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 ウエアラブルデバイスの普及が進みつつあります。もちろんまだ少数派の「新し物好き」の周辺に限定されているものが多いとはいえ、メガネ型や腕時計型といった分かりやすいものに加え、最近では「パッチ型」で体のどこにでも貼り付けられるものも普及しつつあり、今後さらなる応用が期待されています。

 オーストラリアのSmartCap Technologiesが開発した「SmartCap」というウエアラブルデバイスは、文字通りキャップ=野球帽型の帽子であり、その内側にデバイスを取り付けることで脳波をモニタリングします。これによって人間の疲労度を測定し、居眠りによる事故を防ごうという製品です。この製品の特徴は、これまでもあった「まぶたが重くなる」といった外見で分かる初期の兆候を捉えるのではなく、脳波を直接測定することで、予防的に事故やトラブルを防ごうとするもので、海外では工事現場の作業員や大型車の運転手などに既に利用されているそうです。

居眠りが危険なのはドライバーだけではない

 毎年世界中で多数の人たちが疲労による居眠り運転などで事故に遭っています。このようなウエアラブルデバイスが普及すれば、不幸にして命を落としたり、けがをしたりする人の数も劇的に減っていくことになるでしょう。こうした物理的な「危険」については事故の因果関係も明確ですが、実はこのような危険やリスクは、オフィスで働くいわゆるホワイトカラーとて同じではないでしょうか?

・徹夜続きの担当者が開発したシステムがバグを多発させたら・・・
・睡眠を削って作成された決算書に大きな計算間違いが見つかったら・・・

 そう考えると、過度の疲労によって致命的な不具合が起こる可能性はオフィスワークでも程度の差こそあれ同じだと言えるでしょう。むしろ量的な発生件数は物理的な事故よりもケタ違いに多いかもしれません。

職場でどのように活用できるのか?

 ではこのようなデバイスが普及してきたら、オフィスワークにどのような活用ができるか、その可能性を考えてみましょう。

 おそらくランチ直後の午後の時間、単純作業の繰り返しや退屈な会議の途中で"船を漕いで"しまったり、意識がもうろうとしてしまった経験は誰しも一度や二度はあるでしょう。もちろんこれによって自分や他人の命に関わるような事態に至ることはないでしょうが、前述のようなミスや不具合につながり、それが高じてお客様や関係者に多大な迷惑をかけてしまう可能性は否定できないでしょう。

 よくリモートワークについて「誰もいないところで本当に仕事をしているのか、監視や管理も必要なのではないか?」ということが取り上げられますが、こうした議論は「オフィスにいる」=「仕事をしている」という思い込みを前提にしています。ですが実際には"船を漕いだり"、"意識がもうろうとしてしまったり"といった状態は単に「オフィスにいる」だけで、「仕事をしている」ことにはならないでしょう。

 多様な働き方が出てきている今の時代には、働いている人の疲労度を(自分自身も含めて)適切に把握することは特に重要です。もちろん疲労度を把握するような「管理デバイス」を身に付けることについては、付けさせられる方からの抵抗も予想されます。前述のドライバーのように疲労度と事故の因果関係が明確な場合は、強制的に身に付けてもらっても問題は少ないでしょうが、オフィスワーカーの場合は反対する人が多いかもしれません。位置情報を把握できるデバイスやアプリが普及しても、「営業マンの行動をGPS(全地球測位システム)でリアルタイムにトラッキングしている」といった話は、公にはあまり聞きません。

 ただし、疲労度の測定であれば、過度な残業やそれによる労災といった事態を防ぐためにも、「自己防衛」の観点からも、うまく活用できる可能性があります。さらに、創造性の高いアイデアが出せる状態とはどのような状態なのかが分かることで、会議や仕事の効率化がウエアラブルデバイスによって図られるかもしれません。

 おっと、ここまではどちらかというと「部下がモニタリングされる」側の説明をしてきましたが、むしろ最大の居眠りの常習者は「ヒマな管理職」なのかもしれませんね。