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まずは、「つながるモノ」の数を把握することから始まる

 フェルミ推定をご存知でしょうか? 「日本全国に電柱は何本あるか?」「世界に猫は何匹いるか?」といった、とらえどころのない膨大な数量を短時間で算出する手法のことです。元々は外資系のコンサルティング会社やIT系の会社において採用面接で用いられてきたことで有名になりました。イタリア生まれの物理学者であるエンリコ・フェルミがシカゴ大学において「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」という質問を学生に投げかけていたことから命名された手法です。

 変化の激しい環境下で次々と新しい発想を生み出す必要があるこのような会社では、単に過去の知識をどれだけ覚えているかでなく、限られた情報から短時間で論理的に仮説を導いて検証していく力が求められるために、その思考力を見るために面接試験においてフェルミ推定が用いられてきたのです。

 このように、あえて「荒唐無稽」とも言えるほど膨大な数量を算出することで思考力を鍛えるというのが特徴だったフェルミ推定の位置付けが、IoT(Internet of Things)の普及によってもはや「荒唐無稽」どころか、仕事に直結する必須の能力になりつつあります。

フェルミ推定がIoTで仕事に直結

 「モノのインターネット」としてのIoTにおける「モノ(Things)」の数は、これまでにはなかった膨大な数量となります。例えば世界中の家のドアにセンサーをつけたり、世界中の監視カメラをネットに繋いだりといったシナリオが普通に語られるようになってきたからです。

 そのようなシナリオを考えるとなると、それまでは「荒唐無稽」だった「世界にドアはいくつあるか?」や「世界に監視カメラはいくつあるか?」といったフェルミ推定の問題が、現実のIoTの事業計画と直結したものとなってきます。

 IoTの議論では技術的な側面が前面に出がちですが、重要なのは、さまざまな「Things」がインターネットにつながったり、あらゆるものにセンサーがついた時にユーザーとしてどんな日常の利用シナリオを描き、将来像を描けるかです。

 このような場合にも簡単な事業計画のチェックとして、「世界に○○は一体いくつあるんだろう?」といった疑問を持つことが非常に重要になってきます。

「世界にワイングラスはいくつあるか?」
「世界に横断歩道はいくつあるか?」
「世界にコンセントはいくつあるか?」

 といった、ひと昔前なら直接的には「何の役にも立たなかった」ような質問も、IoTの世界では「荒唐無稽」ではなく、むしろそのような質問を考えることで「全てがネットでつながった世界」への想像を掻き立てることができるようになります。

 考えてみればIoT以前にも、そうした例はありました。例えば米グーグルの「Google ストリートビュー」です。ストリートビューは、「世界中の道を全て撮影しよう」という壮大な構想ですが、おそらくその「突拍子もないこと」を最初に考えついた人々は遅かれ早かれ「世界中の道の総延長距離は何キロになるのか?」「それを車で撮影したら何台の車が必要でどれだけのコストがかかりそうか?」といった質問に直面したはずです。

 私たちの将来の生活を考える上で、IoTは大きな変化をもたらすはずです。そのような未来を考える上でフェルミ推定を活用してみてはいかがでしょうか?