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営業や顧客対応などを中心とするフロントオフィス業務は、企業の売上や利益の根幹を支える「花形業務」と言えるだろう。一方、直接的にお金を生む業務ではない労務・経理・法務・人事などのバックオフィス業務は、いわば「縁の下の力持ち的な存在」。もちろん、専門知識を活かして企業に大きな貢献を果たしているものの、収益を大きく左右するフロントオフィス業務と比べると目立たない面もあります。「バックオフィス業務は社内でずっと書類対応に追われている」というイメージを持っている人も多いでしょう。

しかし、2020年にそんな屋台骨を支える側のバックオフィス業務に、かつてないほどスポットライトが当てられる年になるかもしれません。なぜなら、財務省が2020年度の「税制改正大綱」に企業の税務手続きに関して、ペーパーレス化を推進する改正方針を盛り込むことを発表したからです。つまり、紙で行われていた手続きを電子化することで、バックオフィス業務の簡易化が加速されるとされています。請求書・領収書などのペーパーレス化が進むことで、「バックオフィス業務の生産性革命」は起こるのでしょうか。

今、話題の「電子帳簿保存法」とは?

冒頭で紹介した「税制改正大綱」でペーパーレス化、つまりは電子化が推進されているのですが、それと大きく関係している法律が「電子帳簿保存法」です。1998年7月に制定されたこの法律では、国税関係帳簿書類の全部または一部の電子データでの保存が認められました。そして、2005年には紙媒体の書類をスキャンした電子データについても認められるようになりました。

電子帳簿保存法は時代の流れに伴い、要件緩和が行われています。2016年には、それまで電子データは契約書、領収書の金額が3万円未満のものに限定されていましたが、金額基準が撤廃。さらにスマートフォンの普及や内蔵カメラの性能向上に伴い、2018年にはスマートフォンによる撮影データでの保存も認められるようになりました。このように「電子帳簿保存法」は時代に適した改正を行ってきています。

2020年電子帳簿保存法改正ではペーパーレス化を推進

財務省は2020年度の「税制改正大綱」において、再び電子帳簿保存法の緩和改正を盛り込む方針を発表。企業の税務手続きをさらに簡略化するために、ペーパーレス化(電子化)を推進する意向であることが明らかになっています。これを機に多くの企業でバックオフィス業務の効率化のために、労務管理システムの導入が加速すると予想されます。では、今回の電子帳簿保存法改正の背景にはどんな狙いがあるのでしょうか。

法改正で期待されるクラウド型の労務管理システムの導入促進

電子帳簿保存法の緩和によって、バックオフィス業務の中でもっとも業務効率化が期待できるのは「経理」です。労務管理システムを導入することで、実際に経理職のどんな業務の簡略化できるのでしょうか。

その1:軽減税率への経理業務の簡略化

2019年10月1日より消費税率は8%から10%に引き上げられましたが、飲食料品や新聞などは例外的に8%に据え置きされました。特定の商品の消費税率を一般より低く設定するのが「軽減税率」ですが、この商品による税率の違いは経理担当者の頭を悩ましています。1つひとつの会計や精算を異なる税率で判断し、対応するのは非常に煩雑な業務です。

軽減税率の対応処理に労務管理システムを導入すると、取引の日付けに合わせて自動的に税率を分けてデータ化や精算処理が可能になります。1つひとつの作業を人力で行うことで、それぞれを正しく精査するのに時間がかかるだけでなく、ミスのリスクも格段に高まります。そうした煩雑な業務をスリム化することで、経理担当の負担軽減が期待できるでしょう。

その2:ペーパーレス化(電子化)の促進

ペーパーレス化(電子化)の促進

契約書、領収書の金額が3万円未満の場合は、現状でも電子データのみでの保存が可能でしたが、条件があまり浸透しておらず、ペーパーレス化が進行していない一面がありました。電子データでの保存にシフトしたくても、その条件があったため踏み込めずにいた企業も少なくないでしょう。また、ペーパーレス化を図りながらも、念のために紙でも契約書、領収書を残しているケースが大半でした。

しかし、2020年の改正によって中小企業でも、労務管理システム上で請求書のペーパーレス化をする動きが促進することが考えられます。なぜなら電子的に請求書を受領し、そのまま保存することを促進する新たな法案が検討されているからです。具体的な方法はまだリリースされていませんが、より透明性のある方法によって電子化がより加速するでしょう。

電子帳簿保存法改正のメリット

従来までの紙での帳簿や書類の保存を、電子データに切り替えることで経理業務の効率化・簡易化が期待できます。では現場の経理担当者や企業にとって具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

メリット1:コストの削減

紙での文書保存には、紙代やインク代などの経費がかかるうえに、重要書類のファイリングには手間と人件費がかかります。また、コストには該当しませんが、保存のためのスペース確保が必須です。紙保存をやめることで、オフィスの空間利用においてもプラスの効果が期待できます。より経費をかけずにスマートにバックオフィス業務をこなすうえでも、今後の電子化の促進は急務と言えるでしょう。

メリット2:業務の効率化

どんなに紙の書類や帳簿が体系的に整理整頓されていても、必要なデータを探すには時間と手間がかかります。一方で電子化が進めば、すべてネットワーク内で情報の検索によって該当データを探し当てることができます。また、電子データのやり取りであれば一瞬であり、書類を郵送する際にかかる時間の削減にもつながるでしょう。2020年の電子帳簿保存改正によってさらなる業務効率化が期待できます。

メリット3:データのバックアップが可能

紙の帳簿や書類は、たとえば焼失してしまった場合などはデータを復元することはできません。一方で電子データであれば、バックアップも可能であり、喪失するリスクも軽減できます。紙での保存よりも、セキュリティレベルを引き上げることにもつながるうえ、不測の事態の際も復元の対応がしやすくなるなど、保存における安全性や効率性も高まります。

自社で使用する経費精算システムの確認を

バックオフィス業務における電子化が世の中にさらに浸透するためには、経費精算関連のクラウドサービスの大幅な機能改善が欠かせません。電子帳簿保存法改正の内容に合わせて今後もバージョンアップを繰り返していくことでしょう。そうした情勢だけに、経理担当者は経費精算などの労務管理システムを導入している場合は、その対応範囲を明確に知っておいて損はありません。

経費精算システムの対応予定を把握しましょう

電子帳簿保存法改正に伴い、さらなるペーパーレス化が進むことは確実なので、すでに経費精算システムを導入済みの場合はその性能と今後のアップデートについて調べておきましょう。今後の方針によっては、2020年の電子帳簿保存法改正のタイミングが切り替え時になる可能性もあります。

経費精算システムを導入するうえでのチェックポイント

経費精算に関する労務管理システムをまだ導入していない企業の場合は、「生産性向上」の視点でのシステム選びをする必要があります。なぜなら、目まぐるしく法改正が繰り返される昨今において、より手間やコストがかかるシステムを導入しても企業や経理担当者にとって少しもメリットにならないからです。現状より業務効率化でき、生産性が向上することを見込んだシステム選定を行いましょう。チェックポイントとしては以下の3点に注目です。

チェック1:IT化されていて手作業が省略されていること

IT化されていて手作業が省略されていること

予算を投下して経費精算システムを導入するのであれば、従来の表計算ソフトと機能が変わらないようなシステムはおすすめできないでしょう。近年はITを駆使したネットワークによって、情報の管理も即時に簡単に行うことができるようになりました。これまで手作業で行っていたことを、自動計算、自動読み込みしてくれるからこそ、導入の価値があると言えます。業務効率化、人員省力化を意識した経費精算システムを選びましょう。

チェック2:法改正に順次対応しているシステムかどうか

前述しているように電子帳簿保存法も常に改正を繰り返してきました。時代に合わせて法律が常に変化しているので、経費精算システムもそのニーズを汲み取っているものが理想となります。一方で、現時点で優れた機能を有した経費精算システムであっても、今後の改正に伴うアップデートがないものであれば、長期的な使用は考えづらいでしょう。

チェック3:バックオフィス業務を幅広くカバーしているかどうか

経費精算システムとしての機能性はもちろん重要ですが、経理以外のバックオフィス業務もこなせるシステムであれば、それに越したことはありません。労務・法務・人事・総務・庶務などバックオフィス業務は非常に多岐にわたるので、他の職務範囲も幅広くカバーしてくれる複合的なシステムであれば、社内全体で重宝されるはずです。契約するシステムの数が増えると手間とコストがさらに増えるので、バックオフィス業務を幅広くカバーできるシステムであることが望まれます。

生産性の向上が期待できるバックオフィス業務とは

バックオフィス業務は、売上を生むフロントオフィス業務と異なり、業務改善や作業効率化を定量的に判断することが難しい一面があります。だからこそ分かりやすく作業量を減らし、工数をかけずに業務の質を担保することが重要です。そのため、省エネで最大限の成果をあげるためにも、生産性を上げられるバックオフィス業務は、積極的に取り入れることをおすすめします。特に改善が期待できるのは以下の業務です。

その1:勤怠管理

未だに紙やエクセルによる管理を行っている企業が、システム導入によってもっとも分かりやすく生産性の向上を実感できるのが「勤怠管理」です。勤怠管理は従業員の就業状況を記録するため、給与にも紐づく重要情報であり、データ量が常に膨大になります。そのため、従業員が簡単に打刻や確認ができ、管理者が漏れなく管理できるシステムが望まれます。特にまだタイムカードなどの従来の勤怠管理を継続している企業にとっては、導入によって大幅な業務効率化が見込めるでしょう。

その2:経費精算

交通費や旅費、接待費など企業の営業活動において欠かせないのが「経費精算」です。従業員は常に社内外で経費を使うので、その管理には手間と時間がかかります。しかも、お金に関する管理なので、ミスがすぐに信用問題に直結します。ハードな上にミスが許されない業務なだけに、手間なく正確に処理してくれるシステムの導入によって、大幅な業務改善が期待できるはずです。契約書や領収書を電子データで保存を可能にする電子帳簿保存法改正はシステム導入の追い風になっています。

その3:稟議

営業活動の鈍化を招くとも言われるのが「社内稟議」です。当然、決済の場面において上役からの承認を得ることは重要ですが、その意思決定のスピードいかんでビジネスチャンスを逸してしまうこともあるでしょう。特に社内で完結する業務なだけに、「よりスピーディーに効率化したい」というのが現場の総意と言っても過言ではありません。システムを導入すれば、承認フローをネットワーク上でスピーディーにこなすことが可能になります。また、システムであればどこで承認のフローが止まっているかも確認し、催促することもできます。

その4:社員情報管理

企業の規模感が大きくなればなるほど、社内の人材でもその人となりを把握できていないケースが増えてきます。新たなプロジェクトで知らないメンバーと仕事を組む際に、事前に「社員情報管理」によってメンバーの人事情報を把握できれば、より仕事もスムーズになるでしょう。もちろん、閲覧権限によって重要な個人情報は開示範囲が決められていれば、使いやすくセキュアな環境を保てます。安心安全に社内ネットワークでコミュニケーションを深めることも可能です。

企業全体の効率化を期待できるシステム導入の検討を

一口にバックオフィス業務と言っても、労務・法務・人事・総務・庶務・経理と多岐にわたります。それぞれの部門で業務効率化が求められているだけに、「いかに工数をかけずに目の前のタスクをこなすか」に考えがいきがちでしょう。しかし、隣の部署も自部署と同様に生産性向上の課題を持っているという事実を鑑みると、自部署だけでなく会社全体の連携を重視した業務効率化を図ったほうが得策だと言えるでしょう。

特に労務管理システムは日進月歩で発展を遂げているので、それぞれのシステムの特徴は一長一短のところがあります。しかし、だからこそ長きにわたり業務の効率化を図っていけるシステムを真剣に検討し、部門間で吟味したうえで導入に踏み切ることをおすすめします。特にクラウドサービスの場合は、法改正によって求められる機能も変わってきます。そのため、常にアップデートの対応をしていて、長期的な活用が期待できるシステムであれば、全社視点で見た場合でも価値があるといえるかもしれません。

text:働き方改革研究所 編集部