2015.09.15

人はお金のために働くのか――非金銭的インセンティブの効果

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 働いてお金を受け取るということは、単なる経済取引ではない。もちろん、労働力と引き替えにお金を受け取るのであるから、経済取引であることに違いはないが、それだけではなく、人と人との関わりという社会的関係が含まれる。同僚同士だけでなく、上司と部下、経営者と従業員の間にも、このような人間関係は自然に発生する。

 社会的関係をうまく運ぶためには、社会規範が重要となる。お金の話をやたら持ち出すのはタブーである。例えば、友人が夕食に招いてくれたケースを考えてみよう。招かれた方は、菓子や花、お酒などを手土産として持っていくことはよくある。間違っても、千円札を差し出すことはないだろう。おいしい夕食の後、別れる際にも、「おいしかった」と言って金銭を渡すことはないだろう。そんなことをすれば友人は二度と招待してくれないどころか、人間関係そのものにひびが入るかもしれない。誕生日のプレゼントに現金を贈ることがないのも同じ意味である。人間関係にやたらとお金を持ち込むのは社会規範に反する行為なのである。

経営者からの"贈り物"はお金がいいとは限らない

 これと同じことが職場でも生じ得る。経営者は、従業員の働きに対して、感謝を伝えたり、働きぶりや人格を承認したりすることが、従業員にとってモチベーションを高めることになるのは容易に分かる。では、感謝や承認をどのように伝えるのが効果的なのだろうか。

 次のような興味深い実験がある。図書館で図書データをパソコンに打ち込む作業をやってもらう。その際、(1)時給だけのグループ、(2)時給は同じだがそれにプラスして時給より少し低い程度の現金をもらうグループ、(3)時給に加え、魔法瓶((2)の現金と同額の価格シールが貼られていて、価格が分かる)を渡すグループ、(4)時給に加え、魔法瓶(価格は分からない)を渡すグループ、の4通りの条件で実験した。

 その結果、(1)の時給だけより、(2)の時給プラス現金グループの方が仕事ははかどったが、その差は小さかった。しかし、(4)の時給プラス魔法瓶(価格は分からない)グループは、25%も仕事がはかどったのだ。同額でも現金より魔法瓶の方がよいことになる。そして、魔法瓶は価格が分かる場合と分からない場合とでは差は出なかった。品物の金額が問題ではないのだ。このとき、魔法瓶はわざわざきれいに包装してあり、リボンまで付けてあった。

 この実験は何を物語っているのだろうか。経営者が、従業員に対して親切な扱いをすると、従業員はそれに報いようとする。このような関係は互酬性とか返報性と呼ばれている。親切にされればそれにお返しするという、人の持っている性質である。言い換えれば、贈り物を交換する関係と言ってもよい。経営者から従業員に贈り物をすると、従業員はより一生懸命働くという"贈り物"をお返しするということである。

 経営者からの"贈り物"としてはお金がよいとは限らない点が重要である。この実験では、品物が、同じ価値の現金よりも、従業員のモチベーションを引き出したのである。魔法瓶を包装してわざわざリボンを付けるといった手間をかけたという「気持ち」が大事なのである。

 さらに面白いことに、従業員に「現金と魔法瓶のどちらがよいか」という「好み」を聞くと、大多数は「現金」を選んだことである。単に好みを聞いただけでは、感情の要素は入ってこない。品物に気持ちが込められると、従業員から返報性を引き出し、それが努力や成果に結実するのだと考えられる。

非金銭的インセンティブで仕事満足度は高くなる?

最近、経営者や研究者の間で、「魔法瓶」のような金銭でないインセンティブ、すなわち非金銭的インセンティブの重要性や有効性が強調されるようになってきた。米国のある調査では、営業部門の78%、非営業部門でも67%の企業が、非金銭的なインセンティブを用いているという。

 非金銭的インセンティブによって仕事の成果が上がるばかりか、従業員の仕事に対する満足度も高くなることが分かっている。非金銭的なインセンティブの最も重要な機能は、それが経営者からの感謝や承認を伝えることができ、また仲間からの承認や賞賛を得ることができるという点である。前回述べたように、それは、従業員の内発的モチベーションを高めることにつながる。

 では、非金銭的なインセンティブとしてどのような方法が考えられるだろうか。品物の他にも商品券や引換券、表彰や休暇などの方法もある。在宅でもいいし、職場に出勤してもよい、あるいはカフェでもよい、など働く場所を自由に選択できるようにするといったことも考えられる。職場への出勤義務があるとしても、その時間を自由にするという方法もある。もっと大胆に、週休3日にする、4日にするといった方法もある。有給休暇の日数を増やすとか、いっそのこと数カ月から半年の休暇などを与えてもよい。

 大きな、より意義のある、面白い仕事を新たに任せるというのも有効な手段であろう。

 意思決定プロセスに参加させるのもよい方法だ。前回述べたように、「参加」は、クラウディング・イン効果が発生する1つのケースである。つまり、経営上のさまざまな意思決定プロセスに従業員が参加して自由に意見を述べられるようにすることによって、モチベーションを高められるのである。

 経営者にとって、金銭的報酬よりもコスト削減になる可能性は大きいし、職場での人間的な結びつきを作ることもできる。

 いずれの方法を用いるにせよ、非金銭的インセンティブをプラスの感情と結びつけることが重要である。魔法瓶の例のように包装やリボンなどの手間がかけられない場合には、物や時間を授与する際に気持ちを込めることが大事である。セレモニー、笑顔、感謝の言葉、社内広報などを使うとよいだろう。返報性は職場でも有効であり、そこでは「気持ち」が大事なのである。

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