置き換えるだけに見えるこのサービスは、未来の働き方についても大きなインパクトを与えるような破壊的イノベーションを伴ったサービスであり、様々な「未来」をここから読み取ることができます。今回は、「働き方」の観点からUberをはじめとする「オンデマンド・マッチングサービス」を考えてみます。

「未来の働き方」としてのUber

 いつでもどこでも、インターネットに接続されたスマートフォンさえあれば簡単に配車ができ、料金もカード決済のため現金授受が不要なサービス――、それがUberです。既に米国の主要都市などではタクシーと並んで完全に市民や観光客の"足"として定着しつつあります。

 これはもちろん、タクシーがつかまりにくい場所での利用や、その地域の地理やタクシー事情に疎い旅行者でも簡単に移動手段を確保できるという、「利用者」側の圧倒的な利便性があるからにほかなりません。業界の破壊者の宿命で、旅行業界におけるAirbnb(エアビーアンドビー)と同様に、強烈な既存業界からの抵抗に遭っているUberも、「ユーザ視点」から考えれば長期的に定着していくのは時間の問題と言えるでしょう。

 この動きには、ユーザの利便性に加えてドライバー側、つまり働く側の利便性も大きく関与しています。「オンデマンド」なのは、サービスを受ける側だけでなく、実はサービスを提供する側も同様なのです。

 特にUberの"廉価版"サービスとも言える「UberX/XL」のドライバーは、特別な資格も不要で、仕事を始めたいときにスマートフォンに「ログイン」して配車待ちの指令を待ち、仕事を止めたくなったら、その時点で「ログアウト」するだけでよいのです。つまり勤務時間を自分の都合に合わせて自由に決められるのです。

 またUberに登録してあるドライバーの多くは、Uberと同種の、いわば競合サービス(「Lyft」など)にも同時に登録して、双方のサービスの都合のよい時間帯に合わせて好きなように「ログイン」「ログアウト」することで、その時点で都合の良い会社の仕事を自由に選んで"行ったり来たり"することも簡単にできるのです。

 もちろんこれまでも、一般に「フリーランス」と呼ばれる人たちのワークスタイルは、様々な会社の仕事を"行ったり来たり"していましたが、これほど時間的にフレキシブルではなく、本人の意思で"好き勝手に"仕事を移ることも難しかったでしょう。このように、フリーランスの究極の働き方をUberのドライバーに見ることができます。

「未来の縮図」としてのオンデマンド・マッチングサービス

 Uberのように「いつでもどこでも」近くにいる人からのサービスを受けられる仕組み、つまり「オンデマンド型のマッチングサービス」は既に米国では様々なサービスが実用化されています。買い物サービスや配送サービス、ベビーシッター、果ては「ドッグシッター」までもが容易に、街中でスマートフォン一つあればオンデマンドで呼べるようになってきており、同時に働き手の自由度をあげることにも一役買っています。

 このようなオンデマンド・マッチングサービスには働き方や仕事のあり方の将来の縮図が詰まっています。以下その要素を見てみましょう。

・個人の時代の到来

 Uberのようなオンデマンドサービスにしろ、Airbnbのような非オンデマンドサービスにしろ、マッチングサービスは、「個人と個人」をマッチングします。Uberのドライバーは配車時から個人名を顧客に通知し、終了後もその個人に対して(レストラン評価サイトのように)レーティングがされるという、完全に個人が全面に出たサービス提供をします。これは対タクシー会社やホテル会社とのやりとりだった従来型の仕事のやり方とは異なる仕組みです。

 既に弁護士や会計士、税理士などは個人がネットでレーティングされつつあり、この仕組みは日本でも広がりつつあります。始めはこのような「プロフェッショナル」の世界から始まり、さらには会社の中の個人(営業担当や接客担当など)にも広がっていくことも十分考えられるでしょう。

・専門家と素人の境界の曖昧化

 前述の通り、Uberのドライバーは限りなく「昨日まで素人だった」人が簡単に仕事を始められる仕組みを提供します。このような「プロとアマの境界の曖昧化」は、ネットの世界での著述やニュース配信活動などに始まり、様々なところで見られています。オンデマンド型のサービスはこの動き、とりわけ「フリーランス」的な仕事についての領域を飛躍的に加速していくことになるでしょう。

 もちろんこれによってサービス品質や安全の担保といったユーザー保護の視点も重要になってきますが、長い目で見た場合に拡大していくことになるでしょう。

・リアルタイムプライシング

 例えばUberでは夕方の混雑時には価格が2倍以上に値上がりし、これを受け入れるかどうかの選択肢がユーザーに提示されます。このように、価格についても管理メッシュがより細かくなり、価格設定も「時価」に近い管理が可能になっていきます。

 本連載で以前、足利フラワーパークの事例(第4回「『固定』という常識を打ち破る」)について紹介しましたが、このような動きも様々な世界で展開されていくことになるでしょう。

 ここまで述べてきた「オンデマンド・マッチングサービス」については、顧客へのサービスという点でも無限の展開の可能性を秘めていますが、同時に組織や個人としての働き方という点でも様々な可能性が考えられます。

 仕事も基本的には「頼む人」と「頼まれる人」がいて、適切はスキルが「いつでもどこでも」提供されることが理想です。ICTはますます働き方にも自由度を与えていくことになるでしょう。