ヤフーグループのゲーム制作会社「GameBank」(ゲームバンク)は、モバイル向けのオンラインゲームを中心にビジネスを推進する。同社を率いる代表取締役社長 CEOの椎野真光氏は、ゲーム制作を取り巻く環境が変化していることを実感しているという。そうした中で、日本のゲーム制作の従来の主流とは少し異なる「ハリウッド流」のゲーム作りの形を模索している。

 ゲームが大好きで、ゲームを作ることが楽しいと自らを語る椎野氏は、どのような人材をGameBankに求めているのか。そして、どのような働き方を実現しようとしているのか。人と人のつながりの力を根底で信じている椎野氏のヒューマンマネジメントの秘密を探る。

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 ネットワークを介してリアルのユーザー同士が対戦するようなオンラインゲームは、海外では普及しているものの、日本での広がりは海外に遅れを取っている。ここ10数年、国内ではゲーム専用機向けのコンシューマーゲームと、携帯電話やスマートフォンを中心としたカジュアルゲームが主流で、パソコンを使った本格的なオンラインゲームの文化が成熟していないためだ。こうした状況は、ゲーム開発のリソースや手法においても世界とのギャップを生み出しているとGameBank 代表取締役社長 CEOの椎野真光氏は指摘する。

制作の「フォーマット」を整備し新しい開発体制へ

 「日本の昔のゲーム制作は、1つの会社で1つのゲームを作り上げるのがセオリーでした。ある程度の大規模なゲームを作れるのは、相応した規模感の会社だけだったのです。ところが、ハリウッドなど海外を中心にハイブリッド型の開発スタイルが広まってきました。ゲームのエンジンを作る会社と、構成要素となる画像や3Dモデル、音楽、効果音などのアセットを作る会社が別々にあり、協業するような形でゲームを作るようになっています。日本は労働集約型のゲーム開発には慣れています。一方で、大規模なオンラインゲームとなると数百人の開発者を束ねないと作れないのですが、労働集約型ではこうした大規模なゲーム作りで海外の制作会社に対抗していくのが難しいのが現状です」

 さらに人材の問題も大きいという。国内でも起業しやすい環境が整ってきて、優秀なゲーム開発者は独立して会社を作ってしまうケースが多いというのだ。ゲーム制作会社が優秀な人材を内部に確保し続けるのが難しい時代になってきている。そうなると、日本でも必然的に複数の企業をつないでゲームを開発するような仕組みが求められてくる。ハリウッド的な制作手法が必要になるのだ。

 「特にモバイルゲームは、複合的なサービスです。ゲームを作る制作だけでなく、その後の運営や、マネタイズ、QA(品質保証)やCS(顧客満足)といった部分まで目を向けなければいけません。これらを1つの企業ですべて対処することは現実的でなく、多くの企業、様々な人が関わってくることになります。そこで、ゲーム制作のレギュレーションをきっちり作ることを推進しています。ゲーム作りのフォーマットを整備しているわけです」

 フォーマットを整備するとは、ゲーム制作に関わる各要素の仕様をあらかじめ定め、作業の内容を規定していくことだ。こうすることで、複数の会社に発注した各要素を集めたときに、フォーマットに則って作られた要素ならば問題なく連携して動くという発想である。プログラミングの世界では、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を作って、プログラムの階層ごとの要素が容易に連携できる仕組みを取り込んでいるが、それをより上位レイヤーの業務にまで取り入れる考え方と言えそうだ。

 「GameBankは80人規模の企業ですが、海外では100人、数百人といった規模の企業もありますし、そうした企業が連携してゲームを開発しています。そうやって作られたゲームに対抗するには、開発者を増やす必要があります。そのための方策として、多くの企業が連携してゲームを制作できる仕組みづくりは、重要なインフラです」

 フォーマット化は、人材を確保しにくくなっている現状への対応にもつながる。しっかりとしたフォーマットがあれば、部分的な外注がしやすくなり、内部に専門家を抱えることなく目的に合った人材やスキルを活用できる。椎野氏は「小さなゲーム開発会社もアメーバ的に取り込んでいければ」と、確固としたフォーマット化によって柔軟なコミュニケーションが促進できると考えている。

ワークスタイルは「フルフラット」

 オンラインゲームに情熱をかけて、人々にコミュニケーションを通じたゲームの魅力を届けようとしてきた椎野氏は、ゲーム制作のスタイルにもフォーマット化を取り入れ、企業間のスムーズなコミュニケーションを推進している。そんな椎野氏が率いるGameBankにはどのような人材が集まり、どのような仕事の仕方をしているのか興味が湧いてくる。

 「GameBankは2015年1月に設立したばかりの企業ですが、すでに80人規模に育って、カジュアルゲームもコアゲームも作れる開発者がいることが力だと考えています。ソフトバンクグループのパワーを使って新しいビジネスができることに魅力を感じていることと、私たちのワークスタイルに対してシンパシーや可能性を感じているということが、入社してきた人たちの共通点かもしれません」

 そのワークスタイルとは、「フルフラット」。もちろん、予算執行権も編成権もGameBankの社長である椎野氏が持っている。社長がいいと言えば実行できるし、逆では難しい。それは椎野氏が「まだ会社のステージとしてはベンチャーだと思っている」と語るように、トップの方向性の提示が必要な段階だと考えているからだ。しかし、この方向でずっと運営するつもりはないようだ。

 「ゲーム会社は特殊で、ベンチャーの社長がそのままリーダーシップを取り続ける企業が多いのですが、GameBankはアメーバ的な組織、自律的に考えながら動く組織にしていきたいと考えています。今後のゲーム制作はアメーバっぽい組織のほうがいいと思うんです。最初は数人で作り初めて、いいものに人が集まって結果としてプロジェクトになっていく。一方でダメなものはどんどん潰していく。そのサイクルを早くすることで、変化に対応できるフラットな組織が出来上がるのではないでしょうか」

ゲーム開発者に求めるのは「突き詰める気持ち」

 そんな自発的でフラットな組織を目指すGameBankのメンバーとして、椎野氏が求めるゲーム開発者の資質がある。それは「熱狂的に1つの物事にハマる、突き詰める能力」だという。利用者がとことん突き詰めて楽しんだり対戦したりする本格的なゲームは、開発者の側が突き詰めて考えないと満足してもらえるものにならないとの見立てだ。

 椎野氏は、突き詰める能力も含めて「ゲーム好きということ自体が、ゲーム開発者に求められる資質に近いのかもしれません」と笑う。そして、同世代で競い合うことが、資質や才能を伸ばしていくポイントになるという。

 「今の20代後半から30代が、これからの本当のGameBankを引っ張っていく世代だと考えています。その世代が情報を共有して、うまく競い合えれば、結果として良い物ができるでしょう。だから、同世代でライバル心を持つようなアサインを心がけていますよ」

 そういう椎野氏だが、キリキリと絞り上げるように競わせるイメージはない。その雰囲気を象徴するのが、GameBankの会社の入口にある、キャンプ用品がずらりと並んだコーナーだ。まさにそこでキャンプができそうな、会社とは異質な空間が浮かんでいる。

 「アウトドアは私の趣味なんです。寝袋があるから実際に寝ることもできますよ(笑)。個人的には、ゲーム開発はキャンプに近いものだと思っています。一緒に苦楽をともにして、ときには語り合い、達成していく。GameBankにそんな空気感が作れたらいいなと思っています」

 提供するオンラインゲームでコミュニケーションを楽しみに変えるだけでなく、作り手側の企業同士のコミュニケーション、そしてもちろん社員のコミュニケーションも大切なものとして扱っている椎野氏。コミュニケーションから生まれる風が、巣立ったばかりのGameBankを大きく羽ばたかせる力になっていきそうだ。


GameBank 椎野真光氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara