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集団意思決定においては、ときに「分からず屋」も必要?(写真はイメージ)

 集団意思決定に関しては前回、6つの落とし穴があると述べた。第1に「バイアスの増幅」、第2に「共有情報バイアス」、第3に「集団浅慮」、第4に「カスケード効果」、第5に「集団極端化」、第6に「社会的手抜き」である。今回は、第4から第6の問題点について説明しよう。

「空気を読む」のは人間共通の性質

 まずカスケード効果から説明しよう。カスケードとは、小さな滝が連続していると水が次から次へと流れるように、何かの現象や事態が次々と連鎖的に生じることを指す。カスケード現象には、同調性や権威・権力からの圧力、服従性が関係する。わが国でよく見られる「空気を読んでその場の雰囲気に合わせるとは、まさにこれである。

 心理学者のソロモン・アッシュの実験がこれを物語っている。まずアッシュは、実験参加者に3本の線が書かれたカードを見せた。次に、1本の線が書いてあるカードを見せ、それは最初のカードのどれと同じ長さだと思うかを、10人の参加者に順番に答えてもらった。どれが正しいのかは一目瞭然になっている。ところがこの実験では10人中9人が"サクラ"であり、わざと間違った回答をする。真の実験対象者は最後の1人だけである。

 正しい答えを言うのは簡単だが、明らかに間違った答えを皆が言うのを聞いてしまうと、自分の信じる正答を答えることができずに、皆の意見に合わせて間違った答えを言ってしまう。この実験はいろいろな場所やいろいろなメンバーで何回も行われたが、正しい答を言ったのは、平均すると25%程度である。75%の人は、間違っていると思いながらも、多数派に従ってしまうのである。日本人はこのような傾向が強いと言われることが多いが、実験結果には、国による違いはほぼなかった。「空気を読む」のは日本人に限った現象ではなく、人間共通の性質なのである。

 カスケードは「情報カスケード」と「評判カスケード」の2つに分けて考えられる。情報カスケードとは、自分が信じている情報であっても、他の人が異なることを言うと、それに引きずられてしまうことである。評判カスケードとは、自分だけが少数派で異なる意見を言うと、権威者に逆らうことになったり、集団内で評判が悪くなったりするのを嫌い、違う主張ができないことである。この2種類のカスケードにより、結局多数派に従ってしまうのがカスケード効果である。この場合には、よい意見や正しい情報を持っていたとしても、それを発言しないことが多くなり、結果として決定の質の低下につながる。

集団の意思決定は極端な方向に偏る?

 次に「集団極端化」と言われる問題について見ていこう。集団極端化とは、集団で意思決定をすると、個々のメンバーの持っている考えが、より過激でより極端な方に偏り、それを反映した結論が出やすいことを言う。

 例えば、リスクを含むような決断をする時には、メンバー個々が持っているリスク態度がリスク追求的であれば、集団による決定はさらにリスク追求に偏る。これを集団意思決定の「リスキー・シフト」という。逆に個々のメンバーがリスク回避的であれば、集団決定では一層リスク回避的になる。これは「コーシャス・シフト」と呼ぶ。いずれにせよ、個人が決定した場合に比べて、集団ではより極端な方向に偏った結論が得られがちになる。

 集団極端化の原因として、前述のカスケード効果が考えられる。たとえば他者が自分と同じくリスク追求的であれば、自分の判断により強い自信を持つことになるが、メンバーが皆同じように考えると、集団では極端な方向に進むことになる。

集団でブレストするとアイデアの質は落ちる?

 最後に「社会的手抜き」といわれる現象がある。この現象は、集団での意思決定の問題というより、意思決定後の集団での実行段階で生じる問題と捉えられることが多い。グループで掃除をすると誰かがさぼったり、綱引きでも神輿担ぎでも必ず誰かが手を抜いたりといった状況が見られる。様々な実験でもそれは裏付けられている。個人で行動したとき最大限出せる成果を人数分総和した値と、集団で行動した時の成果を比べると、前者の方がかなり大きいことがよくあるのだ。グループ作業では個々人が、持っている最大の力を出さずに手抜きをし、他の人の努力にただ乗りしようとするのである。

 ところが集団的手抜きは、実行段階だけで生じるものではない。意思決定の際にも、社会的手抜きによって決定の質の低下が問題とされることがある。前回説明した「集団浅慮」という現象が生じることに関して、自分の持っている意見や情報をすべて検討し会議で発言することをせずに、議論を他の人に任せてしまうのも、社会的手抜きと言うことができる。

 また、ブレーン・ストーミングでアイデアを出し合うこともよくある。ブレーン・ストーミングは、よく知られているように、他人の提案を批判せずに自由に提案が出せるため、新しい良い提案が出やすいと信じられており、様々な集団でよく用いられている。しかし、この場合にも社会的手抜きが生じることが確かめられている。つまり、1人だけで考える場合に比べて、集団でブレーン・ストーミングをすると、結局アイデアの質が落ちてしまうのである。つまり、社会的手抜きは意思決定段階でも生じうるのである。

集団意思決定の問題を回避する方法は?

 以上、集団意思決定の問題点として、前回と今回で6種類の類型を見てきた。最後に、このような集団意思決定の問題を回避する方策について、簡単に見ておこう。決定的な万能薬はなさそうである。しかし1つ効果的なのは、評判を気にせず、他の人からの情報にもあまり左右されずに、自由に意見を述べることのできる人の存在である。よく言えば「ご意見番」、悪く言えば「分からず屋」が必要なのである。

 また、組織のリーダーがまず口を開いて議論をリードするような議事進行はどんな組織においてもよく見られるが、これは避けるべきである。集団意思決定研究の第一人者であるキャス・サンスティーンとリード・ヘイスティは著書『賢い組織は「みんな」で決める:リーダーのための行動科学入門』(NTT出版)の中で、このような集団は、「集団内で適切な情報を収集して、可能性をみんなで検討する前に、リーダーが自分の進めたい方針を発表してしまうような愚かな集団」(同書72ページから抜粋)であると断罪する。