2016.08.10

人はなぜ変われないのかーー
時間のバイアス、将来価値より現在価値を重視!?

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 今回と次回は時間に関するバイアスを見てみよう。人は時間にまたがる意思決定をどのように判断し、どのようにしているのだろうか。例えば、商品を買って、クレジットカードで支払いをすると、商品の入手時期と支払い時期が異なることになる。このように利得や損失が得られる時期と、支払いの時期とが違っているような選択を、異時点間の選択という。このような状況で合理的な選択ができるのかということが問題となる。「ダイエットをする」と誓ったり、「今日中に仕事を片づける」と気合いを入れたのに、つい目の前のケーキに手を伸ばしたり、ゲームに熱中してしまって、肝心なことは後回しにするといったことは誰でも経験しがちのことである。

将来の価値を割り引いて考える傾向

 まず、人は将来の利得や損失の価値をどのように評価するのだろうか。今日の1万円は今日使えば効用を生み出すが、1年後の1万円は現時点では効用を生まない。そこで、来年の1万円より今日の1万円の方を高く評価するのは自然である。このように、現時点で将来の価値を低く見ることを「割引」という。将来は不確実であるから、実際に1万円が手に入れられるかどうかは分からないし、自分の好みも変わるかもしれない。そこで、人が将来のものよりも現在持っているものを重視する、すなわち将来の価値を割り引くのは当然のことになる。

 別の要因もある。以前説明したように、人は損失回避性という性質を持っている(「損失を回避する」本能が行動に影響)。消費や受け取りの時期を先延ばしすることは損失と考えられ、損失を回避しようとする性向によっても、人は将来の価値を割り引くのである。さらに、哲学者のデレク・パーフィットは、現在の自分と将来の自分とは別の人間であって、自分と他者の関係と同じであると言う。自分と他者の間が遠くなれば関係が薄くなるように、現在の自分と将来の自分もある程度遠い関係なので、将来の自分が得るであろう効用を、現在の自分が割り引いて考えるのはごく自然だと言う。

現在を特に重視、目先にとらわれる「現在志向バイアス」

 では、人がよく行う将来の価値の割引法には、どんな特徴があるだろうか。それは合理的と言えるのだろうか。まず第一に、価値が実現するのが現在に比べて、少しでも後になると、その価値を大きく割り引くという特徴がある。これは、人々が現在を特に重視して目先のことにとらわれることを意味するため、「現在志向バイアス」とか「近視眼性」と言われる。

 ほんの少し先になっても大きく割り引くことになるので、人の「不忍耐」とか「せっかち」な性向を表わしているとも解釈できる。割引の大きさ自体は、時間が経つにつれて、徐々に小さくなることも実験的に確かめられている。詳しいことは省略するが、このような割引方法を数式で表わすと、双曲線で表わされるため、「双曲型割引」と言われることが多い。

 人は将来の価値に対して、このような双曲型割引をしていると考えられるが、すると、図のような不合理な現象が生じることがある。図には、将来の小さな利得Aとさらに将来の大きな利得Bのそれぞれが手に入る時点での効用と、それらの割引された現在の効用が示されている。最初はBの効用が大きく、Aの効用は小さいとみなすが、時間が経ってAの実現が目前になると、効用の大小が逆転してAがBより大きくなることがある。

 このような現象は、「時間的非整合性」と呼ばれている。たとえば、前の晩に寝るときには「明日は必ず朝6時に起きよう」と思っていても、いざ朝6時になるとなかなか起きられなかったり、「この仕事は明日には必ずやる」と誓ったのに、当日になるとまた「明日には本当にやるから、今日は遊んでも問題ない」と考えて、結局ずるずると先に延ばしてしまったりすることだ。

 早起きすることがBという高い効用をもたらすことは分かっているのに、直前には眠さに負けてAの方が魅力的になってしまう。禁煙、ダイエットなどの場合やクレジットカードを使いすぎたり、ローン返済ができずに自己破産したりするのも同様である。目前の小さな利得に目を奪われて、後で得られるはずの大きな利得を失ってしまうことになるのだ。

現在重視の性向は進化的には当然

 ところで、このような現在を重視する性向は、進化的にはごく当然だと考えられる。人類が進化してきた環境では、眼前においしい食料があればとりあえず確保するのが適応的、つまり進化的には合理的だからである。おいしいものがすぐ手に入るのに我慢して、次にしようなどと考えたら、他の人や動物に採られてしまうかもしれない。それは下手をすると命にかかわる。また、将来のために取っておこうと考えるのも意味がない。貯蔵手段がないからである。この場合も下手をすると命にかかわる。いずれにせよ、目先のことだけ考えて行動するのは、進化的にはきわめて合理的なのである。そこで、このような将来を重視し、目先の利益を重視する性向を人は強く持っているのである。

 興味深いことに、近い将来の小さな利得と遠い将来の大きな利得との間の選択をしている際の脳の活動を調べると、異なる部位が活性化していることが分かっている。近い将来の小さな利得に対しては感情を司る部位が活性化し、遠い将来の大きな利得に対しては、冷静な認知を行う部位が活性化するのである。意志の力が感情と結びついた欲求を抑えることができるかどうかが、合理的行動ができるかどうかのカギとなるのである。

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