自社の社員に対して「LOVE休暇」などユニークな休暇制度を設けるツナグ・ソリューションズ。クライアント企業のアルバイト・パートの採用に関するコンサルティング業務を手掛ける同社にとって、アルバイト・パートの従業員の「価値」を上げるとはどういうことか。2020年、そしてさらに先の2050年を見据えた労働力の確保と生み出す価値について、同社 取締役 コーポレート支援室室長の矢野孝治氏が語る。

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 2007年に9人で設立したツナグ・ソリューションズは、2016年時点では350人の人員を擁する企業へと成長した。東京・有楽町にある東京本社に加えて、関西支社、東北支社、東海支社と陣容を拡大している。パートナーの誕生月に休暇が取れる「LOVE休暇」や、文化などに触れる「カルチャー&エンタメ半休」など、ユニークな制度を設ける同社でも、人材の確保は難しいようだ。

 「コンサルティング先の企業にもノウハウを提供していますが、採用したい人材を確保するのはなかなか難しいです。学生の数が減り、大企業に入りやすい状況になっているだけに、採用競争は激化しています。正社員が取りにくくなる時代を見据えてツナグ・ソリューションズを立ち上げましたが、その傾向は一層進んでいるわけです。アルバイト・パートを戦力化させて定着させ、最終的に正社員に登用する道筋が求められることを実感しています」

 同社でも、在宅勤務を取り入れたり、グループ会社やパートナー企業によるシニア層の活用を進めたり、主婦を活用したりといった取り組みを進めている。東北にはコールセンターもあり、働き方も業務の内容も異なるスタッフが多い。業種職種も異なる従業員の管理は、ITの活用でまかなっている。矢野氏は「システムを工夫しないと均質に管理できません。勤怠管理にはクラウドサービスの「TeamSpirit」を利用しており、多様な従業員の管理を効率的にできて助かっています」と語る。

従業員の「価値」を高めて売り上げを伸ばす

 コンサルティング先のクライアント企業でも、正社員が採用しにくい状況は変わらない。その上、販売や接客などのサービス業では、既に従業員に占めるアルバイトやパートの比率が高く、より戦力として活用する必要がある。ツナグ・ソリューションズでは、採用時のコンサルティングだけでなく、その先の定着させるためのコンサルティングも商材として用意し、採用後のフォローアップにも力を入れる。

 「アルバイトやパートが戦力として求められるサービス業では、多くの場合に『売上高=従業員数x1人当たりの売上』で計算できます。従業員のパイをどれだけ集められるかという採用の指標と、その後の1人あたりの売上をどれだけ高められるかという戦力化の指標の双方が、掛け算で売上に効いてくるのです」

 これは、採用後の人材の定着や、習熟度の向上が、売上に影響を及ぼすことにほかならない。コンビニエンスストアのレジを担当するアルバイトが、数カ月後、1年後にどれだけ顧客をさばけるようになっているか。従業員として定着した上で、習熟度が向上すれば、売上に貢献する。そういった意味で、ツナグ・ソリューションズは「人材採用だけでなく、経営も含めてお手伝いをしています」(矢野氏)と言うのだ。

 「コンサルティングで申し上げていることは、アルバイトやパートを活用して人件費圧縮を目指すということよりも、現場の"本懐"を支援することです。現場は売上を上げることが"本懐"です。現場の店長は、アルバイトやパートを採用するためにポップを書いたり募集するメディアを選別したりという業務をしています。ツナグ・ソリューションズは、その採用業務を一部引き受けることで、店長には売上を上げる本懐に集中してもらえる環境を提供します。我々がお手伝いすることで、より売上が伸びることを目指しているのです」

変化を求められる「おもてなし」の概念

 それでは今後、アルバイト・パートなど非正規の雇用形態で働く人が増えていく中で、人材をどのように活用していくことが可能なのか。コンサルティングをする立場にあるツナグ・ソリューションズでは、そのための解をどうやって見つけ出そうとしているのだろうか。

 「ツナグ・ソリューションズでは、グループ会社のチャンスクリエイターで、コンビニエンスストアのフランチャイズ運営を行っています。ここでは、外国人やシニア、女性の活用の仕方の検証や、アルバイトやパートがどのように定着するかといった効果測定をしています。実際に実証してみて、そこからノウハウを収得しているわけです。例えば70代の方は、重い荷物を運ぶのは難しくても、コンビニエンスストアのレジ担当ならば人材として活用できるでしょう。シニアが休めるように、レジカウンターの中で椅子に座ったままでもいいのではないか、といった気づきも得られます。コンビニエンスストア業界は素人だからこそ、新しい発想で人材活用のノウハウを得られると考えています」

 アルバイトやパートの人材が、多様化し変化していくとともに、その「ホスピタリティ=おもてなし」も変化していく必要があるのではないかというのが、矢野氏の指摘だ。正社員が10人で対応していた時代にできていたサービスも、アルバイトになり人員が減って3人でこなさなければならなくなったら、「できなくなる」ことを見据える必要があるというのだ。

 「例えば飲食店などで立てひざを付いておしぼりを渡していたサービスは、人員が減るとできなくなるはずです。それを現場のアルバイト・パートの人材に求め続けたら、業務の強要になってしまいます。採用の難易度は上がり、その後の教育も高いレベルが求められます。それは現実問題として無理ではないでしょうか。アルバイトやパートの人材が提供できる『価値』が変化していくことを考える必要があると思います」

 労働人口が減少する中で、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。世界に対して日本らしい「おもてなし」を体現してもらうことを標榜する大会だが、その価値をこれまでと同様に捉えるとリスクがあると矢野氏は語る。

 「どうも、人材の許容力に対して、サービス過多なことをしようとしている印象があります。そんなことでは、2020年までみんながずっと残業をし続けるような社会になってしまいます。サービス過多にならずにできるおもてなしを考えることも、労働人口が減っていく中では重要なことだと思います」

会議室にはすべてコミュニケーションを意味する一文字の漢字が付けられている。取材部屋は「交(KAWASU)」だった

 アルバイト・パートの人材は、今日も現場で働いている。正社員への登用を考えてアルバイトやパートの立場で仕事をしている人もいるだろうし、自らの生き方、働き方にはアルバイト・パートが合っていると判断してこの道を選んだ人もいるだろう。こうした人たちは、今後の日本で増えることはあっても減ることはなさそうだ。ツナグ・ソリューションズは、どのような働き方がどのような価値を提供できるのかを考え、アルバイト・パートが最大の価値を発揮できるようにコンサルティングを続けている。アルバイト・パートがヒーローになれる社会の到来を、自らの夢と捉えているかのように。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara