バイオやロボティックス、植物などのアグリカルチャーの分野ならば、世界でも有数の研究開発ができると自負するリバネス 代表取締役CEOの丸 幸弘氏。同社がテクノロジー系ベンチャー企業として拡大することだけでなく、理念を共有するベンチャー企業もサポートする。

 一方で、会議でアイデアを出さずに場をまとめるだけの管理職は不要だと、旧来の仕事のスタイルへの変革も投げかける。自らの働き方を「楽しみながら全力で走る」と表現する丸氏がイノベーションについて語る。

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丸氏は自分たちの特長を“リバネスエンジン”と呼ぶ

 研究者集団であるリバネスは、科学技術をベースにして世の中を変える「イノベーション」を起こすことを目指している。代表取締役CEOの丸 幸弘氏が考えるリバネスのイノベーションとは、どのようなものだろうか。

 「牛丼の吉野家は、"当たり前"を作ることができたので、イノベーションを起こせました。次の"当たり前"を作ることこそが、イノベーションなのだと思います。そのためにリバネスはサイエンスでイノベーションを起こそうとしています。今の日本企業も、もっといろいろなことができると考えています。しかし、利益至上主義ではイノベーションはできません。世界を変える船に乗りたかったらリバネスに投資してくださいと話しています。知識製造企業である"リバネスエンジン"を企業に組み込むといいんですよ」

 リバネスエンジンの組み込みは、大企業に対してだけでなく、ベンチャー企業への支援という形でも推進している。その1つが今春、ミドリムシを食品などに利用するバイオベンチャーのユーグレナ、SMBC日興証券と共同で、研究開発型のベンチャー企業を支援するベンチャーキャピタルファンド「次世代日本先端技術育成ファンド(通称:リアルテック育成ファンド)」の設立という形で姿を表した。

 「資本関係があってもなくても、私自身は40社ぐらい会社の設立に携わってきました。風力発電、コミュニケーションロボットの会社などは、資本関係はありません。仕事の関係もあったりなかったりです。それでも、応援するわけです。テクノロジーをベースに世界を変えたい会社は、みんな仲間だと思っています」

 リバネス自身がベンチャー企業でありベンチャー企業の気持ちが分かるからこそ、日本でベンチャー文化を作ることにもチャレンジしているというわけだ。テクノロジーのベンチャー企業に対して、知識とネットワークと労働力、そして資金を提供することで、イノベーションの実現という理念への道筋を加速させている。

「恩」が資産という発想

 とはいえ、これまでは丸氏が個人的にポケットマネーを投じて、ベンチャー企業を支援することも多かった。そんな中では、支援した資金が回収できなくなるといった事態にも遭っている。

 「ベンチャーは"タネ銭"がなかったら動きはじめられません。資金を渡せばやる気になるでしょう。そこでイノベーションが起こればいいと考えています。もしも資金が焦げ付いたとしても、それを他人の責任にするつもりはありません。自分の責任だし、貸した方が悪いんですよ。信じて貸したのなら、最後まで信じることにしています」

 コミュニケーションを重視する丸氏の話には、人と人との関係に立脚したものが多い。相手を信じて資金を貸すこともそうだが、極め付けが「恩返しが資産」という斬新な考え方だ。

 「日本には、恩返しという考え方があります。親に対して、お世話になった方に対して、恩を返すのですが、これは恩を資産に変えていくものだと思っています。"恩返資"ですね。これは大きな資産で、資本主義の先を行っていたのではないかと思うほどです」

 具体的に丸氏は次のような例を挙げる。

 「例えば、代々続くお寺が運営している会社が潰れそうになったら、檀家や近隣の人が私財を投げ打ってでもなんとかするといったことがあるでしょう。恩が"恩返資"という形で資産になるのです。こういった考え方を、もう一度今の日本に戻したいですね」

 技術開発支援をする会社の代表を務め、かつ農学博士でもある丸氏が、ITなどの「ドライ」な考え方と対極にある、感覚的に「ウエット」な考え方を大切にしていることがよく分かるエピソードだ。

 リバネスでは、そうした「ウエット」な部分が文化として根付いているとも言う。その1つが誕生日休暇だ。と言っても、自分の誕生日に休むのではない。両親や家族の誕生日が休暇になる。家族の誕生日を心置きなくゆっくり祝えるようにとの配慮だ。

 「家族が増えると休みが増えるんです。最近は、『自分の誕生日も休暇にしてくれ』という声も聞こえてきますが、メンバーの誕生日には会社でケーキを食べたり寸劇をやったりという楽しみもあるので、休暇にはなっていません。家族といえば、リバネスは千葉に田んぼを持っていて、毎年家族と触れ合いながら田植えと稲刈りをしています。そのお米は、社員や家族が無料でもらえるようになっているのです。つまり、備蓄米を用意するわけです。古風なところもあって、面白い会社でしょ」

「パッション」を持って"必死"ではなく"全力"で取り組む

 リバネスでは、会議があると丸氏がどんどんと新しいアイデアを出していく。しかし、他のメンバーも負けていない。自分の才能を信じるメンバー揃いであり、自ら積極的に調べ、考えてアイデアをぶつけてくる。そうした熱いやり取りが、イノベーションを育む土壌になる。

 「世の中を変えることが真の目的なら、誰が考えたかなんて関係ないと思っています。それが実行されてイノベーションが起きることが大切なんです。企業や研究所にオブザーバーとして呼ばれることも多いのですが、会議でまとめ役だけをしている上司がいるのを目の当たりにすると、お説教をさせてもらいます。アイデアを持ってこない人は、会議の場に不要なんです。給料が高い上の人ほど、アイデアを出さなければダメだと伝えています」

 日本の企業文化で育ってきた管理職には、かなり手厳しい説教になりそうだ。しかし、この指摘は働き方の指針を示すものでもある。自分が何をすべきか、何をお金に変えているかを、常に意識することを求めている。丸氏は「サラリーマンはいらない、ビジネスマンがほしい」と、仕事への取り組み方の要求を総括する。

インタビューに同席した専務取締役CIOの吉田丈治氏(右)と。吉田氏は会社設立以来の同志

 「でも、そう言うと日本の人はすぐに"必死で頑張る"と言い出します。必ず死ぬなんてスタイルは、あり得ないですよ。必死はやめて、"全力"でやって結果を受け止めましょうと言っています。全力でやるときに重要なのは、熱、すなわちパッションです。私は働き方のスタイルとして「QPMIサイクル」を提案しています。個人が抱く課題意識(Question)と、それを解決しようとする情熱(Passion)があれば、周りにメンバーが集まり、チームが形成され、ミッション(Mission)として課題解決にあたる。この一連のサイクルを回していくことが、新しい価値の創出(Innovation)につながるのです。パッションがないと"核融合"が起こらないので、イノベーションにつながらないのです」

 内側に熱を持ちながら、しかし外面まで暑苦しくならないのがポイントらしい。「熱」と「暑苦しさ」は違い、あくまでも外面は冷静でなければ他者を惹きつけることはできないのだという。面白がって研究開発に没頭しながらも、コミュニケーションを大切にする丸氏の全力の情熱と、外面の冷静さのバランスが、リバネスのイノベーションを着実に広げていくエンジンになっているようだ。


リバネス 丸 幸弘氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara