2015.08.07

人はお金のために働くのかーー
内発的モチベーションを弱める原因を探る

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世の中にあるいろんな仕事。果たして給料は仕事内容や仕事の魅力を伝えるものなのか?

 前回見たように、クラウディング・アウト効果が生じる、つまり外発的インセンティブが内発的モチベーションを弱めてしまうのはなぜだろうか。

 原因は3つ考えられる。(1)心理学の「自己決定論」、(2)賃金や給料などを受け取る側に伝達される情報の解釈、(3)意識の集中によって周囲が見えなくなることーーである。順に見ていこう。

業績給で内発的モチベーションは低くなる?

 人間には、自分から行動を起こしたという「自律性」、自分は優れているという「有能感」、そして、他者との交流がもたらす「関係性」の3つが満足の得られる人生を送るために必要不可欠であるーーというのが心理学の「自己決定理論」の核心である。これは、仕事や給料についても当てはまる。

 この3つが満たされるような活動に対しては、それを行う内発的モチベーションが高くなる。一方、それらが損なわれるような活動に対しては、内発的モチベーションは低くなる。業績給などの外発的インセンティブが与えられ、「自分はコントロールされている」と感じると自律性が損なわれ、さらに有能感や関係性も減少することが確かめられている。

 自分自身で主体的に活動をしているのではなく、お金や経営者に振り回されていると思うようになると、仕事に取り組む内発的モチベーションは小さくなってしまうのだ。さらにその活動に対する満足度や心理的な幸福感も低下することが分かっている。固定給の場合、このようなことは起こりにくい。

給料が仕事内容や仕事の魅力を伝える?

 クラウディング・アウト効果の原因として、受け取る側に伝達される情報の解釈が挙げられる。賃金や給料などの外発的インセンティブは、それを受け取る人に対してさまざまな情報を伝えることであり、伝達される情報の解釈次第で、内発的モチベーションが低下するのである。

 給料は仕事内容に関する情報を伝えることがある。時給850円だったら普通の仕事、3000円だったら、例えば遅い時間だったり、体に負荷がかかったりする仕事、5000円以上なら......というように時給が高いからといって飛びつくと後で痛い目に遭うかも知れない。時給が高い仕事は、お金目当てなら喜んでするだろうが、それ以外の目的では進んですることはあまりないだろう。このような情報は、ある程度の社会経験を積んだ人なら給料の額から読み取れる。

 仕事を達成するために必要な従業員の能力についての情報を雇用者が持っている場合には、給料の額が高いことは自分の能力が劣るシグナルだと従業員が受け取るかもしれない。つまり、能力が劣るのに報酬が高い場合は、「無理かもしれないが、高いお金を払うから頑張れよ」というサインであると働く側は受けとる可能性がある。すると、働く側は自信を失い、一生懸命に仕事をする動機が減少することになろう。

 違うケースもある。仕事がどのくらい魅力的なのかについて、雇う側はよく知っているが、働く側はよく分かっていない場合である。この場合、給料は仕事の魅力についての情報を伝えることがある。つまり、給料が高いのは、「仕事自体に魅力が乏しく面白くないから、せめてお金のために働いてくれ」というサインだと働く側が受け取るわけだ。こうなると、内発的モチベーションは低下するだろう。例えば危険とされる仕事は、それに魅力を感じる人はいるものの、多くの人は危険なことに魅力を感じるわけではない。それが時給の高さに現われているのである。

お金に意識が行き過ぎると他が見えなくなる?

 人間は1つのことに意識が集中すると、他が見えなくなったり疎かになったりすることもクラウディング・アウト効果の原因として挙げられる。例えば、運転中に携帯電話が禁止されているのは、通話に夢中になると「心ここにあらず」の状態になり、運転に必要な注意が散漫になる。

 人間は、より快適、よりよいもの、よりよい状態を目指す動物である。人間の欲望には限りがなく、飽くなき快適やお金を求め、よりよい品質の商品を求める。そして行動することでどんな「良いこと」が得られるのかを、3つのフレームで考えている。第1が「快苦フレーム」といわれ、快適・安楽や少しの刺激を求めること。第2が「損得フレーム」であり、金銭・名誉・称賛・評判などを求めること。第3が「規範フレーム」で、規範・モラル・義務を遂行することである。

 これらのフレームは、どれか1つだけが機能するということはないが、1つのフレームが前景に据えられて目立つようになり、そこに意識の焦点が定められると、他のフレームが見えにくくなる。そこで、お金のことが強調されてそれに意識が集中すると、視線が活動そのものからお金に移ってしまう。

 お金が前景に出てくることで、そこに意識が向いてしまうのだ。つまり利益フレームが目立てば、快苦フレームや規範フレームは背景に退き、「お金お金」と言われれば、仕事の面白さや仕事をする規範などには注意が向かなくなり、内発的モチベーションが抑えられてしまうことになる。

成果主義は失敗だった?

 成果主義は90年代中頃から、日本経済再生の切り札として華々しく導入された。しかし結局失敗に終わったのではないかとして、それを見直す企業が増えている。

 成果主義の誤りの原因の一端は、クラウディング・アウト効果である。一般企業のみならず、公務員や教員、さらにボランティア団体にまで成果主義を取り入れようとする動きが見られるが、これらの職場では内発的モチベーションがきわめて重要である。成果主義のような外発的インセンティブは、マイナスの影響を及ぼす可能性がきわめて大きい。

 またクラウディング・アウト効果は、何も雇う側と働く側に限定されるものではない。親が子どもに対しても、教師が生徒に対しても同じことが当てはまる。

 親や教師が、小遣いやご褒美で子どもや生徒のやる気を引き出そうとすると、親や教師は「自分の能力や意志を疑っている」と、子どもや生徒が受けとる可能性がある。あるいは「面白くない課題だけどやらせるために報酬を用意している」と受け取ることもある。そうなると子どもや生徒の内発的モチベーションが低下することになる。

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