ブログや動画、セミナーなど、ユーザーが自ら必要なときに見に来てくれるようなコンテンツを用意し、それをきっかけに顧客へと育成する「コンテンツマーケティング」が国内でも注目されてきた。そのコンテンツマーケティングを支援するサービスを総合的に提供するのがイノーバ(Innova)である。これまでに150社以上のコンテンツマーケティングの支援を手がけている。

 イノーバを牽引するのは、CEOの宗像淳氏。富士通、楽天、博報堂グループ会社のトーチライトと異なる業種、規模の企業を経て、イノーバを起業した。企業のマーケティングを支援することの意義とは何か、コンテンツの「発信」を提唱する宗像氏に尋ねた。

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 「イノーバ」の社名の由来はフランス語のイノベーションと語るのは、同社CEOの宗像淳氏だ。宗像氏は東京大学を卒業後、社会人の最初の一歩として富士通に入社した。その時の思いは「ITで世の中を便利にしたい」というものだった。その後、楽天、博報堂グループ会社を経て、イノーバを起業した。起業のきっかけは「3.11でした」と語る宗像氏。今まで以上に世の中にイノベーションが必要になることを予感し、「会社の名前としては広がりを持たせたい」ということからイノベーションのフランス語を社名に採用した。宗像氏は、「マーケティングの変革という今の仕事の内容もイノベーションだと思っています」と語る。

 そんな宗像氏に、日本の企業や企業人の仕事のスタイルについて尋ねた。日本がイノベーションを通じて生き残っていくための1つの答えが、「仕事のスタイル」にあるとの仮説からだ。宗像氏はこう語る。

 「仕事のスタイルに対する日本の課題は、終身雇用制をどのように変えていくかという点でしょう。終身雇用制自体は良い制度だと思います。雇用は安定し、社員にはロイヤリティーがあり、会社も社員もWin-Winの関係になり得るのです。一方で、変化に対応することが難しい側面もあります。会社の中でジョブローテーションしていくように、その企業に特化したスキルを積み上げているだけでは産業の変化に追従できません。個人が一人ひとり、キャリアを積み上げ、ステップアップしていく仕事のスタイルに変える必要があるのです」

 例えば米国では企業間での人材の動きが激しい。新しくソーシャルメディア産業が広がってきたとき、企業はソーシャルメディアをどのようにマーケティングに生かすかという観点が必要になる。米国ではそうしたとき、ある企業でソーシャルメディア担当としてキャリアを積んだ人材が、半年後には違う企業で活躍しているといった例が多くある。

 こうした状況を宗像氏は、「ノウハウが他の会社に伝播していく」と表現する。働き手の一人ひとりが普遍的なスキルを持つことで、「厳しいけれど、変化に強い」仕事のスタイルが出来上がり、社会全体にノウハウが速やかに伝播するというわけだ。終身雇用でその企業に固有のスキルを身につけても、こうした相互作用は生まれにくい。それが、「終身雇用を変える」ことの理由だ。

情報発信の仕方や意気込みでビジネスが伸びる

 仕事のスタイルに変化が求められているのは、マーケティングの世界でも同様で、その変化も急激である。要因は、インターネットの普及に続いてやってきたソーシャルメディアやスマートフォンという流れだ。従来のテレビや新聞などの広告を使ったマスマーケティングから、より個人をターゲットにしたデジタルマーケティングへの舵取りが求められるようになってきた。

 「デジタルマーケティングの業界は人材不足が続いています。企業は経験者が欲しいので、スキルを持つ人は企業間で引っ張り合いになり、求人マーケットに出てこないのが現状です。もちろんデジタルマーケティングを勉強したい人もいますが、最初に勉強をするステップがうまくいっていない印象です。結果として、属人的な状況に陥っていると言えるでしょう」

 宗像氏はそんな中で、イノーバはデジタルマーケティングを様々な会社で活用できるような支援をしたいと言う。特に、中堅・中小企業のマーケティング支援に目を向けている。

 「日本にはピラミッド型の取引構造の中にあって、マーケティングをする必要がなかったような中堅・中小企業が数多くありました。それが市場の変化から、気がついたら昔ながらの『系列』はかなり取り払われてしまいました。中堅・中小企業も、大手企業のグループとして戦うのではなく、個々の企業として自ら戦う必要があるのです。終身雇用に守られていた個人が自らスキルを身に付ける必要が出てきたように、企業も自分でマーケティングをして、さらに戦う先も国内だけでなく、グローバルへと変化する時代が訪れています」

 宗像氏は、中堅・中小企業でも世界に発信できる手法の1つとして、自社がビジネスの核に据える「コンテンツマーケティング」を挙げる。インターネットの普及で、情報はグローバル化し、伝達のスピードも格段に上がった。「世界が凝縮している」(宗像氏)のだ。ニッチな業種であっても、コンテンツマーケティングであれば情報発信型の仕組みで、日本だけでなく世界に情報を提供できる。グローバルニッチを成功させることが可能になる。

 「中堅・中小企業の経営者と話をすると、今までは『海外なんてねえ』という反応がほとんどでした。でも、今ならネットですぐ海外に情報を発信できます。会社の規模ではなくて、情報発信の仕方や意気込みでビジネスが伸びるようになってきているのです。中堅・中小企業と世界との距離を縮めていきたい、そのためにはコンテンツマーケティングが有効な手段です」

 属人的になってしまいがちなデジタルマーケティングのノウハウを、コンテンツマーケティングの支援という形で提供することで、イノーバは中堅・中小企業の立ち位置を変化させようとしている。変化への対応を支援することで、中堅・中小企業のイノベーションを実現させるというわけだ。

発信するところに人や情報が集まる

 環境の変化も発信型のコンテンツマーケティングの実行を後押しする。従来であれば、マーケティングを実践するには「ヒト・モノ・カネ」が必要だった。ヒト・モノ・カネがない中堅・中小企業がマーケティングに乗り出すのは楽ではなかったのだ。ところが、今はクラウドサービスが中堅・中小企業の背中を押してくれる。

 「クラウドサービスの普及は、中堅・中小企業にとって大きな変化です。これまでは例えば『1億円』といったコストが必要で大企業しかできなかったようなことが、毎月1万円といった利用料金で誰でも実現できるようになっています。コンテンツマーケティングを支援するイノーバのサービスも、勤怠管理や経費精算を省力化するチームスピリットも、その一例です。マーケティングの場合は発信が大切であり、イノーバでは、そのお手伝いを『Cloud CMO』というクラウド型のマーケティングオートメーションサービスで提供しています」

 宗像氏は、コンテンツマーケティングに限らず情報を「発信」することに重きを置いている。企業でも個人でも、「発信」がキーワードになるというのだ。その理由はどこにあるのだろう。

 「インターネットの世界では、人や情報がどこに集まるかを見ていくと、情報を発信しているところに興味のある人が集まっていることが分かります。もちろん、トライアンドエラーで様々なことも起こるわけですが、発信していることでその人や企業に求心力が生まれ、情報も人も集まってくるのです。発信しながら先端にいると、質のいい人や質の高い情報が集まってきます。その根源は、発信することです。これは個人でも中堅・中小企業でも変わりなく、世界に対してできることです」

 コンテンツマーケティングでは、「発信」するといっても、押し付けがましく情報を送りつけるのではなく、適した情報を開かれた形でインターネットに掲出する。受け手に情報を届けるために、どのようなコンテンツをどのような形で表現するのがふさわしいのかーーそれがイノーバの提供するサービスのノウハウというわけだ。

 宗像氏は、「日本では、情報の発信について、教育もまだうまくできていないのではないか」と危機感を持つ。一方で、「日本は新しい物事を採り入れるのは得意な文化を持っていますから、インターネットの世界での発信の仕方もこれからうまく採り入れていくことができると思います」と楽観的にも見ている。日本の個人も中堅・中小企業も、これまではあまり得意ではなかったかもしれない「情報の発信」をうまく採り入れることで、一気に世界との距離を縮めることができるーー。宗像氏にはそんな確信があるようだ。


イノーバ 宗像淳氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara