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2016.10.19

慣習が多い医療機器業界だからこそ
「業界に染まらない」人材を求める

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 「Cook Japan」という社名を聞いて、多くの人は「新しいレシピサイト」だと思うかもしれない。この名前にピンと来る人は医療従事者か、関連する業界の人だろう。米国医療機器メーカーCook Medicalの日本法人がCook Japanだ。

 Cook Japanでは、2012年にとてもユニークな方法で人材を採用した。それが「クック・セールス・アカデミー」と名付けたトレーニングプログラムだ。Cook Japan代表取締役の矢込和彦氏に、人材採用に対する考え方から、クック・セールス・アカデミーの実施で得た成果などを尋ねた。

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 Cook Japanの親会社であるCook Medicalは、1963年設立の米国企業で、医療機器設計、生物薬剤研究、遺伝および細胞学的治療などに取り組んでる。できるだけ患者の身体にメスを入れないなど患者への負荷が少ない「低侵襲」の治療器具を提供することからも分かるように、「ペイシェントファースト」(患者様第一)の理念を大切にする企業だ。Cook Japanは、同社の日本法人として2004年に設立された。

 「日本での事業を始めて7年ほど経った2011年の暮、事業の拡大に対応するようにある程度まとまった人数の採用をしたいと考えました。ただし、新卒採用の時期ではありませんでしたし、Cook Japanでは新卒採用の経験がありませんでした。社会人経験者で、10人、20人といった規模で適した人材を採用するには、どうしたらいいのかを考えたのです」

 Cook Japan代表取締役の矢込和彦氏は、このように当時を振り返る。2009年ごろに60人程度だったというCook Japanの陣容からすると、かなり大規模な採用になる。しかも、課題があった。

 「医療機器業界の社会人採用となると、どうしても業界経験者の採用に偏りがちです。しかし、この業界は規制が厳しいこともあり、経験者を採用しても新しい発想や考え方が出てこない可能性が高いのです。一方、業界の慣習にとらわれないことを重視して、業界未経験の第二新卒などの若い人を採用すると、数年でみんな退職してしまうリスクが高いのが実情です。そこで業界に染まっていない人を採用して、定着してもらうための方法を考えました」

 矢込氏は、アジア・パシフィック地域担当ディレクターも交えて、方策を練った。インターンでマッチングできればよいが、新卒ではないのでそれはできない。それならば、「準インターン」といった発想で、ミスマッチをなくすための期間を設けられないか。そうして生まれたのが「クック・セールス・アカデミー」だった。

2カ月のお見合い期間でお互いを見極め

 クック・セールス・アカデミー(以下、アカデミー)を端的に語ると、8週間にわたる「トレーニング兼採用」のプログラムとなる。営業職を希望する24歳から30歳までの第二新卒を対象とした。プログラムには、同社の企業文化や医療機器に関するレクチャー、製品に関するトレーニング、先輩社員に同行する医療現場訪問などが盛り込まれた。応募者は約800人。選考を経て、アカデミーの参加候補者を絞り込んだ。

 「アカデミーは、約2カ月のお見合い期間のようなものです。Cook Japanではもちろんアカデミー入校者の素養や適性をチェックします。営業部門の管理職にもアカデミーの講師などとしてフルに参加してもらい、事業部への適性を見てもらいました。一方、アカデミー入校者も、Cook Japanのことをチェックするわけです。我々が変な会社であれば、誰も最終的に採用に応募しないかもしれません。逆に8週間あれば、自分に適している事業部を見つけることもできるでしょう。このように。最終的に双方から希望を出し合うための、お見合い期間がアカデミーというわけです」

 アカデミーでCook Japan側が選考の基準として想定したのは、「基本的に、柔軟に会社の色に馴染める人。でも業界には染まってしまわない人」という条件に当てはまる人だったという。Cook Japanの次世代を見据えて、これまでの業界の慣習に染まらない人材を採用することを第一の目的とした。

 「Cook Medicalでは、患者様を第一に考える"ペイシェントファースト"を理念に掲げています。しかし、業界慣れしてしまうと、目の前のお客様であるドクターが"絶対"になってしまいがちです。本来なら提案すべきことも、ドクターの前では消極的になって言えなくなってしまうのでは、ペイシェントファーストを実践できません。ドクターの方々も患者様が第一だと考えています。その視点が一緒であれば、慣習にとらわれなくとも、最終的に相談される営業担当者になれるはずです」

矢込氏も他業界からの転職組。前職でも代表取締役を務めた

 こうした理想とも言えるポリシーを実践できるのは、Cook Medicalが株式を上場していないことと関連する。上場企業の場合、株主利益のために短期の目標達成が求められる。そうならないために、敢えてCook Medicalは上場していないのだという。営業担当者は売上目標の額を持ってはいるが、短期での達成を絶対的な目標にしていないのだ。ペイシェントファーストのアプローチを突き詰めていけば、長いスパンにはなっても売り上げは必ずついてくる。そうした考え方に馴染める人を見極めるのも、アカデミーの役割だ。

 「『俺がやれば売れる』という考え方の人は、優秀だったとしても我々の企業文化とは少し合わないですね」。矢込氏がさらりと語る言葉に、理念の重さが染み込んでいる。

アカデミーには「同期」のような絆も

 2012年のアカデミーでは、21人が入校した。うち1名は事情があってアカデミーを辞めているが、20名がアカデミーを修了し、最終的に全員が入社を希望した。20人全員が採用となり、2016年9月時点でそのうち約半数が活躍しているという。家庭の事情などで退職せざるを得なかった人はいても、アカデミーで採用した社員は総じて優秀だと矢込氏は高く評価している。

 「アカデミーを通じて採用した社員の中で、業界未経験な状況から約2年でトップセールスを上げたものもいます。何十年選手の経験者を追い抜いての成果です。これはすごいことだと思います」

 業界の慣習にとらわれない柔軟な発想が、医療機器業界でも求められることの裏付けとも言えるだろう。アカデミーという採用方法を使って、これまでには採用できなかったような人材との「お見合い」を実施した成果がここにある。そして、アカデミーの成果は、他の側面でも表れているようだ。

 「Cook Japanは新卒採用をまだしていないので、基本的に社員はそれぞれのタイミングで中途入社しています。新卒の"同期"の連帯感や横のつながりといったものが、薄い部分があるのです。ところが、アカデミーでは8週間にわたって一緒に学んでいますから、年齢などは違っても同期意識が高いようです。先日もアカデミー4周年記念のセレモニーを開催しましたが、相談したり切磋琢磨し合ったりと、同期のような強い連帯感を感じています」

 アカデミーには、組織の中に所属や業務内容とは違う軸でのつながりが生まれるという効果もあったのだ。その後、会社の人員は260人を数えるまでになったが、20人といった単位で採用する機会はなく、今のところ新たにアカデミーを開催する予定もないという。「今は地固めの時期」と矢込氏が言うように、当時とは少し採用状況が変わっているようだ。とは言え、ノウハウを収得し、そして実際の効果も生み出しているアカデミー採用。Cook Japanが次の飛躍を目指すときの切り札となりそうだ。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara

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