2016.06.15

マイクロソフトのリンクトイン買収が表す本気度

このエントリーをはてなブックマークに追加
linkdin_main.png

両社の首脳陣。左からリンクトインCEOのジェフ・ウェイナー、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ、リンクトイン会長のレイド・ホフマン(出典:米マイクロソフトのニュースリリースより)

今週頭(2016年6月13日)にいきなり飛び込んできた、マイクロソフト(以下MS)がリンクトイン(LinkedIn)を巨額買収したニュース。両社それぞれの切迫した事情がうかがえます。

シリコンバレーではここ最近、事業の垂直戦略やクラウド化など、事業構造そのものの変化が加速しています。ソフトウェア企業が半導体をつくる時代になったり、逆にハードウェア企業がAI(人工知能)やネット事業と密にリンクするようになったりと、大企業になればなるほど複数の異なる事業体を抱えるようになってきています。

そうしたなか、IT業界の古参となったMSやオラクルなどは、クラウドビジネスをうまく取り込めるかどうかが今後の社運を決定づけるキーファクターとなり、各社ともビジネス戦略を大きくシフトするために文字通り必死な状況が続いているわけです。

サティア・ナデラがCEOに着任してから、MSはものすごい勢いで改革を進めています。実際"ナデラ版の新生MS"として、現在の同社は企業文化、製品戦略などの面で相当変化した感があります。

アメリカでは停滞したビジネスを立て直すためだったり、非常に有望ではあるが経験値の少ない創立者のスタートアップに必要に応じてプロの経営者が登板したりします。古くはIBMのルイス・ガースナー、Googleのエリック・シュミット、Facebookのシェリル・サンドバーグなどがそうです。多額の報酬が与えられることが多く、それ相応のパフォーマンスが求められ、ダメであれば即退場のためプレッシャーも大きいものです。それゆえ新しく着任したトップは、自分がリードをとったことによって会社がいかに変わったか、どれだけ改善したかを明確に内外に示すことが求められるため、時にはリストラを含めた相当ドラスティックな改革を実施することがあります。

しかしMSはまだクラウド事業に舵を取りきれていません。今回の買収劇はリンクトインを取り込むことで、MSのクラウドサービスの利用者を広げていく目論みですが、そのシナリオにはもちろん不確定要素もいろいろと見受けられます。リンクトイン/クラウドサービスというつながりが今一つピンと来ないし、また、MSはヤマー(Yammer)というビジネスソーシャルツールを2012年に買収していますが、ヤマー製品でその後目立ったニュースは伝わってきません。

一方のリンクトインですが、欧米のプロフェッショナルには必須アイテムとなっているものの、ここしばらくシリコンバレーで聞こえていたのは同社の業績が頭打ちだということ。株価も一年前からなんと43%も下がっていた模様です。同社のシェアホルダーから、相当シビアに打開策が求められていたであろうことも想像に難くありません。

また、カウンターカルチャーが根底にあるシリコンバレーでは、もともとエスタブリッシュメントに対して反発する気骨(?)の精神が息づいており、大企業然としたMSを敵対視する風潮がこれまでありました(特にバルマーMS時代は、邪悪の権化としてみられることも多かった)。ナデラCEOとなってずいぶんその印象が変わってきたMSが、どこまで両社の企業文化の違いを乗り越え、かつリンクトインをうまく組み込めるかがポイントかと思われます。

経営者としてはMSのナデラ、リンクトインのジェフ・ウェイナー両者とも本当に素晴らしいリーダーだと思いますが、そういった人材をもってしても、IT業界のメインストリームで長年生き残っていくのは相当難しい。前述した通りウォールストリートからの圧力も大きいですし、業界がどんどん変化していくため、たとえ当面の業績がそこそこのものだとしても、先を見越して自らもどんどん変わっていくことがデフォルトで求められます。

一方、これまで幾多の買収劇が繰り広げられてきたこの地では、今回の巨額ディールもすぐに"One of them"として片付けられていくのだと思います。

そんな感じで、リンクトインのような中堅優良スタートアップも、MSのような資金源豊富な大企業も日々全力で戦っている米国IT業界。安定指向で現状維持に陥ってしまうことが一番のリスクということを皆が身を以て体感しており、前述したように未確定要素/リスクを承知した上で賭けに打って出ます。時に大きな摩擦を生み、幾多の犠牲が代償として払われつつ企業のクローズ、統合再編が行われ、結果としてIT産業の活況が維持されている。こういった体当たり真剣勝負が行われているなか、果たして日本の企業はどう立ち向かっていくのか、多少気がかりではあります。

このサイトに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。著作権はチームスピリット、またはその情報提供者に帰属します。掲載情報は、記事執筆時点のものです。

© 2016 TeamSpirit Inc., All Rights Reserved.

このサイトについてお問い合わせ