2016.10.20

長時間労働を抑制する「勤怠管理」の基本(7)
~みなし労働時間制とみなし残業~

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みなし労働制時間制とは?

今回は「みなし労働時間制」について考えてみたいと思います。

「みなし労働時間制」とは、

  • 労働時間を正確に算定することが困難である場合
  • 業務の遂行方法を労働者本人の裁量に委ねる必要がある場合

に、あらかじめ設定した「みなし時間」によって労働時間を計算することができる制度です。

例えばある企業で「この職種の1日の労働時間は大体8時間くらい」と決めた場合、実際の労働時間が1時間であろうと10時間であろうと「8時間勤務」とみなし、8時間分の賃金を支払うという仕組みです。

このように説明すると、みなし労働時間制を導入すれば「実労働時間を管理する必要がない」「残業代を支払う必要がない」「深夜・休日労働の割増賃金も支払う必要がない」と勘違いされるケースが多いのですが、これらは全て誤りです。

みなし労働時間が「1日10時間」というように法定労働時間を超える場合には、36協定を結ぶ必要があり、法定外労働時間にあたる時間の給与については割増賃金を支払う必要があります。また深夜・休日労働についても、原則通り割増賃金が適用されます。

ちなみに1日8時間というみなし労働時間を設定している場合に、3時間の休日出勤をしたとします。その場合も、みなし通り8時間働いたとされ、8時間分の休日手当が別途支給されることになります。

「みなし労働時間制」を活用すれば

  • 従業員の労働時間管理がシンプルになる
  • 労働時間と成果が必ずしも連動しない業種・職種においては、「成果よりも長時間働いている人の方が給料が高い」というような不公平感をなくすことができる

などのメリットがあります。しかし、導入にあたっては注意しなくてはならない点がたくさんあります。誤った解釈・運用をしてしまうことのないよう、まずは制度を正しく理解するところから始めましょう。

「みなし労働時間制」が適用できる職種は限られている!

労働基準法では、「みなし労働時間制」を次の3つに限定して認めています。

◎事業場外労働のみなし労働時間制
◎専門業務型裁量労働制
◎企画業務型裁量動労制

上記の条件に該当しない従業員には、「みなし労働時間制」を適用することはできません。

◎事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)とは、

"労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間にかかる算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなす"

ことのできる制度です。例えば外回りの営業マンや新聞記者など、業務を社外で行っているために労働時間を正確に算定するのが難しい、もしくは業務の時間配分を指示するのが困難である場合には、その事業場外労働について、事前に設定した所定労働時間の労働を行ったとみなすことができます。

ここで重要なのは、事業場外みなし労働時間制の適用条件として下記の3点を満たす必要があるということです。

(1)事業場外(会社の外)で業務に従事
(2)会社の指揮監督が及ばない
(3)労働時間を算定することが難しい

ところが(1)さえ満たしていればこの制度が適用できる、つまり残業代の支払いが必要なくなると勘違いし、労使トラブルから裁判へと発展してしまうケースもあるようです。

2015年には、とある有名企業の元社員2名が、「事業場外みなし労働時間制」の対象とされたために適切な残業代が支払われなかったと、労働審判を申し立てました。彼らは入社直後から外回りの営業担当をしていたそうですが、「事業場外みなし労働時間制」を適用され、月に最大80時間近くの残業をしていたにもかかわらず、適切な残業代が支払われなかったということです。

このケースでは、(2)(3)が満たされているかどうかがポイントとなりました。元社員は始業時には支店に出勤し、外出後は支店に戻っていたそうです。さらに会社から貸与された携帯電話やiPadで、事業所の外でも上司と頻繁に連絡を取っていたということで、「会社の指揮監督が及ばない」「労働時間を算定することが難しい」という条件に当たるとはいえないのではないかというのが争点となったのです。

労働基準法では、例えば次のような場合は事業場外の労働であったとしても使用者の指揮監督が及んでおり、労働時間の算定が可能なので、みなし労働時間制の適用はできないとされています。

(1) 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
(2)無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
(3)事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

上記の基準に照らしあわせると、彼らの勤務実態が「労働時間の計算が困難な場合」に当たるとは考えにくいということになります。結局この裁判では元社員と企業が和解するという形で終わりましたが、携帯電話やタブレットなどのモバイル端末が普及した今、事業場外の業務に対して「会社の指示が及ばず」、「労働時間の算定が難しい」状況というのは、かなり限られてしまうように思います。

最近では在宅勤務者などにこの制度を採用することを考える企業もあるようですが、もう一度(2)(3)の条件に本当に合致しているかどうかについて確認する必要がありそうです。

下記の厚生労働省の資料では、これまでの裁判の判例などの詳しい情報が記載されています。是非ご参照ください。

厚生労働省 東京労働局 「『事業場外労働に関するみなし労働時間制』の適正な運用のために」
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/jigyoujougai.pdf

ところで「みなし残業」って何??

さて少し話はそれますが、最近「みなし残業」という言葉もよく耳にします。「あらかじめ月の大体の残業時間を決めておき、固定で残業代を支払う」仕組みを意味しますが、実は労働基準法やその他の法律上に「みなし残業制度」という言葉はありません。

同じ内容を指すものとして、法律では定められていませんが過去の裁判例により一定の条件のもとで認められている「定額残業代(固定残業代)」というものがあります。

【定額残業代(固定残業代)】

毎月の給料に一定の残業代(割増賃金)を含めて支給するものです。例えば月20時間分の残業手当を定額残業代として支払う場合、実際の残業時間がそれより少なくても残業代は差し引かれません。

定額残業代を導入すれば、短時間で仕事が終わった場合には労働時間単価があがるため、効率的に業務を行おうという意識が働くようになります。また「要領が悪くて仕事に時間がかかる人の方が残業代をたくさんもらえる」という不公平感を解消することもできます。給与計算業務を簡略化できるというメリットがあります。

もちろん「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが法律的に許されているわけではありません。労働基準法では残業時間の上限が定められていますし、残業時間や休日労働をさせるためには36協定を締結し、労働基準監督署に届出なくてはなりません。

定額残業を採用する際に最も注意しなければならないのは、

  • 残業手当を支給する際に、その手当は残業何時間分の金額であるかを、就業規則や雇用契約書に明記しなくてはならない
  • 通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分との判別をしっかりとつけておかなくてはならない

ということです。前回のコラムでご紹介した通り、法定時間外残業については賃金を時給換算した金額に1.25を掛けた割増賃金を支払うことが労働基準法で定められています。定額残業代は、その割増金額にみなしの残業時間を掛けて計算することになります。さらに、残業時間が事前に設定した時間を超過したり、残業が深夜や休日に及んだりした場合には、休日・深夜の割増賃金も考慮する必要があります。

定額残業をめぐっては、労使間でたびたび裁判や労働審判が起きています。定額残業の有効性の判断は、通常の労働時間の賃金と残業代部分を判別することができる状態であったかどうかが重要な基準となるようです。

一見便利な定額残業の仕組みですが、導入する際には細心の注意が必要です。

定額残業(固定残業)については、こちらのコラムもご参照ください。

「年俸制だから残業代は支払わなくてもOK」ってホント!?正しい「年俸制」導入のポイント
https://www.teamspirit.co.jp/catalyst/work-style/annual-salary-system.html

次回は「裁量労働制」について考えます。



長時間労働を抑制する「勤怠管理」の基本

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