高度プロフェッショナル制度の対象労働者

高度プロフェッショナル制度の対象業務

高度プロフェッショナル制度の対象業務は「高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間として従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして、厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」とされています。
要するに、高度な専門知識を必要とする職業で、しかも働いた「時間」と「成果」が連動しないと認められる業務です。
具体的には

① 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

② 資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断 に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は 投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

③ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する 助言の業務

④ 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案 又は助言の業務

⑤ 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

などが挙げられます。

高度プロフェッショナル制度の対象労働者

高度プロフェッショナル制度を適用する労働者は、上記の対象業務に就いているのはもちろん、それ以外に2つの条件を満たしていなくてはなりません。

①使用者との合意に基づき、職務が明確に定められていること

②労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額が、基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回ること

高度プロフェッショナル制度の適用にあたっては、業務内容、職位、求められる水準(成果)を明確に定め、書面に残す必要があります。また②については省令によって、「1,075万円」と定められています。

労働時間の把握と休日付与

健康管理時間の把握義務

高度プロフェッショナル制度の対象労働者は始業・終業時刻、休憩時間、勤務時間帯、休日のすべてを自己の裁量で決めることができます。使用者は割増賃金を計算する根拠としての労働時間の把握義務は課されません。その代りに対象者の健康管理を行うための「健康管理時間」の把握義務が課されます。

健康管理時間とは、対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計を指します。両方ともに自己申告ではなく、タイムカードなど客観的な記録で把握することが原則になっています。「事業場内にいた時間」に休憩時間を含むのかどうか、「事業場外で労働した時間」をどのように把握するのかなどについては、「労使委員会」を作って審議・決定しなくてはなりません。

年間104日の休日付与

高度プロフェッショナル制度の対象者には「1年間を通じ104日以上かつ4週間を通じ4日以上の休日」を与えなくてはなりません。労働基準法では「毎週少なくとも1回の休日を与えるか4週間を通じて4日以上の休日」を付与しなくてはなりません。

健康確保措置

高度プロフェッショナル制度では労働時間という概念が完全に取り払われます。労働者の長時間労働を阻止し、健康を守るために、上記に挙げた「健康管理時間の把握」と「休日付与」のほかに、以下の4つのいずれかに該当する措置を講じなくてはなりません。

①勤務間インターバル制度と深夜業務の日数制限

労働時間に24時間について、継続した一定の時間以上の休息時間を与える制度です。インターバル時間は11時間以上、かつ、1ヶ月の深夜業務の回数を4回以内としなければなりません。

②健康管理時間の上限設定

いわゆる「労働時間の上限規制」に当たる概念です。高度プロフェッショナル制度対象者については、健康管理時間を、1ヶ月で「100時間」または3ヶ月で「240時間」を超えない範囲にするよう定めています。

③連休制度

1年に1回以上の継続した2週間について休日を与える制度です。もしこの2週間の休日の期間に使用者が年次有給休暇を与えた場合は、その期間は2週間から除かれるので注意が必要です。

④臨時の健康診断

厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断を実施する制度です。健康診断の対象となる要件は、「健康管理時間が週40時間を超え、その超えた時間が月80時間を超えた場合、また本人から申し出があった場合」、また「疲労の蓄積や心身の状況等から必要と認められる場合」です。

使用者は上記4つのうち1つを選び、実施状況を労働基準監督署に報告しなくてはなりません。

健康管理時間の状況に応じた健康確保措置

上記に加え、使用者は対象労働者の健康管理時間に応じて、追加の健康確保措置を講じる必要があります。高度プロフェッショナル制度対象者については、「1週間あたり40時間を超えた場合、その超えた時間が月100時間を超えた」場合、医師による面接指導の対象と成ります。これは労働者の申出の有無にかかわらず、実施する義務があります。この面接指導に関する違反には罰則が設けられているので注意が必要です。

高度プロフェッショナル制度導入の流れ

高度プロフェッショナル制度の適用にあたっては、以下の手順が必要です。

① 労使の代表による「労使委員会」の設立


この労使委員会で対象業務、対象労働者の範囲、健康管理時間や健康管理措置などについての決議を行います。決議には委員の5分の4以上の多数による決議が必要で、決議後は所定の様式で労働基準監督署に届け出る必要があります。

② 対象労働者の同意を得る

たとえ一度同意をしたとしても、労働者には同意を撤回する権利があります。労使委員会では、撤回の手続きについても細かく定めておく必要があります。

③実施状況の記録保存と報告

もちろん導入して終わりではありません。導入後には、休日、健康確保措置、健康管理時間の状況に応じた健康確保措置の実施状況を労働基準監督署に報告しなくてはなりません。また実施状況の記録保存も義務づけられています。

高度プロフェッショナル制度は「残業ゼロ法案」などと揶揄され、国会でも猛烈な反対を受けながら成立しました。冷静に考えれば、制度の対象業務・対象労働者は非常に限られており、みんながみんな残業ゼロで働かせ放題になるわけではありません。また年間104日以上の休日付与というのも非常に手厚い休日制度と言えます(1年を52週とすると、労働基準法で全ての労働者に対して付与を義務づけられた休日は最低でも年間52日です)。

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