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世代交代のサイクルはますます速くなっていく……

 1984年の吉幾三さんのヒット曲「俺ら東京さ行ぐだ」が今の若者の間で話題になり、32年後の2016年になってから当時のアナログ盤が限定版で再販されました。この曲は、青森出身の吉さんが「テレビもラジオも何もなかった」自分の少年時代の故郷の様子を自虐的に歌ったものです。

 現代の若者の心を捉えた要因の一つが、当時は「最先端すぎて」田舎にはなかったものが、30年後の今、今度は「古すぎて」存在しておらず、あたかも現代の状況と、当時の「故郷の様子」が同じ歌詞で表現できてしまうことです。

 このことは、これから20年後や30年後を考える上で様々なことを示唆しています。今回はこの曲から仕事やオフィス環境の未来像について考えてみましょう。

30年前に"進んでいた"もの

 「俺ら東京さ行ぐだ」で32年前に吉さんが自虐的に都会には普通にあったが自分の村にはなかった(あるいは珍しかった)と表現していたもののいくつかを挙げてみましょう。これは吉さんの少年時代をうたったものであるため、32年前からさらに10年以上前のことかもしれません。いずれにしても40〜50年前であることは間違いありません。

  • テレビ・ラジオ
  • 新聞・雑誌
  • 電話
  • ステレオ
  • レーザーディスク
  • 信号

 まずはテレビ・ラジオ・新聞・雑誌といったものを考えてみましょう。これらはもちろん今でもなくなったわけではありませんが、30年前とは大きく形態が異なっています。インターネットによって、コンテンツの多くは従来の各メディアがいまだ担ってはいるものの、コンテンツの「受け取り方」は多くがスマートフォンやPCで読んだり見たり聞いたりができるようになり、大きく様変わりしました。

 さらに大きな影響を受けたのが「電話」です。「Skype」などのコミュニケーションソフトウエアによって、もはや「昔ながらの国際電話」をかける人は激減しつつあります。国内でも従来の固定電話の利用率は下がる一方で、電話といえばもはや携帯電話のことであり、しかもコミュニケーション手段は通話からLINEなどを使ったメッセージのやりとりが主流になりつつあります。

 「ステレオ」や「レーザーディスク」に至っては、ほぼ完璧に見かけなくなりました。音楽については、例えば「CD」は「俺ら東京さ行ぐだ」が出た時代には存在もしていない未来のものでしたが、翻って現在はどうかというと「CD」は最早過去の遺物になりつつあります。

 ここまでは主にインターネットを中心とするICT技術にまつわる変化の話でした。「信号」は今でも存在してはいますが、将来の自動運転を考えたときは、今のままで存在しているとは限りません。おそらく自動運転が実用化し、普及した暁には、交通信号のあり方も現在とは全く異なったものになっているでしょう。

次にオフィスで「なくなる」ものは何なのか?

 このように見ると、時代の先端を走っているように見えるものも30年もすれば完全に一世代、あるいは二世代古くなってしまい、当時は「新しすぎて」存在しなかったものが、今度は「古すぎて」存在しなくなってしまうという状況が普通に起こることが改めて認識できます。

 まして技術革新が加速度的に進展する時代には、その世代交代のサイクルはますます速くなっていくであろうことは容易に想像できます。では、オフィス環境や働き方に関連することで、次の世代に「なくなる」「全く形を変えている」あるいは「死語になる」可能性があるものを考えてみましょう。

・オフィス(ワーカー)

 これはもちろん、リモートワークや在宅勤務などの進展によって大きく形態が変わっていくことになるでしょう。「通勤」や「満員電車」の様子も大きく変わっていくはずです。20世紀には様々なオートメーション化の進展によって工場内に人がいなくなったのと同様、21世紀にはAI(人工知能)によってオフィスワーカーにも同じようなことが起こっていくはずです。

・残業/昼休み/有給休暇

 勤務時間の自由度が上がれば、このような「仕事の区切り方」が今よりも曖昧になっていくことが考えられます。「一斉に午後5時に仕事を終える」とか「全員が同じ時間に昼休みを取る」といった業務形態は工場などのように定型業務を前提にしたものです。そのため、AIやロボットが次々と人間が担っていた定型業務をするようになることが予想される将来は、より仕事の区切りも曖昧になっていくことになるでしょう。

・「ほう・れん・そう」

 部下から上司への「どこで何をしていた」といった活動報告だけであれば、IoTの進展やビッグデータの収集によって裏でAIがレポートを自動で作ってくれるようになることが予想されるため、「ほう・れん・そう」はさらに前向きな相談だけを人間がやることができるようになると考えられます。

・管理職と組織の階層

 これも同様に「管理するだけ」の仕事ならAIが代替していくことになるでしょう。これによってこれまで「管理できる範囲」を中心に考えられていた組織における階層の考え方も変わっていくことになります。

・上司と部下

 「管理」がなくなれば、「上司と部下」の関係も大きく変わるはずです。指導者やメンターとしての上司の役割はなくなるものではないでしょうが、「管理する人/される人」という関係ではなくなっていくはずです。

・そして会社

 最終的に行きつくのは「会社」という組織そのもののあり方です。もちろんこのような組織形態が全くなくなることはないでしょうが、個人が複数の会社に所属するとか、フリーランスの個人の割合が増えていくことで、ここまで述べてきた数々の「なくなるもの」と合わせて、会社のあり方そのものも大きく変わるのは確実です。