2016.01.08

人はなぜ変われないのか――
認知バイアスから逃れられない理由

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 我々は物事を判断し、何かを決定するときには、直感に頼ることもあれば、よく考えた上で決めることもある。このように人間の判断や決定は脳内の2つのシステムで担われていることが分かっている。これらは、心理学者や脳科学者によって、それぞれ「システム1」と「システム2」と名付けられている。

人の判断や決定は2つのシステムが担う

 システム1は、直感や感情に基づくものであり、「反射システム」と呼ばれることもある。システム1は、無意識のうちに自動的に発動し、素早く、労力をかけずに、判断を下し、同時並行で複数の作業をこなせる(マルチタスク)。システム1には、知覚と記憶という完全に自動的な活動も含まれる。

 これに対してシステム2は、「思考システム」と呼ばれることもあり、思考・熟慮をつかさどる。システム2は、意識的にする必要があり、時間がかかり、労力やエネルギーを要する。また、一時に一つの作業しかできない(シングルタスク)。システム1は常に働いていて、スイッチを切れないが、システム2は"怠け者"であり、なかなか起動しないし、起動しても長続きしないという特徴がある。

 システム1は素早く判断して、直ちに行動の指針を与えられるという長所を持つ。システム2が時間をかけて結論を出していたのでは間に合わないような切迫した状況において、システム1はきわめて有能である。たとえば、ヘビのようなモノを見たら「怖い」と思い、すぐ逃げるといった行動を決断させるのは、システム1の働きである。

 このとき、「本当にヘビだろうか」「毒はあるのか、ないのか」などとシステム2が判断するまで逃げずにいたら、噛まれて致命傷を負うかもしれない。それがたとえヘビではなかったとしても、とりあえず逃げるのが得策であり、その行動を引き起こすのはシステム1である。

システム1はバイアスがかかった判断をしやすい

 生活上の大抵の意思決定は、システム1で十分である。日常の買い物や世間話なら、いちいちシステム2による熟慮を経なくても、システム1の直感的な素早い判断で十分に事足りる。しかし、重要な決定においては、よく考えて決定する、すなわちシステム2を起動させることが必要となる。

 経営者は忙しく時間に追われているので、システム1に頼りがちであると言われている。システム1に信頼を置き、長年特定の分野での経験に培われた直感を信じる人も多いだろう。もちろん、長年専門的な経験を積んできた分野に関してであれば、システム1の判断に頼っても問題が生じないことも多い。

 しかし、システム1は間違いを犯しやすいし、バイアスがかかった判断をしやすいという弱点を持っている。前回取り上げたMJ社の役員たちのように、直感的な判断だけに頼ると間違いが生じる可能性がある。

システム2がシステム1の判断を修正できない場合も

 一方、システム2には、システム1の判断・決定を評価して、それを受け入れてゴーサインを出したり、逆にシステム1の判断や決定を検討して、それを覆す役割もある。さらに、自己規制(セルフコントロール)もシステム2の重要な役割である。

 だが、時間的制約(タイムプレッシャー)があると、システム1の判断をシステム2が修正できないために間違いが起こることもある。次の問題に3秒で答えてみてほしい。「ノートと鉛筆を買った。合計110円で、ノートは鉛筆より100円高かった。それぞれいくらか?」。

 「ノート100円、鉛筆10円」と瞬時に思った人が多いのではないだろうか。少し考えればこの答えは間違いだと気づくが(念のため正解は「ノート105円、鉛筆5円」)、「3秒で答えなさい」と言われると、直感的に「ノート100円、鉛筆10円」という答えが頭に浮かんでしまう。これを正しいかどうかシステム2で検討する時間がないのが、誤答の原因である。

 この他にも、知識の不足や考えることが苦手といった理由で、システム2がシステム1の誤った判断を修正できないことがある。

システム1の判断根拠は「ヒューリスティック」

 さて、システム1はどのようにして判断を下すのだろうか。システム1が、厳密な解を得られる方法であるアルゴリズムを使うことはない。システム1が判断の根拠として用いることが多いのは、「ヒューリスティック」である。ヒューリスティックは、手がかり、近道、目の子、経験則などと言われるが、手っ取り早く判断を下すための基準である。

 ヒューリスティックを用いることで、素早い判断ができるのはよいが、合理的とは言えない様々なバイアスを生じさせることもある。自分がヒューリスティックを用いていること、いわんやそれにとらわれていることに気づかない点は要注意である。

 システム1が用いているヒューリスティックの例をいくつか挙げよう。これらのヒューリスティックから、しばしば「判断バイアス」や「認知バイアス」と言われる偏った判断が生じることになる。

・利用可能性ヒューリスティック:「最近見聞きした」「自分が体験した」といったような、記憶に残っていて、すぐに頭に浮かぶことは「よく起こる」と考えてしまうことである。悲惨な交通事故を目撃すれば、交通事故はよくあることと判断してしまう。
・代表性ヒューリスティック:人物や事物がある集団に属するかどうかを判断するとき、集団のイメージや固定観念にどのくらい似ているかによって判断してしまうこと。「東北人は粘り強い」という固定観念を持っていると、忍耐強い人がいると東北出身だと判断する。
・同調性(大勢順応性)ヒューリスティック:「多数の人がしている」「考えている」ということに考えなく従ってしまうこと。
・感情ヒューリスティック:第一印象や直感で「何々である」と思い込むこと。好きか嫌いか、あるいは感情的な反応が強いか弱いかで物事を判断することである。

 このようなヒューリスティックの使用によって生じる、合理的でない偏った判断や決定は、認知バイアスと呼ばれることが多い。我々の判断や決定は認知バイアスの影響からなかなか逃れることはできないのである。

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