2016.09.12

人はなぜ変われないのか――
良いことは後回し? 時間的に先の方が本質的?

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結婚が近づくにつれてあれこれ悩んでしまうマリッジブルーも一種の「時間解釈理論」(写真はイメージ)

 今回も前回に引き続き、時間にまたがる意思決定(異時点間の選択)について見ていこう。異時点間の選択には、いろいろと面白い(が合理的とは言えない)性質がある。

 たとえば、5年間の給与の契約方法が3つあるとする。1つは、毎年200万円、5年間計で1000万円、2つ目は、1年目220万円で、以降2年目210万、3年目200万、4年目190万、5年目180万円というように、総額1000万円は変わらないが、金額がだんだんと低下するパターン、3つ目は、逆に、1年目180万円、2年目190万、3年目200万、4年目210万、5年目220万円というように、総額1000万円でだんだんと上昇するパターンである。

良いことは後に起こることを好む?

 合理的に考えると、最初が高くて徐々に低下していくパターン2がもっともよい。なぜなら、早い時期に多くの金額を得られれば、それを貯蓄や投資することで、最終的にはより多くの金額が得られるし、途中で退職することになっても、より多くもらえるからである。しかし、どれを好むかを聞くと、この減少パターンを選ぶ人は1割程度しかおらず、一定額を選ぶ人も少数派であり、大多数は上昇パターンを好む。

 人は徐々に状態が良くなることを好む傾向にあるようだ。これは以前紹介した損失回避性によって説明できる。たとえば今年の給料が参照点になれば、次年に給料が下がるのは損失のように受け取られる。これを避けるのが人間の性向であるから、上昇する給料の系列が選ばれることになる、消費についても同様の判断がなされることが分かっている。

 さらに人には、「よいことは少し後で起こる方を好む」傾向がある。「待ち遠しい」とか「わくわくしながら待つ」ことに効用を見出すのである。私が学生に尋ねたこんな実験がある。

 無料の夕食招待券が当たったので、「高級フランス料理」と「地元のラーメン屋」のどちらがよいかを尋ねたところ、94%がフランス料理を選んだ。次に、時期を選べるとして、「1カ月後の週末の夜の高級フランス料理」と「2カ月後の週末の夜の高級フランス料理」のどちらがよいかという質問には、76%が1カ月後を選んだ。この選択は自然である。同じフランス料理が2カ月後では先すぎるので、1カ月後を選んだのである。

 ところが面白いことに、「1カ月後の週末の夜の高級フランス料理+2カ月後の地元のラーメン屋」と「1カ月後の地元のラーメン屋+2カ月後の週末の夜の高級フランス料理」との間の選択では、後者が70%であった。ここでも状態が良くなることを好む傾向が見られる。またこの選好は、前回説明した割引率について言えば、マイナスの割引率を意味することになり、合理性にはまったく反するのである。

時間的な差異によって着目する観点が異なる

 人は将来得られるものの価値を考えるときに、それを割引するだけではない。もっと異なる点についても違った見方をする。人が何かの価値を評価するときには、それを心の中で解釈し、その解釈が評価や選好を決定している。そしてその対象が時間的に離れている場合と、時間的に近い場合とでは、同じ対象であっても着目する観点が異なるのである。

 例えば、友人と旅行に行くことを考えると、旅行がまだ先の場合には、よい景色、おいしい食事、友人との楽しい体験や会話などの旅の目的を思い描くことが多いが、旅行の日が近づくにつれて、持っていくもの、待ち合わせ場所、駅や空港への行き方など些細なことが気になってくる。つまり、時間的にまだ先の場合には、その活動のより本質的な部分(これを高次レベルの性質という)、つまり、行き先、旅行先での活動、仲間との交流など高次な部分が気になるが、旅行の日が近づいてくると、持ち物、駅までの時間などより些細な部分(低次レベルの性質という)が気になってくるのである。

 ちょうど遠くに自動車があると、それが自動車であることは分かるが、細かいことは分からない。近づいてくると、車種や色などがはっきりと分かってくる。このように、離れている対象に対しては、より本質的な高次レベルの観点、近い対象に対してはより些細な低次レベルの観点が気になるという性質は、物理的な距離ばかりでなく、時間的距離に関しても成り立つのである。遠くからは森全体だけが見えて個々の木々は見えないが、近くになると木々の一本一本は見えても、逆に森全体の様子はつかめないのと同様である。

 異時点間の選択をこのように説明する理論を「時間解釈理論」というが、この理論は直感的に分かりやすいし、説得力にも富んでいる。さて、前回述べた「現在志向バイアス」を時間解釈理論で説明してみよう。将来の利得の評価の際には、利得の大きさが高次レベルの性質であり、時間的遅れは低次レベルの性質である。従って、遠い将来の評価では高次レベルの性質である利得の大きさが気になるが、近い将来を評価する場合には、利得の大きさよりも、低次レベルの性質である時間的遅れが重視されることになり、そこで少し先のことであっても大きく割引されることになる。遠い将来に関しては利得の大きさが高次レベルであって問題となるが、近い将来に関しては、低次レベルである時間の遅れが重視されることになるのである。

 ホームパーティを企画したが、パーティの日がまだ先だと思っているうちはパーティが待ち遠しいが、その日が近づいてくると、食事の準備や集合時間、家の飾り付けなど細部が気になりだし、いっそパーティを中止したいとさえ思ってしまうこともある。時間の経過によって、好みが逆転したのである。同様のことは、楽しみにしていた旅行の日が近づくにつれて旅そのものが億劫になってきたり、結婚式を直前に控えてマリッジブルーになったりすることにも見られる。

 異時点間の意思決定というのはなかなか複雑な要素が含まれていて、一筋縄ではいかないものである。

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