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毎年、経済産業省によって認定される「健康経営優良法人」。2020 年には大規模法人部門1,481法人、中小規模法人部門4,723法人が「健康経営に取り組んでいる企業」としてお墨付きをもらいました。このように近年では、国を挙げて"健康経営の輪"の拡大を目指しており、健康増進の取り組みへの機運が高まってきています。

しかし、「健康経営を自社にも導入したい」と考える経営者や人事労務の担当者は少なくないものの、「何から取り組むべきか」という改革へのビジョンが不明瞭なケースも多いでしょう。そのため、自社における導入において初めの一歩を踏み出せずにいるのかもしれません。そこで今回は健康経営の実施を検討中の企業に向けて、健康経営に取り組む企業の事例を紹介します。自社の課題解決のヒントとして、成功企業の取り組みを参考にしましょう。

多くの企業が取り組む「健康経営」とは

経済産業省が中心となって推進している健康経営とは、従業員1人ひとりの健康を経営課題と捉え、企業戦略として健康管理に取り組む経営手法です。企業の根幹を担っているのは言うまでもなく人材であり、従業員の健康状態が企業経営に大きな影響を及ぼすという考え方に基づいています。つまり、従業員の健康を配慮することは、生産性向上や組織の活性化にもつながり、ひいては業績アップや株価向上、企業ブランドのイメージアップにもつながることが期待できるでしょう。

健康経営の考え方は、アメリカの経営心理学者・ロバート・ローゼン氏の「ヘルシーカンパニー思想」を起源としています。要約すると、会社経営は従業員の健康のうえに成り立っており、経営的な視点で健康の維持・増進を考えなければ永続な成果は得られないという内容です。従業員の健康を顧みずに目先の利益ばかりを追い求めているようでは、長期的な成功を収めることは難しいと結論づけています。

多くの企業が取り組む「健康経営」とは

健康経営の注目度が高まっている背景には、近年の少子高齢化の影響があります。労働人口が減少し若手人材の採用が困難になる中、労働環境が悪い企業に人材が集まりにくいことは想像に難くありません。また、シニアが中心で従業員の平均年齢が高まった職場では、生産性低下を防ぐかが課題となります。そうした経営面におけるリスクマネジメントの一環としても、健康経営の考え方は重要です。"安心して働けるホワイト企業"として若手人材が集まりやすくなることで、企業としての成長や将来性も見込めます。

健康経営に関連する各種認定制度

経済産業省は、2015年より健康経営に取り組む優良企業に対し認定制度を設けています。制度の種類には「健康経営優良法人」「ホワイト500」「健康経営銘柄」があり、認定されることで自社をホワイト企業として世間に向けてアピールすることもできるでしょう。健康経営を実施するうえでは、それぞれの制度の内容を理解したうえで認定取得を目指すのも1つのやり方です。健康経営における優良企業を認定する制度の基準や詳細を紹介します。

健康経営に関連する各種認定制度

健康経営優良法人

健康経営に取り組む優良な法人を可視化する制度です。地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が促進する勤労世代の健康増進に取り組む企業の中でも、特に優良な健康経営を実践している企業が顕彰されます。この認定を受けることは、ホワイト企業としての1つのステータスにもなり得るでしょう。健康経営優良法人には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2つに分かれており、どちらの部門に該当するかは下記の常時使用する従業員の人数によって決まります。

大規模法人部門中小規模法人部門
製造業その他......301人以上 製造業その他......1人以上300人以下
卸売業......101人以上 卸売業......1人以上100人以下
小売業......51人以上 小売業......1人以上150人以下
サービス業......101人以上 サービス業......1人以上100人以下

ホワイト 500

ホワイト500は、上記の健康経営優良法人のうち、大企業や医療法人を対象とした大規模法人部門の認定法人を指す通称です。以前までは大規模法人部門全体がホワイト500と呼ばれていましたが、「健康経営優良法人2020」からは大規模法人部門認定法人のうちで健康経営度調査結果の上位500法人のみに与えられる形に変更になりました。大規模法人の中でさらに上位500法人に入っていることの証しになるので、対外的なアピールにおいても申し分はありません。

健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が共同実施で行う認定制度です。そのため、東京証券取引所に上場する企業の中から認定企業が選ばれます。ただし、認定されるのは1業種につき1企業のみで、長期的な安定や企業価値の向上など、「投資家にとって魅力的な企業であるか」が重要な選定基準となります。上位500法人のホワイト500とは異なり、認定を受けるためのチェック項目や多い点が特徴です。

<健康経営銘柄の選定基準>

  • 東京証券取引所に上場する企業である
  • 1業種につき1企業のみ選出される
  • 社内の体制づくりなど健康経営の必須項目を満たしている
  • 「健康経営度調査」の総合評価の順位が上位20%以内であること
  • ROE(自己資本利益率)の直近3年間平均が0%以上であること
  • 重大な法令違反の有無

健康経営優良法人の取り組み

近年では多くの企業が健康経営の取り組みに励んでおり、健康経営優良法人に認定される法人の数も年々増加傾向にあります。もちろん、従業員の健康管理をするうえで認定を受けることがすべてではありませんが、優良企業の模範となる取り組みを取り入れることは有益だと言えるでしょう。経済産業省発行の「健康経営優良法人取り組み事例集」をもとに、健康経営優良法人認定企業の実際の取り組みを紹介します。

事例1:定年後も健康的に長く働ける環境整備に取り組むA社

建設・土木工事、除雪の事業を営むA社では、業務において肉体労働が多い点が特徴です。体が資本となるだけに、「従業員には健康的に長く働いてほしい」という考えから健康経営に積極的に取り組むようになりました。

<取り組みのポイント>

  • 毎月安全大会を実施し、管理職や従業員への教育機会を設定
  • 検診受診期間を閑散期に設定し、受診しやすい環境づくり
  • 全従業員の休日年間カレンダーを作成し、休暇取得を推進

【取り組みの成果】

60歳の定年後も継続して働ける環境が整い、現在は70歳以上の従業員も在籍しています。また、地元高校に配布する就活用パンフレットにも「健康経営に積極的な企業」として取り上げられ、若手人材の採用にも成功。幅広い年齢層の従業員が活躍できる企業になりました。

事例2:健康施策の実施を企業アピールにつなげたB社

地元のインフラ整備事業を手掛けるB社では、業態的に健康診断を受診していないと元請から仕事を受託することができません。そのため、従業員の健診受診はもちろん、健康管理の徹底についても強い意識を持っていました。

<取り組みのポイント>

  • 従業員全員の仕事・講習の状況を踏まえて休暇取得日程を調整
  • 閑散期に交流会を実施することで年度方針の共有や会社同士のコミュニケーションを推進
  • 自社会議室にて一斉検診を実施

【取り組みの成果】

健康経営優良法人に認定されたことで、近隣の企業から興味を持ってもらえるようになるなど認知度の向上を実感。また、2018年からは地元のセミナーで取り組み内容を紹介するなど、企業の魅力を伝えるアピールポイントの1つとなっています。

事例3:人材定着、企業業績向上に成功したC社

雑貨や文具の販売、音楽事業、オフィス環境提案、介護用品の販売など、幅広い事業を展開しているC社では、2015年から従業員の健康管理への取り組みを開始。ある女性従業員ががんを患ったことをきっかけに予防検診への取り組みなど健康管理をさらに強化しました。

<取り組みのポイント>

  • 各事業所の事業内容に合わせてシフトを見直し、働きやすい労働環境へ改善
  • 従業員の部活動を推奨するとともに室内トレーニングルームを設け、運動機会を促進
  • 自社独自のルールを作り検診・健診の受診を推奨
  • 自社独自の禁煙方式により禁煙達成

【取り組みの成果】

健康経営優良法人認定後は地元メディアから取材を受け、広報紙や冊子に取り組み内容が掲載。C社が販売する運動機器の設置、健康に配慮した机やイスなどのオフィス用品の販売促進につながりました。また、地元学生の就職先としても注目されるようになりました。

事例4:健康管理の取り組みをしている企業として名が広がったD社

D社では以前より従業員の健康管理に注目しており、月に2回、全従業員で2キロの距離を歩きながらゴミ拾いする活動を続けていました。そして、所属している全国土木建築国民健康保険組合から「その活動は健康経営の取り組みに当てはまる」と言われたのをきっかけに、健康経営を意識し始めました。

<取り組みのポイント>

  • 会議の後のおやつタイムで健康的な食生活について学ぶ
  • 健康診断の一斉受診とオプション検診費用の会社負担で受診推奨
  • 連続休暇やアニバーサリー休暇を設けたことで有給休暇取得率10%アップ

【取り組みの成果】

インターン生受け入れの際に健康経営の取り組みを紹介したことで、D社に興味を持ってくれる学生が増えました。また、地元テレビに取り上げられたことで社名が全国に知れ渡り、健康経営優良法人に認定されていない同業者や取引先からの問い合わせも増えています。

事例5:健康経営優良法人としての経験が活きたE社

自分たちが実際に体感し、課題を乗り越えたことをもとにサービスを提供しているE社。顧問先から健康経営に関する質問を受け、これに回答するためにまず自社で率先して健康経営に取り組むこととなりました。

<取り組みのポイント>

  • 業務改革ツールを利用し、業務負荷を分散することで働きやすい環境づくり
  • イベントの実施や代表との面談によるコミュニケーションの促進

【取り組みの成果】

認定を受けるまでのさまざまなプロセスを経験したことで、成功体験だけではなく、失敗した経験なども具体的に顧問先へ回答できるようになりました。また、自社のホームページに健康経営優良法人である旨を掲載したことで、「自社が従業員の健康に対してどう考えているのか」が求職者にも伝わりやすくなりました。

事例6:従業員の自主的な運動や食事制限を促したF社

建設業を営むF社では、健康経営が注目される前からすでに従業員の健康に関する取り組みを始めていました。しかし、健康管理を徹底していたものの、働き盛りの従業員にがんが見つかるという出来事が発生。それをきっかけに疾病を早期発見できる健診を充実させる検討を始めました。

<取り組みのポイント>

  • 健診の総合判定が3以上の社員に対し、産業医からの意見聴取を実施
  • 毎朝のラジオ体操とウォーキングイベントへの参加で運動機会を増進
  • 県主催のウォーキング企画に参加しコミュニケーションを促進

【取り組みの成果】

健診後のフォローにより、従業員が運動や食事制限などを自主的に行うようになりました。また、ウォーキングイベントに参加しない従業員についても、就業前や昼休みに歩くなど、全社的に健康づくりに対する意識が高まりました。

事例7:自然と進めていた取り組みが健康経営につながったG社

システム開発などを手掛けているIT企業のG社は創業当初から従業員の健康管理を重要視。「風邪を引いたら社長が病院へ連れていく」「定期健診でD評価があったら病院に行く」といったことを当たり前に行っていました。そのため、これまで実施してきたことがそのまま健康経営に当てはめることができたのです。

<取り組みのポイント>

  • 従業員全員がMA(Meeting of All staff)に参加することで、コミュニケーションを促進
  • 朝食を食べるというルール設定や健康食品の社内販売による食生活の改善
  • スケジュール管理ツールの利用や20時以降の残業禁止による長時間労働の見直しる

【取り組みの成果】

過去には深夜2時まで働くのが当たり前で、時に徹夜も辞さないなどIT業界のイメージ通りの働き方をしていた時期もありました。長時間労働者への対応を継続して行うことで、従業員自身の時間管理を促し長時間労働の是正につながりました。

企業それぞれの課題解決に向けた健康経営の推進を

少子高齢化が進む日本において、自社が抱える従業員の価値は非常に高いと言えます。労働力を遺憾なく発揮してもらうためにも、健康経営は欠かせない取り組みと言えます。健康経営の取り組みとして、「健康経営優良法人」の認定を目標にすることは1つの方法ですが、本来の目的は認定の取得ではなく自社の課題解決であることは忘れてはいけません。

そのため、まずは自社の課題を明確にしたうえで健康管理計画を立て、告知・実行・検証を行いましょう。健康経営優良法人の認定を受けた各社の事例を紹介しましたが、それぞれの企業に合った健康経営への取り組みを推進させることが重要です。そのためには、まずは自社の従業員ときちんと向き合い、1人ひとりが健康で働きやすい環境を真剣に考えることから始めてみましょう。

text:働き方改革研究所 編集部