2015.08.31

人はお金のために働くのか――
成果給は最適解か?

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 前回までは、クラウディング・アウト効果、つまり外発的インセンティブが内発的モチベーションを弱めてしまうというマイナス面を考えてきた。では、成果給や業績主義はよくないと単純に言えるのだろうか。そうは言えない点が、難しいし興味深い点でもある。

外発的インセンティブが内発的モチベーションを高めることも

 つまり、場合によっては、外発的インセンティブが内発的モチベーションを高めることもあるのだ。ではどんな場合がそれに該当するのかを見てみよう。この外発的インセンティブが内発的モチベーションを高める効果のことを「クラウディング・イン効果」という。

 クラウディング・イン効果が発生する第1のケースは、「参加」である。つまり、経営上のさまざまな意思決定プロセスに従業員が参加することによって、外発的インセンティブが内発的モチベーションを高めることが分かっている。意思決定プロセスへの参加は、共同決定と言われることもある。経営者が従業員を信頼している証しであると従業員が捉え、従業員の内発的モチベーションを高めるのである。

 たとえ年収が同じであっても、基本的に何でも自分で決められる自営業者の方が、雇われている人よりも満足度が高いという調査結果もある。前回述べた自己決定理論における、自律性や有能感が持てるような環境や制度であるならば、クラウディング・イン効果が期待できるのである。企業ではないが、政治参加や政策決定プロセスへの参加によって納税意識が高まり、積極的に納税する人が増え、脱税が減少するという研究もある。

 第2に、「手続きの公正さ」が挙げられる。経営者が、従業員の給与・処遇などを決定するにあたって、特定の人やグループに肩入れすることなく公平に扱い、従業員に感謝や敬意を払うことが従業員の内発的モチベーションを高めることが分かっている。

 第3に、従業員にプラスに働くシグナリング効果がある。前回述べたように、給与はさまざまな情報を伝える。例えば、提示された給与の額が、その人には希少価値があり、「余人には代えられない」という意味を伝えることもある。プロスポーツ選手の契約金・年俸や、タレントのテレビ番組やCMの出演料などは、その人がかけがえのない存在であり、「他人の出る幕はない」という情報を伝えるものである。

 契約金や年俸が低いことを知って、「自分はこの程度の評価しかないのか」と思えばやる気が失せることもあるだろう。プロ野球選手が契約更改に望んで、「球団の自分に対する評価が低かったから、モチベーションが下がった」という意味合いの発言をすることがあるのはこれを示している。このようなケースでは、成果給などの外発的インセンティブがかえって内発的モチベーションを高めることになるのだ。

「やや高い水準の固定給」がよい結果を引き出す?

 第4に、"寛大な"固定給がある。給与は、経営者からの従業員に対する善意・感謝のしるしと捉えられると従業員の内発的モチベーションは増加する。市場で決定されるよりもやや高い水準の固定給は、従業員の自尊心や、有能感を高め、十分な努力とよい結果を引き出すことが、さまざまな実験や実証研究によって分かっている。

 ある行動経済学者がある実験を行った。その実験では、経営者が従業員に対する支払い方法について、固定給と成果給のどちらかを選べるという設定をした。実験では、少し高い"寛大な"固定給は、成果給に比べて「経営者が従業員を信頼している証しだ」と従業員が捉えることが示唆された。その結果、従業員は成果給に比べて"寛大な"固定給の場合の方が、より高い成果を挙げたのである。

 以上、4回に渡って、成果給に代表されるような外発的インセンティブが、従業員にどのような影響を与えうるか、特に従業員の内発的モチベーションに対する影響を見てきた。結論として言えることは、成果給のような外発的インセンティブは、「成果を向上させるのに間違いなく役立つ」という思い込みには、確かな根拠はないということである。確かに、成果給などの外発的インセンティブによって、成果が上がることはある。高い給料がもらえればより成果が上がることはあり得る。

 しかし、同時に、従業員の最も重要な動機である、内発的モチベーションは下がる可能性があることを考慮に入れておかなければならない。そのために、長期的には成果が減少する心配もあるし、成果がきちんと測れないような仕事に対しては、マイナスに働く可能性が大きい。特に、それ自体が「面白い」「社会的意義がある」「創造的である」という仕事では、成果給はクラウディング・アウト効果を引きおこし、内発的モチベーションを引き下げる可能性が高い。

 端的に言えばそのような仕事に対しては、成果主義は止めた方がよい。一方、単純作業的な業務では成果給は力を発揮する可能性が大きい。元々面白いなどの内発的モチベーションが欠ける仕事では、お金のために働くというモチベーションの方が優るからである。この場合でも、成果として考慮されない活動に対する十分な配慮が必要である。

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