2015.06.12

未来の働き方を考える
第5回「人工知能」が顧客の心をつかむ?

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創造的な音楽の世界にもヒット曲予測といった形で人工知能が浸透しつつある

 定型的な作業や論理を得意としているコンピュータですが、徐々に創造的な世界へも進出しつつあります。創造的作業の代表とも言える音楽の世界にもヒット曲の予測システム(Music X-rayのWebサイトなど)という形で人工知能の「活動領域」が広がりつつあります。同じくIBMのWatsonは、キーワードからそれなりの料理のレシピを自ら作り上げることにも成功しています。

 しかもいかにもコンピュータらしいのは、作曲でいえば、大量の過去のヒット曲の傾向を分析して「売れそうな曲」をビッグデータから判定するというのです。

 この事例は、ホワイトカラーのオフィスワークについても様々なことを考えさせられます。今回は、そのような世界を職場に適用したら何が起きることになるのかを考えてみましょう。

「感情を扱う仕事」だから機械にはできない?

 私たちの身の回りの創造的業務には大きく分けると二つのタイプがあります。一つ目は、顧客や従業員といった「ユーザー」自身は思いつきもしないが、潜在的なニーズに応える革新的なアイデアを生み出すものです。いわゆるイノベーションがその中心で、これは過去に類似のデータは実績データが存在しないため、純粋な人間の想像力が主に必要とされます。

 そしてもう一つが、実際に過去に売れた商品や顧客の声を分析することによって得られる情報からの創造です。とにかく徹底的に「売れているものが正しい」という前提で過去の「売れ筋」のデータの傾向を分析するのは、ビッグデータの世界を始めとするコンピュータの世界が最も得意とすることの一つです。

 これを応用したものが冒頭のヒット曲予測システムということになります。もちろん作曲のような非定型かつ創造性の高い領域では、単に過去の傾向からだけで次のヒット曲が簡単に生まれるとは思えませんが、それでもこの考え方を極めていけば、「売れ筋予測」の精度が上がっていくことは間違いないでしょう。

 ここではさらにこの考え方をオフィス業務に展開してみます。最近「機械に奪われる仕事」というのがよく話題になりますが、代表的なのはルールが明確に決まっている定型的な仕事です。例えば経理業務の中でも単純な伝票処理やヘルプデスクで質問される典型的質問(FAQ)への回答等がその代表です。

 「自分の仕事はお客様と接して『感情を扱う営業の仕事だから、永久に機械に置き換えられることはない」という意見があるかも知れません。確かに「感情を扱う」仕事はそのような対象からは外れるために「安泰」と考えられ勝ちですが、本当にそうでしょうか?

 よくよく営業の担当者がどうやって顧客の心をつかんでいるかと聞いてみれば、従来型の単純な物売りの営業では「お客様との会話ややり取りを詳細まで覚えている」ことは、顧客の心をつかむために重要なことでした。たった一度の接待で出た何気ない言葉(出身地やペットのことなど)を覚えていて、次回の訪問では関連する新聞記事などを雑談のネタにするというのは、優秀な営業担当者の得意とするところでした。

 よく考えてみると、これは「記憶力」と「情報収集力」を強みにしていることがわかります。ところがこの二つはまさにコンピュータが最も得意とすることなのです。ビッグデータとライフログの時代、顧客とのやり取りは全てコンピュータが覚えていて、どこのお店の評判がよかったか、何の会話をしたかは一字一句全て記憶された上で、関連キーワードから最新情報を検索して、「今日の訪問にはこのネタが良い」というのは勝手に自動化されていくかも知れません。

 一昔前までは、仕事の関係者(プライベートでも)の「誕生日を覚えている」というのは、人の心をつかむための一つのやり方でした。ところがこれはもはや威力が失われてきました。意外な人が誕生日を覚えてくれていると、数年前までであれば、意外な人が自分に関心を払ってくれていたことに驚き、その人への共感が一気に上がることもありましたが、Facebookが「勝手に」関係者の誕生日を毎日教えてくれるようになった近年ではそのありがたみは激減してしまいました。

 ここから二つのことがわかります。一つは「記憶力の良さ」では機械には絶対にかなわないこと、もう一つは、そうなってしまうと「記憶力の良さ」で人の心をつかむという、その行為自体の価値がなくなってしまうことです。

●人工知能が「出世頭」になる?

 「ヒット曲予測」をさらに拡張していけば、「上司にウケが良い資料の作り方」なんていうのもあっという間にコンピュータが学習していく可能性もあります。「◯◯専務の説得にはこの詳細レベルの投資対効果が不可欠だ」とか、「××常務へのプレゼンのキラーワードはXXXだ」といったことはデータとしてどんどんコンピュータが「学習」してパターンを覚えていきます。

 このようにして、一見、人間にしかできないように思える「人の心をつかむ」というのも実はあっという間に機械が凌駕していってしまうのかも知れません。人間の心は複雑な反面、基本的なところは非常にシンプルです。「愚痴を聞いてほしい」とか「他人に認めてほしい」とか「こっそり自慢したい」といったような感情を満足させるための「スイートスポット」は意外に単純な相槌の言葉(「すごいですね」とか「おっしゃる通りです」とか)の繰り返しだったり、特定の話題(ゴルフや家族)だったりと限られたパターン化できるというのが、人工知能の側から提示されて苦笑することも近い将来起こりうるでしょう。

 こうなって「顧客や上司の心をつかむ」ことを覚えてしまったコンピュータは、あっという間に社内の上層部の心をつかみ、ここでも人間を凌駕して「出世頭」になるなんてこともあるのかも知れません。現時点ではまだ「レビュワー」の域を出ていませんが、ある程度パターン化された提案書などであれば、人工知能が自ら作って「プレゼン」することも可能になるのではないでしょうか。

 ここでもやはり考えるべきなのは、「機械か人間か」という二者択一ではなく、あくまでも人間のサポート役として考えていくこと。これまで人間がやってきた仕事の大部分をコンピュータが代替し、それを当然のベースとして人間が付加価値をつけていけば、仕事のレベルはさらに上がっていくことになるでしょう。

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