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2015.09.24

芸術と技術の変化を見据えて
アニメもITも黎明期から挑戦し続ける

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 アニメーションやビジュアルエフェクツ(VFX)など手がける「白組」。関わった作品としては、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「永遠の0」などが記憶に新しいし、10月公開の映画「GAMBA ガンバと仲間たち」のアニメーション制作も手がける。その白組を1974年の設立以来、引っ張っているのが代表取締役社長の島村達雄氏だ。

 白組が最新のアニメーション技術やコンピューター技術を駆使して、新しい映像表現を生み出し続けている源泉はどこにあるのだろうか。島村氏は、自身の世代を「それまでに経験したことのないことにさらされてきた世代」と評する。常に変化と立ち向かうことを要求されてきた経験が、チャレンジの力を生み出しているのだ。

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 今では知らない人のいない「アニメーション」だが、ほんの数十年前の日本ではそれが宇宙からやってきた技術のように感じられた時代があったという。アニメーションや特殊撮影を手がける白組の島村達雄氏の学生時代までが、まさにそのような時代だったという。島村氏は、日本のアニメーション業界の黎明期から現代までの発展を、至近距離で見てきた1人。「アニメーションの業界では、私が最年長でしょう。常に時代の変わり目に立ち会い、いつも激動の中にいました。それが面白かったんだと思います」。

 島村氏がアニメーションに出会うことになったのは、偶然が重なってのことだったという。東京藝術大学でグラフィックデザインを学んでいた島村氏にとって、アニメーションや漫画は必ずしも近しい存在ではなかった。学生時代、大学の先輩を訪ねたところ、ちょうど先輩が米国でディズニーのアニメーションスタジオを視察してきたところで、そのときの話を聞いたのがアニメーションと出会うきっかけになった。

 「先輩はちょうどディズニーを見て帰ってきたばかりのときでしたから、その興奮は話を聞いていても伝わってきました。細々と絵を書いていたような日本からディズニーのスタジオを見に行ったら、それこそ宇宙船の中のような設備に感じたことでしょう。当時は映画全盛の時代でしたが、これからはアニメーションだと直感しました」

 その先輩が勤めていたのが、映画の東映がアニメーション制作のために作った東映動画という会社だった(後の東映アニメーション)。映画の全盛期に、次の技術としてアニメーションの会社を設立する東映の底力も、そのアニメーションに次世代の潮流を読み取る島村氏の眼力も、並外れたものだったのだろう。島村氏は、先輩の薦めもあり、東映動画に入社する。その時の印象を「当時は冷房のある建物なんてほとんどありませんでした。東映動画は冷暖房のある鉄筋のビルで、最先端のオフィスに勤められる、やった!という気持ちでした」と振り返る。最先端の技術に最先端のオフィス、アニメーションが島村氏の人生に大きく関わり始めた。

長編映画からテレビCM、コンピューターの時代へ

 島村氏が東映動画に入社してアニメーション制作に関わるようになった1958年は、映画の全盛期だった。「その年に東京タワーができ、テレビが発達するようになっていきます。東映動画に入社してアニメーションの長編作品に関わって1年で、CMの部署に移らせてもらいました。テレビでもCMが使われるような時代になったのです。テレビは新しい分野で先輩がいないため、常に最前線で新しいチャレンジをすることになりました」。

 当時のテレビは、すべてが「生放送」だった。機材は大型で現場からの中継などはできない。「テレビ局にはフィルムで撮影する部隊がいて、その人たちがニュースの現場でフィルムを使って撮影してくるわけです。それを現像して、フィルムを投影してテレビの生放送のニュース番組を作っていたような時代です」と島村氏は当時を振り返る。

 テレビという新しいメディアの経験を積んでいたところ、1960年代の半ばにコンピューターがアートの世界に関わってくる場面に出くわす。数値計算などでその底力を見せていたコンピューターが、芸術にも手を伸ばしてきたのだ。プログラムに従ってコンピューターが計算した図形を、2次元の印刷ができるXYプロッターに出力するといった、初期のサイバネティックアートの時代である。島村氏は、そうしたコンピューターのアートを「ものすごい衝撃でした」と語る。さらに技術は進歩し、出力はプリンターからモニターへと変化する。コンピューターグラフィックス、すなわち「CG」が生まれる素地が整った。

 その後も、コンピューターの性能は進化し、ブラウン管のモニター上にリアルタイムで3次元の図形を表示させることもできるようになった。ただし、3次元の図形はデータの容量も多く、計算量も天文学的に多くなる。

 「今の人は、3次元のグラフィックスがパソコンでもスマートフォンでも動いていますから、その大変さを知らないでしょう。しかし、当時は3次元の1コマのデータを計算するのも、そのデータを蓄積するのも大変なことでした。1コマを定義するのも大変なのに、それを連続させたアニメーションにしたら、データの蓄積も計算量も半端な量では済まないわけです。その当時、3次元のCGが今の映画につながるなんて思っていた人はほとんどいなかったのではないでしょうか」

 既に東映動画から独立して白組を立ち上げていた島村氏は、最先端のCG技術を白組で手にする道を選んだ。島村氏は「自分たちもCGをやらなければと思ったのですが、CGに必要な計算量をこなせるコンピューターなんて、民間企業には手を出せない時代でした。そのときに、当時の米DEC(ディジタルイクイップメント)から科学技術計算用の"ミニコン"というものが出てきました。これは革命だと思いました。IBMに代表されるビジネス用の汎用コンピューター全盛時代に、絵を描かせることもできる高性能なコンピューターが登場したわけです。まだ日本には代理店も何もなかったので、米国から直接買ってきたら、日米では電圧に違いがあって、持ってきただけでは電源が入れられないという時代で電源工事から必要だった」と、当時を振り返って笑う。

チャレンジし続ける、最先端に居続ける意識を皆が共有

 島村氏の最先端指向に牽引され、白組はミニコンを導入して、CGの世界へと足を踏み出していく。「ミニコンだって、民間企業としたら巨額な投資で、会社が潰れるリスクもあったわけです。白組が他のプロダクションと違うところがあるとすれば、最先端に居続ける意識を皆が共有していることでしょうか。実際に踏み出してしまうところが、スゴイところなんだと思います」

 1980年代の日本はアニメ大国になっていた。コンピューターによる映像制作は、その当時、2次元の世界であるアニメーションを自動化することによる効率化を目指す研究や実証が多かったのだという。2次元の元絵から、動きを自動計算させてアニメーションを生み出そうという試みだ。

 「ニューヨーク工科大学などでも、日本と同様に2次元アニメの自動化を研究していました。しかし、日米ともにことごとく失敗しました。今から考えれば、無理な話だと思います。顔を描いた2次元の元絵には、鼻の高さの情報すらないのですから、その顔を横から見たときにどうなっているかを計算するのはとても難しいわけです。コンセプトそのものが間違っていたことに気づき、3次元のCGへとシフトしていきました」

 CGと並んで白組が力を入れてきたコンピューター技術がある。それがカメラのコンピューター制御だ。「スターウォーズも当初はCGではなく光学合成技術が半分ぐらいを占めていて、デジタル技術はモーションコントロールというカメラの制御に主に使われていました。白組でも、カメラをコンピューターで制御するカメラロボットの開発に手を出しました。重いカメラを自在に制御するには、カメラの動きで微動だにしない設備が必要です。そこで東京・調布市にスタジオを建物から設計して作りました」

 資金繰りを仰いだ銀行は、「小さなスタジオが最先端のことに挑戦するなんて無謀なことはやめろ」と忠告し続けてきたそうだ。それでも白組はチャレンジを続け、CGとカメラのコンピューター制御という2本柱の技術を手に入れて、映像表現の領域を広げてきた。銀行が最先端の投資に注文をつけなくなってきたのは、ほんの5〜6年ほど前のこと。それまでの長い間にわたり、白組のチャレンジ精神は銀行の投資判断にも対抗し続けてきたわけだ。

 「人類が文明を作ってきて、経済や産業を作って、産業革命が終わった後に、コンピューターやデジタル革命が到来しました。それぞれの節目には、それまでに経験したことのないいろいろなことが目の前に現れてきます。私よりも少し前の人は、より伝統に守られた仕事をしていたでしょうし、少し後の人はコンピューターやデジタルの技術がある程度ブラックボックス化されてしまってから接することになったと思います。私たちの世代は、何もないところにコンピューターのテクノロジーが襲い掛かってくるという体験をする幸運がありました。タイミングとすれば、ほんの10年か15年のことですが、その体験が最先端へのチャレンジを続けさせる原動力になっているように思います」

 常に新しい技術や考え方、芸術のあり方が生まれる中で、映像表現の現場を闘い抜いてきた島村氏。白組が、次の表現を求め、最先端を追求する根底には、島村氏の半生の生き様が染み付いているようだ。


白組 島村達雄氏インタビュー

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara

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