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2015.10.16

芸術と技術の変化を見据えて
白組支える「自由放任」とスピード感

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 日本のアニメーションの歴史を黎明期から見続け、80歳を超えた今もアニメーションの進化に尽力する白組 代表取締役社長の島村達雄氏。本格的なアニメーションの日本での広がり、テレビ時代の到来、コンピューターによる映像表現の革新と、あらゆる変化を目の当たりにし、その時どきに最先端の技術を手に収めてきた。

 株式会社としての白組は1974年に設立し、アニメーションやビジュアルエフェクツ(VFX)、特殊撮影などの映像表現を手がけてきた。40年を超えて、1つの分野で突出した成果を残し続けるのは、企業として至難の業ではない。白組は人材を活かすための秘訣があるのだろうか。島村氏に尋ねた。

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 企業を運営するときに必要なリソースとして、「ヒト・モノ・カネ」の3つを挙げることがある。アニメーションや特殊撮影の制作を生業とする白組では、コンピューターからスタジオ設備まで最先端の映像表現を支える「モノ」を整えてきた。さらに、日本のベンチャーキャピタルの草分けとも言われる東京中小企業投資育成などから、必要な「カネ」を調達することにも成功してきた。それでは、芸術であり製品でもあるアニメーションや特殊撮影を紡ぎだす「ヒト」について、白組ではどのようなポリシーを持っているのだろう。

 島村氏は即座にこう答える。

 「自由放任!」

 やりたいことがあれば、基本的には「好きなようにやっていいんだよ」というスタンスだそうだ。力がある人には若くても権限を渡し、好きなことをできるように支える。若手社員でも必要に応じて社長の島村氏に直談判をしにくる。そうしたやり取りが、最先端の映像表現を創り出すためのスピード感を生む。

 白組のディレクターで映画監督・VFXディレクターを務める山崎貴氏について、島村氏はこう振り返る。

 「山崎監督は、ちょうど調布のスタジオを作ったころにアルバイトで白組に出入りしていました。特撮が好きで、調布のスタジオを自由にできることが面白かったようです。頭はいいし、テクノロジーに対して柔軟です。そして安価なシステムであっても上手に使いこなすセンスがありました。その上、アメリカの情報を取るのがものすごく早かったですね。インターネットを使いこなすのも一番早かったのではないでしょうか。映画監督ですが、旧来の映画監督とはタイプの異なる、新しい世代の監督だと思っています」

 もう1人、島村氏が名前を上げたのがビジュアルエフェクツ(VFX)ディレクターの渋谷紀世子氏。山崎監督と組み、白組が関わった作品のVFXを手がける。渋谷氏も情報収集能力に優れ、白組に入社してすぐに「これならば新しい表現ができる、あれを活用すれば安価にできる、と様々な提案をしてきました」と、島村氏は当時を思い返すように微笑む。権限を渡し、自由かつ存分に新しい映像表現をできる環境を提供することで、結果、各自が考え現場の視点で最高の答えを導き出す。その人の持てる力を最大限に引き出すのが、島村流の人材活用法のようだ。

コンピューターとマンパワーの塩梅

 白組は、メンバーのアイデアを受け入れ、コンピューターを駆使した最先端の映像制作技術を手中に収めてきた。一方で、本業の映像制作を支える事務処理の分野でも、コンピューターとマンパワーが上手くバランスして機能しているという。島村氏は、苦笑いしながらこう語る。

 「最先端の技術を取り入れるということは、常に設備投資が必要なので、借金だって大変なものでした。資金繰りを支える経理と財務のスタップは苦労したと思います。事務的な部分では最先端とは言えないにしても、普通にコンピューター化を進めて事務の効率化を図ってきました。経理、財務のスタッフは優秀で、正義感も強く、金融機関や税務署などに提出する書類もきっちりと作り上げていました。そうしたマンパワーが生み出す本質的な信頼感と、コンピューターを活用した効率化が、上手くバランスしていたのでしょう。断崖絶壁を通るような資金繰りと、設備投資から得られるリターンの間で、ずっとやってこられました。映像制作でも、企業経営でも、ハンドメイドとハイテクのバランスが上手くいっていたのかな」

 最近では、スタッフの管理をITで行い、コンディションを適切に保つ仕組みも導入した。CGがリアルタイムでレンダリングできる時代だからこそ、映像表現を創り出す「ヒト」もリアルタイムでコンディションをコントロールしようという考えだ。

 「クリエイティブはヒラメキと毎日の発想の積み重ねの双方が必要です。数をこなすことは必要だけれど、毎日フルスロットルではいい作品は作れません。プロデューサーがチームのスタッフのコンディションを管理し、プロジェクトの後半で、残り数%の品質向上へのこだわりにフルパワーを引き出すためのシステムが必要でした」

 前述の渋谷氏が、スタッフ管理の仕組みを整えた立役者だという。長期にわたる映画制作の中でバランス良く配分し常に調整し続けていた結果「リアルタイム」で収集できる仕組みを望んでいた。チームスピリットが提供するクラウド型で勤怠管理などの機能を提供するサービスの「TeamSpirit」を導入し、社内で残業時間の可視化を行い、また白組の要望として、上長の手間を削減でき、他企業も活用の可能性がある「残業まとめて申請」を追加してもらった。スタッフの勤怠管理がリアルタイムで集計でき、そのデータを活用しプロデユーサーがチームの動きを臨機応変に整える。品質と生産性を両立するための仕組みとして、クラウドサービスであることが有効に機能し始めている。

進化するコンピューターに怖さを感じることも

 コンピューターの進化や映像表現の革新の最先端を歩んできた島村氏。そんな島村氏が、現代を評して「最先端といった言葉をうかつに使えない時代になってきた」とつぶやく。

 「昔から考えると、誰もがスーパーコンピューターを手のひらに持っているような時代になりました。コンピューターの能力が、芸術の質を左右する可能性もあります。才能がなくても、いい絵が描けてしまうかもしれません。コンピューターは休まずに、ものすごい勢いで進化しています。ずっと最先端を走ってきたと思う私でも、テクノロジーが人間の能力を凌駕してしまうのではないかと、恐ろしさすら感じています」

 最初は人間がコンピューターを使って、便利になることが目的だった。その当時でも得体のしれないものという感覚はあったが、現代のコンピューターの進化のスピードを見ていると、人間の仕事をも奪うほどの恐ろしさを感じているというのだ。

 「これまでにも、技術の進化が人間の仕事を奪ってきたことは多くあります。映画は全盛期を過ぎてからもフィルムのテクノロジーがあり、光学合成など引き続き繁栄しましたが、CGに置き換わって最終的には旧来技術の技術者は職を失いました。写植もコンピューターが文字を取り扱えるようになって、職業としてなくなりました。技術の進化により突然自分の職業を奪われることが、現実にあり得るのです。そうした中で、人間がやらなければならないこと、人間の力が発揮できるところはどこなのかを、改めて考えなければいけないと思います」

 島村氏は、コンピューターや人工知能と人間の関わりについて、1つの指摘をする。欧米の映画では、コンピューターやロボットが人間に襲いかかってきたりする。一方で日本では「ドラえもん」や「鉄腕アトム」に代表されるように、コンピューターやロボットが人間にフレンドリーなものとして描かれている。コンピューターと人間の共存を考える上で、欧米と日本の考え方の違いも、哲学的に分析してみる必要があるとの指摘だ。

 「人間の仕事として最後に残るものの1つは、エンタテインメントではないでしょうか。ロボットが演技をしてもねえ(笑)。美に関連する部分は、最後まで人間がやらなければいけないと思います」

 コンピューターに設備投資を惜しまず、80歳を超えて今なお最先端を目指す島村氏。テクノロジーと一緒に突っ走って来て、今でも新しいものがあると買いたくなるという。黎明期からコンピューターを御してきたそんな島村氏だからこそ、コンピューターの能力と人間が成すべき仕事のバランスが見通せているように思える。


白組 島村達雄氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara

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