東日本大震災の復興からはじまり、社会事業コーディネーターとして多くの政府機関、自治体、企業とプロジェクトを手掛けるNPO(Non-Profit Organization、非営利団体)の一般社団法人RCF。人と人、組織と組織を結びつけてまちづくりや産業創出を実現するRCFの「仕事」は、社会課題解決のプロとして意識を持った人材によって支えられている。社会貢献を目的とするNPOでは、どのようにマネジメントを最適化しているのだろうか。RCFの代表理事を務める藤沢 烈氏の考え方は、多くの企業にとっても参考になりそうだ。

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注:本記事では「NPO」という用語を広義の「非営利団体」として用います。狭義の「市民団体」もしくは最狭義の「特定非営利活動法人」(法人格)ではありません。

 RCFは、東日本大震災をきっかけに、被災した地域の復興だけでなく、それ以前からあった地域課題の解決も含めた上で復興プロジェクトに取り組んでいる。そのため、NPOとしての拠点も、東京の本部だけでなく、東北地方に4拠点を構えるなど分散化している。従業員も、都内や地方の拠点に常駐したり、東北3県をはじめ熊本や石川など全国を行き来したりと、その働き方もロケーションもまちまちだという。そうなると、働き方のマネジメントも一筋縄ではいかない。藤沢氏は苦笑しながら語る。

 「従業員は今は約60人で、関わっている地域は30カ所を超えています。従業員が常駐している拠点はまだしも、月に1回の訪問だったり、3カ月に1回しか訪問できなかったりといったプロジェクトもあるわけです。そうなると、インターネットの力を借りなければプロジェクトの実行すらできません。RCFの仕事は、インターネットがあるからできたとも言えるのかもしれません」

 藤沢氏は、東北地方は被災したことによって、インターネットやクラウドというツールを使わざるを得なくなったという側面もあると指摘する。東日本大震災が残したマイナスから、プラスを生み出すための化学変化が起こっているようだ。

 「元々、東北地方は全国的にもインターネットやクラウドの利用が進んでいない地域だったと思います。これまでのように地域に閉じた生活をしていれば、その中で歩いて行ったり、電話をかけたりといった方法でもよかったのでしょう。しかし被災して復興を目指す中で、閉じた世界だけでは成り立たないことに気づいてきています。RCFのコーディネーター、支援する企業など、東京や他の地方から関わる人が多くなると、コミュニケーションにスマートフォンやパソコンを使う必要が出てきました。クラウドという発想が、東北地方の地域の皆さんにもリアリティを持って受け入れられてきたと思います。地域の人の仕事の仕方が変わってきているのです」

 そうした変化は、地域の人だけのことではなかった。RCF自身もインターネットやクラウドの力を借りて、仕事を円滑に進める方法を探った。「メール、チャット、ファイル共有、SNSなど、インターネットツールをいろいろ使っています。使わないと活動できません」と藤沢氏は言う。東京のオフィスでも、東北をはじめとする地方の拠点や出先でも、同じような業務の支援環境を提供するには、インターネットとクラウドの活用が不可欠だったのだ。

マネージャー層の多様な仕事を工数管理ツールで支える

 RCFでは、代表理事を含めて約10人のマネージャー層が全体の働き方に目配せしている。しかし、前述のように東京のオフィスで毎日のように顔を合わせられる従業員は一部にしか過ぎない。藤沢氏やマネージャー自身も含め、多くは地方の拠点や現地を飛び回っている。

 「マネジメントは、システム的な管理と人的な管理の両面で行っています。マネージャーを育て、優秀な人材を育て、必要なプロジェクトに配備するという流れが理想ですが、マネージャーも日々スタッフには会えないので、色々なツールを使いこなしながらなんとかやっているのが現状です」

 藤沢氏は、NPOのコンサルティングをしてきた経験から、中には経営がきちんと成り立っていないNPOが多いことを実感している。だからこそRCFは、きちんとした経営と、それを支えるマネジメントの仕組みに力を入れていこうとしている。

「(NPOであるにもかかわらず)評価なども含めて、企業と同等の水準や制度、システムできっちりやっていこうとしていることに、驚かれることも多いです」

 インターネットやクラウドのツールは、コミュニケーションに使うだけでなく、業務インフラとしての側面でも活用している。その一つが、チームスピリットが提供する勤怠管理などの事務処理をクラウドで行う「TeamSpirit」の導入だった。

 「RCFを立ち上げてから数年、業務管理はExcelのシートで行っていました。しかし、だんだんと従業員も増え、2014年には60人の規模になったことで、Excelでは管理のプロセスが回らなくなってきました。従業員は、たくさんの地域で活動していますし、プロジェクトも複数掛け持ちしています。業務も人それぞれで大きく異なるので、一律の管理が難しいわけです。そうした中、人が動いた時間をきっちり工数として管理できるツールが必要になりました。誰が何をしているかをリアルタイムに近い状態で可視化できるようにしたかったのです」

 だから、勤怠管理や交通費精算ができるクラウドサービスを検討していく中で、工数管理ができることがTeamSpirit導入の決め手になった。リモートのサイトで働く従業員の働き方を、クラウドサービスで一括して管理できるからだ。

 「TeamSpiritを導入したことで、勤務時間の管理がしやすくなりました。以前は、個人の裁量に任されていた部分がありましたから、見えない残業なども発生していました。それが、きちんと見える化できるようになったので、いい意味でコントロールしやすくなったのです。残業は減りましたし、この仕組みが導入されたからこそ、在宅勤務的なワークスタイルを選べるようになり、働き方の幅が広がりました。ヒューマンで社会的価値の高い仕事だからこそ、専門性のあるプロに長く働いてもらえるように、安定した経営と労働環境を守ることが大切なのです

 こうした経営への考え方を、横展開する動きもある。2016年5月、社会課題を解決する事業型非営利団体などを経営する社会起業家が、連帯して支援しあい、成長するための組織として、新公益連盟が設立された。藤沢氏はその新公益連盟でも、理事・事務局長・幹事を担当する。その活動の一環として、NPOやソーシャルビジネスを行う企業に、インターネットなどのツールを駆使した経営力の向上を働きかけているのだ。社会貢献を目指す多くの組織が活動を継続できるためのインフラ作りの活動とも言えそうだ。

「翻訳」できるコミュニケーション能力を育てていく

 インターネットやクラウドのツールが仕事を支えるようになり、従業員の仕事の仕方に求める方向性はより明確になった。それは、チームを作る力だという。

 「社会事業のプロジェクトでは、行政や企業、地域の人など様々な方が関わっています。そうした多様な人の中でコミュニケーションができ、方向性を伝えて、リーダーシップを取れる能力が求められるのです。言い方を変えると、一人で周りの多くの人を巻き込みプロジェクトを動かす力でしょうか。基本的なコミュニケーション能力が必要なだけでなく、プロジェクトの目的や理念を相手に応じてうまく翻訳して伝える能力が求められるのです」

 行政、企業、被災者ーー。プロジェクトに関わる人は多様だ。それぞれに求めるものも、使う言葉も違う。それだけに、それぞれの言葉に翻訳できる能力はプロジェクトの成否を分けることにもつながる。一人で地方自治体の首長に会って、話をつけてくるといったタフさも要求される。一つの道のプロであることはもちろん、社会の課題解決を目指して自分自身を向上させることも求められる。「NPOに来たら、企業時代よりもキツイですね」という声も従業員からは聞かれるという。

 「それでも、ビジネスという枠組みでは解決できないことに取り組んでいるという自負は、従業員も含めて皆が感じているものでしょう。そうして東北で経験し、身に付けたスキームを全国に広げていきたいと思います」

 RCFの活動には世界も目を向けている。"課題先進国"の日本で、地域課題を解決する力を養っているRCFならば、海外の課題解決にも対応できると目されているのだ。例えば、イラクから福島の復興のスキームを見学したいという話があったという。原因は方や原発事故、方や武装組織による占拠と違っていても、突然、生活の場を奪われた人たちの暮らしを支えるという意味ではイラクと福島の課題解決のスキームには共通点があるからだ。

 国内外を問わず、NPOとしての活動を推進するRCF。そこには、社会の課題解決に向けてプロ意識の向上への指針を示しながら、NPO自身の課題解決を同時に進める仕組み作りにも力を入れる藤沢氏の姿がある。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara