DeNA(ディー・エヌ・エー)の“働き方”を掘り下げるインタビューの後編。前回は社内委員会の「DeNA Women's Council」にフォーカスし、おもに女性側の視点から独自の休暇制度などを取り上げたが、今回はワークスタイルそのものに迫ってみたい。

 答えてくれたのはヒューマンリソース本部 人材企画部 ビジネスパートナー第二グループ 渡辺真理さんと、経営企画本部 企画統括部 広報部の田中聡さん。ともに他社からの転職組であるものの、今ではすっかり“DeNAイズム”を体現する立場にある2人に、合理的な仕事の進め方やスケジュール管理、揺るぎない会社のビジョンなどについて聞いた。

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インタビューに答えてくれた渡辺さん(左)と田中さん(右)

一人ひとりがプロフェッショナル、それが基本

 担当大臣の新設に加え、実現に向けての有識者会議を設置するなど、政府主導による「働き方改革」が加速する一方の日本。中でも、長らく日本式労働の象徴とされてきた長時間労働の是正は喫緊の課題と言える。こうした風潮に伴い、近年は「ワークライフバランス」との言葉が花盛りだが、それはDeNAにも当てはまるのだろうか。この問いかけに対して、渡辺さんはこのように答える。

 「例えばワークライフバランスという名目で、一斉に早く帰りましょうとする決め事が本当にいいのか。それに関しては疑問があります。ワークとライフのバランスをとりましょう、という意味合いの『ワークライフバランス』よりも、イメージ的には『ワークライフマネジメント』でしょうか。

 なぜなら『ここからここまでは仕事に集中する』『ここからここまではプライベートに時間をかける』、そういった感覚は人によってバラバラですし、その人の人生の段階や携わっているプロジェクトの状況によっても異なりますよね。DeNAの社員には"一人のプロフェッショナルとしてワークもライフもマネジメントする"という認識があります。時間の規定がそれほど厳しくないのもそのためです。何時までに来ないと遅刻、何時に帰らなければならないといったこともありません。プロフェッショナルとして自分の時間を管理しつつ、メリハリをつけてほしいのです」

 もちろん会社としてのルールはきちんと設けている。しかし、全社単位ではなく部署ごとに標準労働時間を定め、そのルールに従って働く。それゆえ、人事などのバックオフィス系とゲーム開発などのクリエイティブ系では出社や退社の時間が異なる。「例えば立て込んだあとの出社時間を遅くするなどの調整も部署の判断に任せます。最終的にきちんとしたアウトプットが出せればいいとの考え方からです」(渡辺さん)。

 田中さんによれば、同社の労働時間制度は職種や等級によって裁量労働制とフレックスタイム制を併用している形だが、基本的にかなり柔軟だ。ある程度自由になれるこうした環境だと、特にクリエイティブやエンジニアなどの職種の社員はのめり込んでしまい昼夜が逆転してしまうこともあるため、「体調を崩す前に働き方を改めるようアドバイスします」(田中さん)という。

 現在は勤怠管理と健康管理を兼ねて、入退室カードと連動したチェックシステムを運用。社員の不健康は会社にとっても大きなマイナスとなることから、体調管理には人事もかなり目配せしており、労働時間が基準を上回っている社員については、本人や上長とじっくり面談するようにしている。また、少なくとも年に1度は「ワンウィークオフ(平日5日間+前後の土日4日間)」の有休取得を促すことも忘れない。

 同社の社員は全社に公開しているWEB上のカレンダーをもとに日々動いており、個々人が責任を持って時間管理を行っている。話したいと思った相手のカレンダーにコメントを添えてスピーディにミーティングをセッティングするなど、無駄なく仕事を進めるスタイルが身についている。

 「私がほかの会社から転職してきて、非常にやりやすい、合理的だと感じたのがこのスケジュール管理です。さすがに社長のカレンダーに勝手に予定を入れることはありませんが(笑)、役員以外であればきちんと目的を添えた上で相手のカレンダーに予定を入れるのは日常茶飯事です。

 社員は皆このスケジュールをもとに、個々人が動いています。例えばママさん社員が『水曜日と金曜日はお迎えの日です』と書いて予定を先に入れてしまえば、そこに第三者が予定を重ねることはありません。これは仮に1年目の社員であっても同じですから、基本的に自分で時間を管理することになります」(渡辺さん)

ブレない"DeNAカルチャー"が多様な人材に浸透

 ここ数年はプロ野球チームを筆頭に、キュレーションメディアなど数多くの買収を重ねてきたDeNA。歩んできた背景が異なる多様な人材を一体どのようにまとめ上げているのか? これに対し、田中さんは次のように答えてくれた。

 「働くうえでのスタンスは『DeNA Quality』(同社のコーポレートアイデンティティ)に集約されています。DeNAのカルチャーは南場(智子氏、取締役会長)が言語化したDeNA Qualityが基盤となっているのです。

 今年の1月、南場が横浜DeNAベイスターズの新人選手に向けて講演したのですが、DeNAの大切にしているカルチャーや仕事にのぞむ態度というのは、アスリートにも通用するような普遍的なものであるということがわかりました。生きていくうえでのスタンス、そして基本となる考え方などを話したところ、『プロフェッショナルとして働く』という点はそれを発揮する領域が違えども同じだと理解してもらえたようです。業態や規模が異なったとしても我々のカルチャーを広げていくことはできると感じています」

 場合によってはカルチャーの伝道師として本体から子会社へ出向する人事社員もいる。ただし、カルチャーの浸透はマストではあるものの、DeNAの制度や福利厚生をそのまま子会社にスライドすることはない。あくまで子会社の長所を生かしながら判断し、最適な制度を当てはめていく。

 「経営層は、会社の"軸"を作るために非常に苦労しています。カルチャーの言語化についても幾度となく微調整を重ねているのです。その軸が失われたら会社が傾いてしまうーー。それほどまでの大きな危機感があるのでしょう。結局、こうした軸があるからこそ新しい人が入ってきてもブレません。子会社の買収にしても、まるで転職で新しいメンバーが入ってきたのと同じような感覚です」(田中さん)

 DeNAでは新卒・中途問わず、新入社員に向けて社員がDeNA Qualityの本質を感じた瞬間を具体的なエピソードを交えながら話すセッションを定期的に開催している。「そこで生々しい体験談を聞くと、"あ、これがDeNA Qualityなのか"と理解しやすくなります。年2回の全社経営会議でも、社長をはじめとした経営陣が多くの時間を割いてしっかりと方向性をプレゼンテーションし、意識の共有を図っています」(渡辺さん)

 そしてその先には、前述したように「一人ひとりがプロ」として仕事をこなす感覚を身につけてほしいとの思いがある。

 「ここ数年で事業領域が一気に広がったため、それぞれの社員が持っている知識、人脈、強みも本当にバラエティに富んでいます。その分、働き方の多様性は自ずと広がっていきますよね。一人ひとりがプロフェッショナルとして最大限のパフォーマンスを発揮するためには、全社員が『DeNA Quality』を遵守しながら、ある程度の柔軟性をもって『ワークライフマネジメント』をすることが重要だと思いますね」(渡辺さん)

text:Masaki Koguchi pic:Takeshi Maehara