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1997年4月に「1週間40時間」「1日8時間」を法定労働時間と規定する労働基準法第32条の施行が開始されました。それに伴い、多くの企業が1日最大8時間×5日間の労働による週休2日制の採用がスタンダードになりました。2019年現在では、社会に週休2日制が完全に定着しています。しかし、今後も法改正によってさらなる働き方の変化が起きたとしても、何ら不思議ではありません。というのも、近年では「週休3日制」を推奨する声すらでてきているのです。

週休3日制ともなると、計算上では月の4割以上が休みになります。「週3日も休めれば疲れずに済む」「休みが多ければ旅行に行きやすくなる」など休息や余暇にばかり目を向けている方もいるかもしれませんが、そんな楽観的な話ばかりではありません。ビジネスにおいては週4日の労働で最大限の成果をあげなければならず、週5日の労働よりも効率性を重視する必要があるでしょう。週休3日制が導入されることになった場合、果たして多くの方は"メリハリのある労働"によって生産性を向上させることができるのでしょうか。

国外では試験運用・検証が進む週休3日制

週休3日制は「議論の余地がある働き方の1つ」程度に認識している人も多いかもしれませんが、実は国外ではすでに試験運用を実施している国もあるようです。実際に月の半分近くが休みになる働き方で本当に仕事は成り立つのでしょうか。試験運用の検証結果や導入を検討するにあたってどんな点に注目しているのか、他国の動きをチェックしましょう。

事例1:トライアル成功のニュージーランド企業は週休3日制の本格導入を検討

ニュージーランドで遺書作成や遺産管理のサービスを提供する「パーペチュアル・ガーディアン」という会社では、2018年の3・4月の2ヶ月間で週休3日制を導入。社員240名を対象に、1日8時間×4日間の週32時間労働に勤務時間を短縮するトライアルを実施しました。導入後の調査によると、ワークライフバランスの管理に関する数値が54%から78%に上昇。ストレスレベルが約7%減少、チームの取り組みの指標に関しては平均して20%上昇するというポジティブな結果が得られました。

トライアルを実施したパーペチュアル・ガーディアンのアンドルー・バーンズCEOは、「仕事中のSNSや業務外活動に使う時間が減り、従業員の生産性が向上した」と分析。また、試験運用を主導したオークランド工科大学のジャロッド・ハー氏も、「従業員が物事を設計し直す自由を与えられた」と週休3日制による従業員のマインドの変化について見解を示しました。トライアルの成功によって、パーペチュアル・ガーディアンでは週休3日制の本格導入についても検討がなされているようです。

事例2:ロシアでは各省庁を中心に週休3日制の是非に関する議論が白熱

2019年6月に行われた第108回国際労働カンファレンスにおいて、ロシアのメドベージェフ首相は労働「労働時間の短縮が生産性向上をもたらす」とスピーチ。前述のニュージーランドのパーペチュアル・ガーディアンの事例を挙げ、「技術発展は雇用削減だけでなく、労働時間の削減と自由時間の拡大につながる」との持論を展開しました。また、労働・社会保障省では、生産性向上を目的とする国家プロジェクトに参画する企業に対して週休3日制導入を検討しているようです。

しかし、別の省庁では異なる見解や懸念も噴出。保健・社会開発相は、週休3日制の運用は労働者の職業、年齢、性別によって影響の度合いが異なるとの見方を示し、一概に好影響をもたらすものばかりではないと指摘しました。その他にも各省庁から「労働生産性向上と賃金アップが導入の大前提」「工業や輸出における目標数値達成できるか懸念」など、さまざまな意見が出てくるなど議論は白熱。ロシアで週休3日制を実現するためには、まずは各省庁や世論を含めた意思統一が必要なのかもしれません。

事例3:中国政府主導で週休3日制を2020年より段階的に導入

1995年に週休2日制が開始された中国では、その後も政府主導による労働時間短縮の動きは顕著です。2016年には旅行・観光業の活性化を目的に、土日休みに加えて金曜の午後を半日休とする「週休2.5日制」を一部地域で導入しました。そして、中国政府は2030年までに全省での「週休3日制」導入を目指し、法定労働時間を1日9時間×4日間の週36時間にすることを提言しています。

中国社会科学院が発表した「2017-2018年中国レジャー発展報告」によれば、週休3日制の実現に向け、2020年より地域・企業別に3段階での導入を予定しています。2020-2025年で中国東部地域の国有企業で試行・導入を開始し、2025-2029年には東部地域の全企業に拡大。そして、2030年には全国範囲での実施を見込んでいます。このように中国では週休3日制の導入に向けて、すでに国レベルでの計画がなされているのです。

日本でもその可能性が模索される週休3日制

ニュージーランド、ロシア、中国の事例のように、海外ではより現実的に導入が検討されている週休3日制。片や日本ではそうした具体的な取り組みがまったくなされていないかと言うと、そうではありません。たとえば、日本マイクロソフトでは「週勤4日&週休3日」を柱とする自社実践プロジェクトとして「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」を実施。その効果測定結果を公開しています。

日本マイクロソフトが実施した週休3日制プロジェクトの結果とは

日本マイクロソフトの「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」は、従業員1人ひとりが仕事(ワーク)や生活(ライフ)の事情や状況に応じた多様で柔軟な働き方を自らがチョイス(選択)できる環境を目指すことをコンセプトにした「ワークライフチョイス」の考え方に基づいています。従業員全員が「短い時間で働き、よく休み、よく学ぶ」ことにチャレンジすることで、生産性や創造性のさらなる向上を目指すための取り組みです。では週休3日制にすることで実際にどんな変化があったのでしょうか。

【「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」実施概要】

  • 週勤4日&週休3日制トライアルの実施
  • 約2,300名の社員を対象
  • 2019年8月のすべての金曜日(2 日、9 日、16日、23日、30日)を休業
  • 正社員は特別有給休暇を取得し、全オフィスをクローズ

【効率的に生産性を高めるための働き方の工夫】

  • 会議設定は基本 30 分を標準
  • 会議の参加人数は多くて5人
  • 複数名のやり取りは基本Microsoft Teamsを活用

【週勤4日、週休3日のワークスタイルの結果】

例年と比べて削減に成功した事項

  • 2019 年 8 月の就業日数:-25.4%(2018 年 8 月との比較)
  • 2019 年 8 月の印刷枚数:-58.7%(2016 年 8 月との比較)
  • 2019 年 8 月の電力消費量:-23.1%(2016 年 8 月との比較)

例年に比べて実施が促進された事項

  • 2019 年 8 月の "30分会議" 実施比率:+46%(2018 年 8 月との比較)
  • 2019年8月の "リモート会議" 実施比率:+21%(2019 年 4 月 ~ 6 月との比較)
  • 2019 年 8 月の一日あたりネットワーク数(人財交流):+10%(2018 年 8 月との比較)

従業員への満足度調査

  • 週勤4日、週休3日制度に対する評価
  • 評価する: 92.1%、どちらでもない/評価しない:7.9%

上記のように日本マイクロソフトでは、週休3日制を取り入れることで、無駄を減らし、ネットワークを駆使した効率的な働き方によってよりスマートな稼働を実現。経費を削減しつつ、業務効率を図れたとのポジティブな見解を示しています。また、実際に週勤4日、週休3日を実践した従業員からは、9割以上から「評価する」との好意的な意見が寄せられました。

一方で、良くなかった・改善が必要な点がまったくなかったわけではなさそうです。一部からは「金曜日休みの際の顧客対応・連絡がやりづらかった」「業務量はそのままで勤務日だけが減るので忙しさは増した」などの率直な意見も少なくなかったようです。今後、日本マイクロソフトで本格的な週休3日制を導入する際には、そうした従業員の声を参考により制度の内容を精査する必要がありそうです。

他の日本企業でも行われている週休3日制の取り組み

週休3日制をトライアルし、その効果検証まで行った日本マイクロソフトの取り組みは各方面で注目を浴びましたが、他にもすでに導入している日本企業が多数存在します。それぞれの企業の週休3日制における施策を簡単に紹介します。

その1:1日の勤務時間の延長で週休3日にする

「休みを増やしたいけど、労働時間が減るのも困る」という声に対して、企業が実施しているのがこちらのパターンです。週休3日を確保しつつ、1日の労働時間を長くしています。

【企業例】

●ファーストリテイリング(ユニクロ)

1日10時間×土日を含む週4日間の勤務という「変形労働制」を採用。1日8時間×5日間と同額の支給しつつ、週3で平日休みが取れます。

その他、ウチヤマホールディングス、トットメイトでも勤務日を4日に集中させるスタイルを採用

その2:労働時間・給与を減らすことで週休3日にする

単純に1週間あたりの労働時間を少なくすることで、週3日の休みを確保するパターン。労働時間が減るので、それに伴って給与も一定の割合で少なくなります。

【企業例】

●Yahoo!

育児、介護、看護などを抱える従業員を対象に、「えらべる勤務制度」を導入。週5日の勤務が4日に減る分、給与も2割程度減少します。月単位で申請や変更が可能。

その他、KFCホールディングス、日本IBMでも週休3日になる反面、給与が減少するシステム

その3:週あたりの労働時間減でも給与は変わらず

1週間あたりの労働時間を減らしながらも、給与は据え置きというパターンもあります。しかし、この場合は特に少ない労働時間で最大限のパフォーマンスを発揮することが求められます。

【企業例】

●サタケ

現在はまだ完全週休2日制ではあるものの、週の労働時間を2割減らして「32時間」にする週休3日制の実現を目指しています。2019年も試験的に7月ごろから週休3日制を実施。

週休3日制採用にあたり企業が留意すべきポイント

週休3日制の導入によって従業員のフリータイムが増えることで、仕事によりリフレッシュした状態で臨んでもらうことが期待されます。短期間に集中して働くことによって無駄を削減し、生産性向上を目指したいところではありますが、反対に週の3日が休みになることへの懸念もあります。将来的な週休3日制の導入を検討している企業においては、どんな点に留意すべきなのでしょうか。

懸念1:仕事を短期間に詰め込むことでストレスが溜まる

仕事を短期間に詰め込むことでストレスが溜まる

休みが増えることは喜ばしいことですが、仕事ができる日数が少ないことでプレッシャーに感じてしまうことも時にはあるでしょう。特にクライアントの予定に左右される仕事などの場合、短期間で仕事を完了させなければならないことにかえってストレスを溜め込んでしまう危険性もあります。

懸念2:単に休みを増やすだけでは収入が減る

上記のYahoo!の事例にもあったように単に週内の休みを増やすだけでは、固定収入が減少する恐れがあります。また、収入が減らない場合でも以前より短時間で、これまでと同様かそれ以上の成果が求められます。そのため、成果が上がらない場合はおのずと減収を飲むことになりそうです。

懸念3:休み確保のために1日の労働時間が増える

休みの日数を増やしつつ、総労働時間を減らさないための施策として1日の労働時間を増やすという方法があります。前項のファーストリテイリングの例のように、1日の労働時間を10時間にするというのも1つの策です。それによって会社での拘束時間が長くなる点は懸念事項と言えます。

懸念4:会う機会の減少でコミュニケーション不足に陥る

現在ではチャット機能などネットワークによるやり取りができますが、時には顔を合わせてのコミュニケーションも重要です。同じ職場で勤務することのメリットはそうしたコミュニケーションの面にもあるので、機会減少によるコミュニケーション不足に陥る危険性はあるでしょう。

懸念5:取引先との予定・連携が取りにくくなる

営業日が少なくなることによって、取引先とのアポイントを取るのも難しくなるかもしれません。特に休みが固定でない職種の場合、週3日休みだと出勤日の予定を合わせるもの一苦労です。連携面に関しては少し取りづらくなることが予想されます。

懸念6:休みが多くなることによる他の社員へのしわ寄せ

特にシフト制などの職種の場合は、週休3日制で職場に不在の期間が長くなるため、他のスタッフが業務の穴埋めをしなければならないケースが増えるでしょう。出勤時のタスクやしわ寄せがこれまで以上に多くなる恐れもあります。

懸念7:地域や職種によっては導入が困難なケースも

週休3日制はすべての地域や職種に適用できるわけではないでしょう。確実に人手が必要な医療や即時性のある情報発信が必要なメディアなどは週3日の休み確保は難しいと予想されます。また、そもそもの人口が少ない地域などでは、週4勤務になることで人手不足に陥る危険も考えられます。

意識すべきなのは「長時間労働≠成果」という図式

長時間働くことによって成果が出しやすくなる面も当然ありますが、だからと言って長時間労働こそが「正義」というわけではありません。長く働いても成果が出ていない状況より、休みを適度に取って短期間で集中して働いて成果を出すほうが評価されるはずです。日本でも長らく長時間労働や残業が美徳と考えられ、「遅くまで頑張っている」という印象を持たれがちでしたが、「長時間労働≠成果」ということを肝に銘じる必要があるでしょう。

中国の996システムに見る長時間勤務の弊害

中国では「996システム」と呼ばれる働き方があったことをご存知でしょうか。996とは「朝9時~夜9時、週6日間の勤務」を指し、1日12時間労働の週1日休みという中国で広まっていた違法労働です。996システムは週の労働が72時間になるため、もちろん長時間勤務となります。この勤務体系が社会で常態化していた事実に関しては、超過労働を強いられたプログラマーを中心に大きな批判が巻き起こったようです。

労働生産性はあくまで「付加価値/労働投入量」

労働生産性はあくまで「付加価値/労働投入量」日本社会に定着していた年功序列、終身雇用の働き方の場合は、長く勤めることで出世の可能性が高まりました。長時間労働も似たところがあり、「会社に長くいることが頑張っている証し」と捉えられる節があります。しかし、労働における価値は成果とセットでなければならず、「長く働くことと≠仕事に真剣に取り組むこと」であることを意識すべきでしょう。

また、効率的に業務をこなし、残業せずに従業員に対して「お気楽に働いている」と考えるのも適切とは言い切れないでしょう。労働における生産性、つまり「労働生産性」に目を向けてみると、いかに時間をかけずに付加価値がある仕事ができるかという点で評価がなされます。つまり、「付加価値/労働投入量」が重要であり、少ない労力でいかに大きな成果があげられるかが重要です。長く働くだけではなく、その労働時間で何を成し遂げたかを明確に意識すべきだと言えます。

企業文化や経営層の考え方で変わる生産性への取り組み

中国の「996システム」のように長時間労働によって従業員の稼働は増えるかもしれませんが、経営者であればそうせずに生産性を高められる仕組みを考えるべきでしょう。たとえば、アリババを中国電子商取引最大手に引き上げ、25兆円企業に育て上げたジャック・マー元会長ですら、旧来のシステムを見直すことをしなければ落ち目となっていたかもしれません。特に経営層は、従業員がいかに生産性を高められる仕組みを構築できるかが鍵を握ります。そのためには、次の時代を見据えて常に考え方をシフトチェンジする必要性がありそうです。

また、前述した日本マイクロソフトに関しては、「ワークライフチョイスチャレンジ」において、企業文化の変革に着手しました。経営層が新たな時代の働き方に順応し、より大きな成長を見込んで変革の道を選びましたが、そうした変化に敏感でなければすぐに時代に取り残されてしまう恐れもあります。事業の生産性を上げるためには、まずは経営層が、常に時代に合わせて変わり続ける勇気を持つことが重要なのかもしれません。

企業は常に法改正・法整備に敏感であることが重要

週休3日制から労働における生産性の向上について検証しましたが、労働においては常に法整備が伴うことをきちんと意識することが大切です。過去に成果をあげた中国の996システムでは週72時間労働であり、週40時間が基本の現在の労働基準からすると、明らかな違法となります。仮に週休3日制が多くの企業で本格導入される暁には、法改正を伴うことが予想されます。そのため、企業としても引き続き働き方についての情報を常にキャッチアップし、法改正や法整備に敏感であることが重要になるでしょう。

text:働き方改革研究所 編集部