「年俸制=残業代不要」というのは、大きな誤解!

最近、当たり前のように聞かれるようになった「年俸制」という言葉。恐らくこの記事をお読みの皆様のなかにも「年俸制」で働かれている方が多くいらっしゃるのではないかと思います。

私自身、これまで数多くのスタートアップベンチャーや成長企業の経営者にインタビューをしてきましたが、「成果主義」を最も強く反映する給与体系ということで「年俸制」を導入している企業は年々増えている印象です。

話を聞くと、多くの経営者の方が

「年功序列」や「労働時間の長さ」ではなく、「仕事の成果」に応じて給与を決められる。

目標設定とその達成度について、上司と部下の間でしっかりと話し合う機会を設けられる。

社歴や年齢を超えた競争風土が生まれることで、社員のやる気がアップし、組織が活性化される。

実力に応じた待遇を提供できるので、優秀な人材を採用しやすく、人材の定着にもつなげられる。

などのメリットを感じて、「年俸制」を導入しているようです。

ビジネス環境が常に変化し、競争が激化しているこの時代において、「実力主義」で給与を決めるというのはごく自然なことのように感じますし、実際、「仕事の成果が給与に反映されるので、やりがいがある」と語る社員の方も沢山いらっしゃいます。

しかしその一方で、この「年俸制」は、多くの人が誤った解釈をしてしまっている言葉でもあるのです。
その誤解の大きなポイントとなっているのが「残業代」の問題。

「年俸制」で働いている人に話を聞くと、度々

「年俸制なので、残業代が出ない」

「既に残業代が含まれているので、長時間残業しても給料が変わらない」

といった言葉を耳にします。

振り返ると、私もかつて「年俸制」でお給料をもらっていた時代には「時給に換算するとアルバイト以下だな…」などと思いながら働いていた記憶があります。

残業代込みで給与の年額を決められるので、細かい残業時間の管理をしなくてもよい。

ということを感じている経営者は多いのではないかと思いますが、果たしてそれは本当に正しい解釈なのでしょうか。

ここで、そもそものこの「年俸制」という言葉が正しくはどのような意味なのか、おさらいしてみたいと思います。

年俸制とは、賃金の額を年単位で決める制度ですが、典型的な年俸制では、労働者本人と上司等が話し合いにより、毎年の賃金額が変動しうる点に特色があります。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労働問題Q&Aより

非常にシンプルですね(笑)。実はこの「年俸制」という言葉は給与の決め方を定義しているだけで、1年に何時間働いてもその年額は変わらないという意味ではないんです。

労働基準法では、「法定労働時間以上の労働をした場合には年俸とは別に時間外割増賃金を支給しなければならない」と定められています。

従って、「年俸制だから残業代なし」というのは完全にNG!皆さん、ご存知でしたでしょうか。

たとえ年俸制であっても、「労働時間」はしっかりと管理しなければならず、残業代についても「1分単位」でしっかりと支払わなくてはなりません。

「固定残業代制度」を使って、現状の「年俸制」に近い給与体系を実現!

さて、少し話は変わりますが、ベンチャー企業の経営者が「年俸制」を導入する理由の1つに、「人件費の変動が少ない」というポイントもあるようです。
社員全員の給与を年額で決めておけば、残業の急増などで人件費が大きく変動することを防ぐことができ、予算が立てやすくなります。
しかし「年俸制」の正しい運用上では、法定労働時間以上の労働についての残業代についても細かく管理しなくてはならず、月々の人件費の計画が立てづらくなってしまいます。

なるべく細かい管理は省きたい。しかし、残業代も考慮した正しい年俸制を導入したい。–そこで有効なのが「固定残業代制度」です。
「固定残業代制度」とは、1ヶ月に想定される残業時間を算出し、その分の残業代を基本給にプラスして毎月支払うという制度。
この「固定残業代制度」を使用して年額給与を決めるという方法が、労働基準法にかなった形で、現状の「年俸制」にもっとも近づけられる給与体系となりそうです。

ただし、この「固定残業代制度」を導入するにあたっては、次のポイントを守る必要があります。

①基本給の部分と固定残業代の部分が明確に区分されおり、経営者と従業員の間で合意がとれていること。

②固定残業代部分には、何時間分の残業代が含まれているのかが、明確に定められていること。

③時間外労働(残業)時間が、上記2.で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金を支払うこと。

④固定残業代は12分割して支払わなくてはならない。(月々の残業代として支給するので、14分割、16分割等は認められない)

そしてこれらのポイントは、全て就業規則などに明記されていなければなりません。 

例えば雇用契約書で、「1か月あたり20時間分の残業をしたものとして、定額残業代3万円を支給する。」と定めている場合、従業員の1か月あたりの残業時間が20時間よりも少なかった場合でも、会社はその従業員に対して、「固定残業代」として定額の3万円を支給しなければならず、「固定残業代」をその都度減額するということはできません。

一方、残業時間が20時間を超えた場合は、「固定残業代」の3万円の他に、20時間を超えて労働した時間分について、別途割増賃金を支払わなければなりません。さらに、残業の割増率は深夜・休日などで異なるので、どの範囲の割増時間をカバーするものなのかについても、しっかりと記録しておく必要があります。

「年俸に『見込み残業代』を含めている」と労使間で合意が取れていたとしても、基本給部分と割増賃金部分の区別が明確でない年俸の定め方は、労働基準法違反であり、割増賃金の支払いと認められなかった事例もあります。

「労働時間管理」をテーマとした記事にも書きましたが、特にスタートアップベンチャーや急成長企業においては「時間関係なく働くんだ!」という社員の意欲と頑張りが、企業の成長の原動力となっていることは間違いありません。

自由な環境に「管理」というメスをいれることで、コストが増加し、企業の財務状況に影響を与えてしまう可能性も、もちろん考えられます。そういった意味では、どのタイミングで社内制度を整えるべきなのかについて頭を悩ませている経営者の方も少なくはないのかもしれません。

ただ、どんな理由であれ基本的な法律順守を怠るというのは、企業にとってはリスクでしかありません。前回の記事の繰り返しにはなりますが、正しい対応を行わず便宜上の「年俸制」を続けていれば、「未払い残業請求」という事態に直面する可能性もありますし、そうなると大切に育ててきた人材や企業への信頼を失うことになりかねません。また、上場を目指す企業にとっては、未払い残業代や社内制度の不整備は審査にあたっての大きなリスク項目となります。

法令遵守のために社内制度を整えるというのは、企業活動においての必要最低限のステップ。システムを導入することで簡単に管理することは可能ですし、もちろんチームスピリットでは「労働時間管理」や「年俸制」における複雑な「残業代管理」についてのソリューションを用意しています。

まずは、会社と従業員の信頼関係のベースでもある給与制度についてもう一度見直し、会社の将来を見据えた上での「給与体系の『あるべき姿』」について、検討されてみてはいかがでしょうか。

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