2016.10.11

長時間労働を抑制する「勤怠管理」の基本(1)
〜勤怠管理の本質を知る~

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勤怠管理はなぜ必要か?

会社には出社・退社時間、休憩時間、休暇・休日の日数など、働く時間に関する決まりごとがあります。従業員がこれらの時間を適切に守っているかどうかを管理するのが、いわゆる「勤怠管理」です。

当たり前のように行われている勤怠管理ですが、企業は一体何のために従業員の労働時間や休日・休暇を管理するのでしょうか。

労働基準法を遵守するため、適切な残業代を支払うため、働きすぎを防止するため......。今さら疑問に思う必要もないほど、色々な理由がすぐに挙げられるでしょう。

詳しくは次回以降に解説しますが、労働基準法第32条では「1週40時間・1日8時間」という法定労働時間が定められており、法定労働時間を超えて労働させる場合には労使間でサブロク協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届出する必要があります。もちろん延長可能な労働時間も決められています。

もし従業員の労働時間を正確に把握していなければ、労働基準法に違反する可能性がありますし、正しい賃金を支払うこともできません。従業員の働きすぎを未然に防ぐことができなければ、メンタルヘルスの不調や過労死・過労自殺につながる危険性もあります。未払い残業代などをめぐるトラブルも決して無視することはできません。法令を遵守し、従業員に意欲ややりがいをもって働いてもらうためにも、勤怠管理は必要不可欠です。

......と、ここまでは改めて説明されるまでもなく、皆さん十分に理解されていると思います。

では、ここで質問です。

皆さんが日々行っている勤怠記録は、どのくらい正確に勤務の実態を表しているでしょうか?

  • なんとなくつけづらいから、残業の記録はつけていない(つまりサービス残業をしている)
  • 家に持ち帰って仕事をしているが、もちろん勤務時間として記録していない。
  • 休日出勤をしても、代休や振替休日を取っていない。
  • 始業前に出勤しても、その分の勤務時間は記録に反映されていない。
  • 勤務時間が15分単位で管理されているので、15分未満の残業時間は切り捨てられている。

これらに思い当たる節がある方は、決して少なくないように思います。

「コンプライアンス」「働きすぎの防止」「正しい賃金の計算」という大義名分のもとで勤怠管理をしているはずなのに、勤怠の記録が勤務の実態とかけ離れてしまうのは、一体なぜなのでしょうか。

現在の労働基準法では、従業員の賃金は「労働時間」で計算されることが原則となっています。人々の働き方が「労働時間」ではなく仕事の「成果」で評価される知的労働へと進化している今、時間単位で賃金を計算することが現実の働き方にそぐわないという理由から、実態とかけ離れた「かたちだけ」の勤怠管理となってしまっているのかもしれません。実際に、パフォーマンスのいい人よりも悪い人の方が多く残業することになり、結果として多く給料をもらっているということを悩みに感じている経営者の話もよく耳にします。

また最近では、フレックス制度や在宅勤務など柔軟な働き方を導入する企業も増えています。従業員自身が自分の裁量で働く時間を決めることができることで、管理が複雑化していることも考えられるでしょう。

従業員の勤怠を厳密に管理することに意義や重要性を感じられず、ただ面倒なだけだと認識されてしまえば勤怠管理は本来の機能を失ってしまいます。長時間労働やサービス残業が日本で大きな問題であり続けている背景には、勤怠管理が形骸化してしまっていることにあるのかもしれません。

「労働時間が長くなるほど、仕事の満足度が増す」という研究結果!?

少し話は変わりますが、「過労死」が"karoshi"という英語になり、2013年には国連が日本政府に是正勧告を出すほど日本の長時間労働や過労死の問題は国際的に注目を集めています。先日、この長時間労働に関して、とても興味深い論文を見つけました。

RIETI(独立行政法人経済産業研究所)
「なぜ人はメンタルヘルスを毀損するリスクを冒してまで長時間労働をしてしまうのか-仕事満足度とメンタルヘルス、労働時間に関する検証-」
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/16e037.html)

この論文では従業員を4年間追跡調査し、労働時間の長さと仕事満足度、メンタルヘルスとがどのような関係にあるかを検証しています。ちなみにここでの仕事満足度は金銭的な満足度ではなく、「仕事から得られる達成感、自己効力感、仕事で必要とされているという自尊心」と定義しています。

ここでは、労働時間が長くなるほど仕事が面白く感じられ、仕事満足度も増していくことが検証されています。とくに週当たりの労働時間が55時間を超えるあたりから、仕事満足度が上昇していくそうです。その一方で、労働時間が長くなるほど、メンタルヘルスは悪化する傾向があることもわかっています。

行動経済学の領域では、人々には自身の健康に過剰な自信をもつ傾向(オーバーコンフィデンス)や、現在の状態が将来も続くと考えてしまうバイアスが存在することが指摘されており、これによって、労働者は自分の健康よりも仕事の満足度を優先させ、長時間労働へと走ってしまうそうです。

「勤怠管理」を通して、仕事満足度の要因を「長時間労働」から「時間当たりの生産性」へと転換する!

この論文にも

"労働者の裁量に完全に委ねた労働時間の決定は健康を損なう可能性を高める可能性を示しており、労働時間に法的な上限規制を設けるなど、第三者による介入が必要であることを示唆している。また、本稿の結果は、従業員の「仕事満足度」が高いからといってストレスがないと判断することは危険だとしています"

との記述があるように、残念ながら(?)人は放っておくと長時間働くことに満足感を感じてしまう生き物であり、成果を重視した自由な働き方を許容されると、ついつい長く働いてしまうようです。

しかし長時間労働は長い目で見ると悪影響が大きく、長く働いたからといってそれが生産性や成果につながっているかというと甚だ疑問です。

アメリカのフォードモーター社は1900年代初頭、労働生産性が最も高まる労働時間を割り出すために、さまざまなテストを行いました。その結果、週40時間の労働が最も生産性が高く、20時間追加すると、3~4週目までは少し生産性が高まるものの、その期間を過ぎると悪化することが判明したそうです。以下のTIME誌の記事を読むと、労働時間は生産性に直接的に影響をしていることがよくわかります。

参考:TIME "Stop Working More than 40 Hours a Week"
http://business.time.com/2012/04/26/stop-working-more-than-40-hours-a-week/

では、長時間労働で満足を感じる人々の意識を労働生産性で満足を感じられるように転換するためにはどうしたらよいのでしょうか。そのヒントとなるのが、味の素社の事例です。

一般的な企業が所定勤務時間を8時間とするなか、味の素社の所定労働時間は現在7時間35分。それを2017年の4月にはさらに短い7時間15分へと変更するそうです(基本給の変更はなし)。

味の素社の短時間労働について考察した東洋経済オンラインのこちらの記事(http://toyokeizai.net/articles/-/111083)で最も興味深かったのが、

"味の素は労働時間短縮のために様々な仕組みを整備するだけでなく、それを利用する社員の「意識」を変革させることを、同じくらい重要視している"

という一文です。

記事によると、社内では「働き方計画表」というツールを利用しており、社員一人ひとりが残業時間や有給取得日など自己の労働時間を計画し、上司や同僚と共有しているそうです。

長時間労働に満足しがちな意識を「生産性」へと向けるためには、個人の自由な裁量に委ねるだけではなく、厳密な勤怠管理を実施し、現状の「見える化」を徹底することが重要だということが強く感じられます。これこそが、コンプライアンスや給与計算だけではない、本来の勤怠管理の意義ではないでしょうか。

「勤怠管理」は、実施することが自己目的化してしまっては意味がありません。あくまでも生産性向上の手段として認識すべきものです。だからといって効率化だけを追求するのではなく、社員の心と体が健康かどうか、意欲をもって仕事に取り組んでいるかどうかをチェックする体制と整える。その安心感こそが企業と従業員の強い信頼をつくり、高い生産性へとつながっていくように思います。

今、社内の生産性について課題を感じている企業も、もしかしたらすでに実施している勤怠管理に少し工夫を加えるだけで、状況が劇的に変わる可能性もあるかもしれません。労働時間、休日・休暇についてはかなり曖昧に解釈されていることも多く、正しく理解していないことが長時間労働につながっている可能性も大いにあります。

社内の生産性を高める勤怠管理を実現するためには、まずは労働基準法の内容や勤怠管理の手順をしっかりと理解することが重要です。次回からは勤怠管理の基本の「き」について、詳しく紹介していきたいと思います。



長時間労働を抑制する「勤怠管理」の基本

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