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会議にはさまざまなバイアスがかかる

 さて、今までは個人の意思決定にまつわるクセやバイアスをいろいろ見てきた。しかし、企業や組織では個人ではなく集団で意思決定をすることが多いであろう。政府も家庭も集団で意思決定するし、友だち同士でもグループでの意思決定がよくある。組織や企業では、集団意思決定とは会議による決定であろう。

 会議で決めるというような集団意思決定は、「三人寄れば文殊の知恵」という言葉が示しているように、個人より賢い合理的で適切な決断ができるのだろうか? それとも、「会議は踊る」「船頭多くして船、山に登る」という事態に陥っていないだろうか。そもそも集団意思決定は、個人が決定する場合よりもバイアスを免れ、合理的な決定ができるのだろうか? 今回と次回は、集団による意思決定の問題点について見ていこう。

集団意思決定には個人の意思決定とは異なるバイアス

 言うまでもなく、集団による意思決定には数々の利点がある。そうでなければ、企業組織であっても個人による決断がなされるであろう。

 集団による意思決定の利点は、次のような点にあると言える。まず第一に、複数の個人が集まって自由に意見交換できるならば、多様な情報が得られ、独善に陥るのを防げることである。第二に決定事項のメリットやデメリットをより客観的に判断できることが挙げられる。特に、合理的推論によって客観的な答えが出せるような問題(たとえば、数学的計算)に関しては、より正しい答えが導かれるという利点がある。

 また、「会議が多すぎる」という指摘がしばしばなされるが、会議に加わることで意思決定に参画したという満足感が得られるのも確かだ。さらに、会議に参加することによって知的刺激を受け、組織の持つ問題点を再認識したり、組織への忠誠心が高まり、参加メンバーを成長させるという利点もある。

 このような利点ばかりであるならば、会議ばかりの企業や組織においても、集団意思決定の恩恵は計り知れない。しかし、集団意思決定には、個人の意思決定とは異なるバイアスや問題点があり、それらはしばしば集団意思決定の利点を帳消しにするほど大きな欠点となってしまう。

 もちろん、そのような決定事項の質が左右されるような問題以前に、集団意思決定は個人の意思決定に比べて時間やコストがかかるという、場合によってはきわめて大きな問題がある。ここでは、時間やコストの問題ではなく、集団意思決定が持っている決定の質に関わるような問題点を取り上げる。集団意思決定の欠点として、次の6点が特に顕著であると指摘されている。

 (1)「バイアスの増幅」。前回までに見たきたような、個人的な意思決定に際して人々が持っているさまざまなバイアスが、集団ではより増大してしまう。

 (2)「共有情報バイアス」と言われる現象があり、会議参加者の持つ情報の偏りによって決断が大きく左右される。

 (3)「集団浅慮」があり、集団で決定すると本来の目的とは離れた別の目的に視点が移り、浅知恵になり易い。

 (4)「カスケード効果」と言われる現象がある。これには参加メンバーの同調性や上司への服従が関係する。

 (5)「集団極端化」と言われる問題点がある。

 (6)「社会的手抜き」と言われる現象が起こり得る。

「集団の決定は正しい、合理的である」との誤解

 それぞれについて見ていく前に、一つだけ注意すべき点を取り上げる。それは、ジェームズ・スロウィッキー著の『「みんなの意見」は案外正しい』(小高尚子訳、角川書店)という書籍が評判になったために、「みんなの意見」を聞いて、集団で決定すればたいていは正しい、合理的な決定ができるという誤解が少なからず生まれていることである。

 同書では次のような実験や観察が紹介されており、集団の意見を聞いて決定することで、個人の決定よりはるかに優れた結論が得られたとする。

 例えば、透明なビンの中に入った小さい玉の数を推測させるという実験がある。56人のグループに850個の玉が入ったビンを見せて数を推測させると、平均値は871個であった。これより正しい予測をしたのは1人しかいなかった。グループ全体での予測の平均値は実際の値にかなり近いが、個人では見当外れの予測もあり、バラツキが大きかったのである。また、太った牛の体重を当てるというコンテストでは、543.4kgの牛の体重を787人の参加者が予測したが、平均値は542.9kgであり、個人のどの予測よりも正解に近かった。

 このような例がいくつか示されているため、「みんなの意見」を集計すると正しい予測が得られるとの誤解が生じやすい。これらの例では集団の推測から得られた平均値は正解に近いが、実際は、正解に近い値を得るためには厳密な条件が必要となる。それは、みんなの予測がバラバラになされ、相互に影響を及ぼし合わないという条件である。統計用語で言えば、「エラーの相関がない」ということである。そうすると、平均から上に離れた予想も、下に離れた予想もありうるが、平均すると乖離幅はゼロになり、全体として優れた予測が得られるわけである。

 しかし、会議などに代表される集団意思決定では、この「相互に影響しない」という条件が満たされることはまずないことに注意しなければならない。会議では他人の意見に左右され、同調圧力や上司からの目に見えない圧力にさらされて、違う意見を言うのは難しいこともよくあるため、この条件は満たされない。皆が同じ方向にバイアスがかかる意見を持っていたら、意見を集約してもバイアスは減らないのである。つまり、「みんなの意見」は案外正しい、とは普通は言えないのである。

 これらの具体的な問題点については次回以降詳しく見ていこう。