世の中には,早寝早起きが苦もなくできる「朝型」人間と,宵っ張りの朝寝坊の「夜型」人間がいるのは周知の事実だ。朝型と夜型の分類は「クロノタイプ」と呼ばれているが,もちろん,この2つだけに分類されるのではなく,中間型の人も多い。世の中に両方のタイプの人がいるのは確かだが,これは研究者のみならず働く人や経営者にとっても見逃せない事実である。なぜなら,朝型の人も夜型の人も,社会では同じ規律,同じリズムで生活し,学び,働くことをなかば強制されているからである。このことが,人々の心身のみならず,企業や社会にとっても少なからずマイナスの影響を及ぼしていることを見ていこう。 

〇朝型・夜型とは

 まず朝型,夜型とはどんな人なのだろうか。おおざっぱに言うと,朝型の人は,午前中に心身の活動がピークとなり,夜には自然と眠くなる人であり,夜型の人は,活動のピークは午後であり,夜なかなか眠くならない。朝型の人と夜型の人は世の中にどれくらいいるだろうか? 研究者によって差はあるが,だいたい朝型が30~40%,夜型が20~30%,その中間型が30%程度いるそうである。単純に言えば,朝型,夜型,中間型がそれぞれ3分の1ずついるということだ。中には,午前3時過ぎないと眠くならない超夜型の人や夜明け以前に目覚めてしまう超朝型の人もごく少数であるがいる。
 (参考までに,自分がどのクロノタイプか知りたい人は,質問によって判定するサイトがあるので試してみてください。
https://www.sleepmed.jp/q/meq/meq_form.php  
ちなみに,私は超夜型に近い夜型でした)。

〇朝型夜型が存在する理由

 なぜ,朝型と夜型がいるのだろうか? 皆が同じなら便利なのにと思うかもしれないが,両タイプが存在するメリットは進化的に説明できる。人間が進化してきた数万年から数十万年前のアフリカのサバンナ地帯では,人は血縁関係を中心として集団生活を送ってきた。まだ危険な動物など外敵も多く,自分たちの安全を守ることはもっとも重要な課題であった。そこで,もし全員が同じクロノタイプであって同じ時間帯に眠ってしまったら,外敵から無防備な状態がおよそ8時間続くことになる。一方,たとえば朝型の人が夜8時から朝4時まで眠り,夜型の人が午前0時から朝8時まで眠るとすれば,皆が眠っている無防備な時間は4時間だけで済む。安全を確保するためには,こちらの方がずっとよい。同一のクロノタイプだけの種族と,2種類のクロノタイプがいる種族では,後者の方が生き残って子孫を残す可能性が大きい。このような進化の力によって,朝型と夜型の共存が維持されてきたのだ。

〇社会は朝型向き

 問題は,現代社会が朝型の人に合わせて動いているということである。学校も会社も役所も朝8時頃から活動を開始し,(残業を除けば)夕方で終わりになる。朝型の人にとっては何でも無くても,夜型の人にはつらいスケジュールであることは明らかだ。朝早くから活動している人は,真面目,努力家,意思の強い人など高評価を得られることが多いのに,逆にこのような朝型のシステムに合わせられない夜型の人は,怠け者とか自己管理ができないといった烙印を押され,下手をすると社会からの落伍者とみなされてしまう。「早起きは三文の徳(得)」という諺はあっても,夜型を礼賛する言葉はなく,「夜更かしは十両の損」という戒めのことばしか見当たらない。クロノタイプが社会の活動時間と合わなければ,当然睡眠不足がまず予想される。睡眠不足が認知活動に思わぬ悪影響を及ぼすことは前回見た。

〇クロノタイプは遺伝子で決まる

 最近,クロノタイプは大部分が遺伝的に決まっているということがわかってきた(ジョーンズ他2019)。70万人近い人々を対象にクロノタイプと遺伝子の関係を調べたその研究によると,クロノタイプの20~50%は遺伝子で決まっているそうだ。さらにクロノタイプを決定する遺伝子は従来24種類しかわかっていなかったが,新しい研究では,それは351種類もあるという。一方クロノタイプは年齢によって変化し,子どもの頃はだいたい朝型,10代後半から20代は夜型に近くなり,60歳前後でまた朝型に移行することが多いという。私たちの実感とも合っている。とはいえ,クロノタイプの多くが遺伝的に決まっているのであれば,自分の意志や努力ではどうにもできない部分が大きいということになる。つまり,夜型の生活習慣を続けていると夜型になるのではなく,多くは生まれつき決まっているということだ。それにもかかわらず学校や職場など社会生活を送る場は朝型向きにできている。

〇不一致の影響

 では,実際にはクロノタイプと活動時間が合わない,つまり朝型の人が夜に,夜型の人が朝にどんなパフォーマンスを示すのかが興味あるところだ。これを調べた研究(フェイサー=チャイルズ2018)によると,クロノタイプと一致しない時間帯では,注意・記憶などの認知的能力も筋力などの身体的能力も,一致した人と比べて劣ることが分かっている。また,オランダで高校生を対象に調べて研究(ツェルベーニら2017)によると,学校でよくあるように午前中に試験を受けた場合,朝型の人に比べて夜型の人の方が全体に成績が悪い。特に,数学・化学などの理系科目の成績に悪影響が出るという。これに対して言語・歴史などの文系科目ではこの差は小さかった。より分析的,論理的な能力が,クロノタイプと実施時間の食い違いの影響を受けやすいわけである。以前このブログでも取り上げたことがあるが,考えることを司るシステム2の働きが,睡眠不足や睡眠の質の悪さにより弱まったことが原因であると考えられる。

〇不一致は不正を引き起こす

 クロノタイプと活動時間の不一致のために,非倫理的な行動が招かれることを示す研究もある(バーンズ他2014; ガニア他2014)。これは,朝型の人は夜に,夜型の人は朝に不正な行動が多くなるということを実験的に示したものだ。簡単に言うと,同じく以前に取り上げたように,人は疲れてエネルギーが少なくなってくると,セルフ・コントロールができにくくなるということが原因である。朝型の人は夜になると,夜型の人は朝にエネルギー切れになり,セルフ・コントロールができなくなって不正が多くなるということだ。セルフ・コントロールを司るシステム2は多くのエネルギーを必要とするので,システム2の働きが弱くなると非倫理的な行動が多くなるのである。

 バーンズらの実験では,実験参加者に,朝7時から8時半,夜12時から1時半のそれぞれの時間に不正が可能な課題に取り組んでもらった。実験は,単にサイコロを振って出た目を実験者に自己申告し,出た目の大きさに応じて賞金が得られるという単純なものである。この実験では参加者は,不正な申告をすることで利益を上げることができ,実験者には誰がどんな不正申告をしたのかはわからないようになっていた。しかし,個々人が不正申告をしたのかどうかはわからなくても,全体では,それぞれの目が平均的に出るはずであるから,全体としては出た目の平均は3.5(=21/6)になるはずである。この値が申告値の平均と異なれば不正があったことがわかるのである。それによると,朝型の人が朝に実験した時の平均値は3.86であり,夜に実験すると4.55であった。夜型の人の夜実験では3.80,朝実験では4.23であった。これらは統計的に有意な差であり,朝型の人は夜に,夜型の人は朝に不正を働きがちであることが示されている。

 このような研究結果によって,クロノタイプの多様性を無視した社会的慣習,つまり学校や会社の早い始業時間やシフト勤務などは,本人の健康のみならず,勉強や仕事のパフォーマンスに対して悪影響を及ぼし,不正行動が増える可能性がある。これらはみな見過ごすことのできない問題である。次回は,こういった事態への対処法について考えてみたい。

参考文献

・Barnes, Christopher M., Brian C. Gunia and Sunita Sah, 2014, Morning People Are Less Ethical at Night, Harvard Business Review, June 23.
・Facer-Childs, Elise R., Sophie Boiling and George M. Balanos, 2018, The Effects of Time of Day and Chronotype on Cognitive and Physical Performance in Healthy Volunteers, Sports Medicine, Vol.4, pp.47-58.
・Gunia, Brian C., Christopher M. Barnes and Sunita Sah, 2014, The Morality of Larks and Owls: Unethical Behavior Depends on Chronotype as Well as Time of Day, Psychological Science, Vol.25, pp.2272-2274.
・Jones, Samuel E., Jacqueline M. Lane, Andrew R. Wood et al, 2019, Genome-wide Association Analyses of Chronotype in 697,828 Individuals Provides Insights into Circadian Rhythms, Nature Communications, 10, 343-347.
・マシュー・ウォーカー(桜田直美訳),2018,『睡眠こそ最強の解決策である』SBクリエイティブ
・Zerbini, Giulia, Vincent van der Vinne, Lana K. M. Otto, Thomas Kantermann, Wim P. Krijnen, Till Roenneberg and Martha Merrow, 2017, Lower School Performance in Late Chronotypes: Underlying Factors and Mechanisms, Scientific Reports, Vol.7.