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 この連載では、これまで様々なバイアスについて見てきた。いくつか列挙すると、「後知恵バイアス」「確証バイアス」「ハロー効果」「平均への回帰の無視」などだ。まだまだ多くのバイアスが存在しており、それらを全て取り上げることはできなかったが、連載の最後にあたり、「ではどうしたらバイアスをなくせるのだろうか」という「バイアス解消法」あるいは「脱バイアス」について考えてみたい。残念ながらバイアスを完全になくすような特効薬は存在しないが、バイアスを軽減する方法は存在する。それを見ていこう。

 この分野の第一人者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏でさえ、認知的錯覚(バイアス)は克服できるかとの質問に対して、「あまり期待できない」と答えている(『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』同氏著、早川書房)。バイアスはシステム1(直感や感情に基づくもの、「反射システム」)が引き起こすことが多いが、システム1はスイッチが入りっぱなしで切ることができないし、システム1の判断や意見の間違いを修正するはずのシステム2(よく考えた上で判断を下すもの)はしばしば怠けたり、知識がなかったりするため、それを正すことができないのである。

 では、どうしたらいいのだろうか? バイアスを完全に克服できないにしても、軽減する方法は知られている。研究者によって様々な提案がなされているが、ここではかなり合意が得られていると思われる対策について見ていこう。主として個人の意思決定に関するバイアスが対象だが、集団の意思決定においても、それに参加する個人がこのような対策をとれば、集団意思決定のバイアスも軽減されることにつながる。

 有効な対策としては、6つ考えられる。順番に見ていこう。

頑なな態度を改めるのがバイアス軽減の第一歩

 第1に、「バイアスは誰にでもある普通のことだ」と考えることである。自分がバイアスを持っているからといって知的に劣っているわけではなく、恥ずかしいことでもない。バイアスは誰にでもあり、自分だけが特別というわけではないのだ。だからといって安心してバイアスを見過ごすのではなく、人間誰もが持っている弱点の1つだと捉えればよい。「自分は正しいとか、自分は直感に自信がある」といった間違いを認めない頑なな態度を改めることができる。これを自覚することが、バイアス軽減の第一歩である。

 第2に、どんなバイアスがあるのか知ることである。この連載で扱ったようなバイアスは特殊なものではなく、誰にでも起こり得るありふれたものだ。どんなバイアスがあり、どんな間違った判断をしやすいのかを知っておくことは、バイアスを防ぐための重要な手段である。

 第3に、部外者や第三者の意見を参考にすることである。様々な観点から見てきたように、人の判断には感情が極めて大きな影響を及ぼす。意思決定の当事者ではない第三者や部外者は、意思決定にまつわる感情の影響が全くないか、小さくて済む。そこで、当該の意思決定問題とは無関係な人に、判断の良し悪しを判定してもらうことは、バイアスのかかった判断を免れる有効な方法なのである。その際、結果を確実にフィードバックしてもらわなければならない。

 そして、自分自身の判断や決定を第三者の目で見ること、すなわち自分の判断を「メタ認知」することが重要である。他人の判断についてバイアスがかかっているかどうかは比較的分かりやすいので、まずは、それから取りかかるのがよい。その後で、自分もバイアスから逃れられないと考え、自分の判断がバイアスに侵されていないかどうかを、部外者の視点で判定すればよい。

 第4に、判断から実行までの間に意識的に時間をおくことである。そしてその間に自分の決定をもう一度見直すことが重要である。なぜなら、時間をおくことで、当初持っていた感情が薄まるからである。怒りや不機嫌、後悔、がっかり、あるいは浮かれた気分や高揚感、さらにひらめきや第六感など、我々の意思決定に大きな影響を及ぼす直感・感情は、通常は時間が経てば薄くなる。その間に以前の判断や決定を再検討すれば、当初はバイアスがかかっていた判断を見直すことができる。

 第5に、専門知識を身につけること、特に数学や統計の知識を得ることである。統計学の知識があれば、相関と因果の混同などの初歩的な誤りが防げる。ちなみに、統計データからだけでは因果関係を導くことはできない。また、単なる平均への回帰に過ぎないのに、因果関係を無理矢理考え出すこともなくなる。さらに、数学的知識を得ることで、様々な出来事に対して偶然が及ぼす重みを理解でき、不要なバイアスを取り除くことができる。

 第6に、システム1をうまく活用することである。システム1は、われわれの意思決定に大きな影響を及ぼし、しばしばバイアスを生む元となっている。このシステム1を逆にうまく利用し、それによってバイアスから脱することができる。たとえば、意思決定を取り巻く環境を変えることで行動を変えさせるという「ナッジ」という方法が極めて有効である。以前見たように、いったん設定した初期設定は変更しにくいし、自分の選択肢を予め絞ってしまうというコミットメントという手段もある。それらによって、大きなバイアスである近視眼性から、ある程度は逃れられる。

 これらの方法は単独ではなく複数を組み合わせた方がもちろん効果は大きい。また、合理的判断をすれば金銭的報酬が得られるといったインセンティブを利用しても、バイアス除去にはほとんど効果がないことは知っておいた方がよいだろう。