「私たちは変革屋です」。自らをこう表現するのは、チェンジウェーブ代表の佐々木裕子氏である。チェンジウェーブは佐々木氏が2009年に起業した会社で、企業の変革をサポートすることを生業とする。

 企業はその成長や継続の過程で、様々な変革を求められる。ただし、変えなければならないと分かっていても、実際に変革を実行するためには課題があることが多い。そうしたときに、コンサルティングはもちろん、研修やワークショップの開催、コーチングの提供などで変革の実現をサポートするのがチェンジウェーブだ。「企業の変革」、そして企業を構成する「人の変革」とはどのようなものか、佐々木氏に尋ねた。

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 変革屋を名乗り、その名も「チェンジウェーブ」という変革屋集団を率いる同社代表の佐々木裕子氏。佐々木氏が会社を興してまで力を入れる変革とはどうした状態を指すのだろうか。世に言う「カイゼン」とは何が違うのだろうか。

 「カイゼンとは元々あるものが磨かれていくことだと考えています。一方、変革は英語で言うとTransformation。形を変えるということです。元々あるものが、見た目も中身も変わっていくこと、すなわち新しいものになるということかなと思っています」

 カイゼンも変革も、組織なり業態なり元々あるものが変化していくことに変わりはない。しかし、カイゼンが元の姿や性質を変えることなくより良い方向への変化を求めるのに対して、変革は元の姿や性質そのものの変化を求めるというわけだ。確かに、そうした変化を実行するのは容易なことではなさそうだ。佐々木氏は、変革の実行のための鍵となるのは、人だと語る。

 「私は、組織や世の中が変わっていくために必要なものは、すべて人間の変革だと思っています。人が変わることが、周囲の多くの人に波及したり、人と人との間で化学反応を起こしたりします。その結果、組織が変わり、組織のやることが変わり、世の中に波及するわけです。基本的に改革は人ドリブンな概念なのです」

 組織を構成する個々人が変わっていかないと、組織そのものの変革は実現できない。だからこそ、人をどのように動かし変えていくかをコンサルティングするチェンジウェーブの価値があるというのだ。

企業が生き残るために必要なOSが「変革」

 それでは、企業はなぜ変革の風にさらされることになるのだろうか。この問いに佐々木氏は、問われたことが不思議だという表情を見せながら答える。

 「企業が変革を求められるのは、今に始まったことではありません。人間は数万年前から変革を続けています。環境が変わり続けている中で、変わり続けて適応したものだけが今も残っているのです。企業でも同じことです。人口構造やライフスタイルの変化、ITの広がり、グローバルとの関係性など、日本でも大きな環境の構造変化が起こっています。変化をどのように捉えて、自分たちが成すべきことを判断することが大切ですし、変革を求めるスピードが早くなっているのが現代です。そうした環境変化の中でずっと変わり続けている企業が生き残っていると考えています。変革とは企業が生き残っていくために必要なOSなのです」

 多くの企業は「変わらなければならない」ということを、直感的に理解している。しかし、理解していることと、それを実践することの間にはかなりの隔たりがある。人間にも組織にも、できれば変化しないで安住したいといった気持ちがあるはずだ。元々ある姿や性質を変えるには、それ相応のきっかけが必要になる。

 「チェンジウェーブへの問い合わせは、大きく2つのパターンに分けられます。1つは、一気にぐっと変えなければならないような喫緊の変革へのニーズがある場合。もう1つは、変わるためのアクションは起こしているものの、変革の度合いが不足しているようなケースや、もっと変革のアクセルを踏みたいという場合です」

 いずれにしても、「御社は変革を必要としています」とチェンジウェーブが「営業」するような案件ではない。実際に経営者や現場が自ら変革を求め、しかし現状の事業モデルでは変革が難しいことや、今の人材ではなかなかステップアップにつながらないことに気づいたとき、チェンジウェーブに問い合わせが来るという。今後も生き残っていける企業ならば、変革というOSがキチンと動き、必要なときにアラートを上げてくるということなのだろう。

一人ひとりが変わることを実現するプラットフォーム

 企業の変革というと、投資の方向性を変えたり、生み出す製品のジャンルを拡大したりといった「形」が取り沙汰されることが多い。しかし、チェンジウェーブでは実際に変革をサポートするときに「人」に働きかける。変革の鍵を握るのは人だという信念からだ。

 「変革を実現するために大切なのは、そこにいる人がどのような意思決定をしていくかということです。変革のための守備範囲はもちろん、時間軸、視野といった要素も大事です。例えば時間軸について考えると、変革とは"一度投資をして変わりました"で終わってしまうものではないわけです。将来を見通すためには望遠鏡の視野と処理能力、モノサシが必要になります」

 変革の必要性を認識し、どのような変革を実行するのかを、人間が意思決定して組織が続いて動く。結果として「形」が変化するため、目につきやすいのは投資や製品の変化になるとしても、人がそれを動かしているという当たり前のことを再認識させられる。

 「そうした意思決定をした上で、最終的には組織の一人ひとりが変わっていくことが求められます。しかし、一足飛びに組織の全員が変化することは望めませんよね。そのため、まずはキーマンが変革し、そこから一人ひとりに変革が波及するメカニズムを作ることが必要になります。どうやるとうまく変われるのか。それを研修やワークショップ、一緒にプロジェクトを進行する中で見極め、何が必要かを考えるのが私たちの役割です。言い換えれば、企業や組織が変化するためのプラットフォームを共に形作っていくことが、チェンジウェーブの役割です」

 変革は全体で一気に進むのではなく、一人のキーマンから波及する。そうした人材はどのような組織にもいるのだと佐々木氏は指摘する。影響力をもって周囲を変える力がある人材は、役職に関係なく潜在的に存在するという。ただし、そうした人材がどれだけ会社の中で活躍できているか、許容度をもって見守り、育成できているかといった環境が整っているかどうかが、改革がうまく進むかどうかを左右する。
 
 「大企業と中小企業では、もちろん規模の小さい中小企業のほうが、機動力があって意思決定が早いという側面はあります。一方で、規模が小さいことによるハードルもあり、自分たちが変革できるエリアが限られてしまうこともあります。大企業がもっと早く変われるといいですよね。そのためには、何万人の社員全員が自分から変わる人材でなくても構わないと思います。変革はただ一人の"N=1"から始まっても、流れができて影響しあって何万人の全体が変わっていくことができる。チェンジウェーブは、最初のN=1となる人をできるだけ多く作り、影響し合える環境を整えるプラットフォームを設計するお手伝いをしています」

核となるビジョンを共有することの大切さ

 企業や組織が変革するとき、佐々木氏は「ビジョン」を皆が本質的に共有していることが大事だと語る。実際にサービスだったりモノであったり、店舗であったりという目に見えるひとつひとつの変化がお互いに呼応しながら波のように一環したうねりをつくるためには、ブレることのない「目指すもの」が共有されてとの考えだ。

 「ビジョンとは、単なる言葉ではなく、『ここまでは変えてもよいけれど、これだけは変えない』という経営者の判断だと思います。『これさえ守ってくれれば、ゴールに向かってあとは自由に動いてくれ!』というメッセージとも言えます。だから、同じビジョンが共有されていれば、持ち場持ち場で変革のアプローチは違っていいのだと考えています」

 変革とは、「何をするか」を求めることではない。「それぞれの人が、どれだけ本気で目に見える変化を生みたいと思い、自ら動き始めるか」が鍵。 N=1の小さな成功であっても、そこからビジョン実現につながる成果が出れば、必ず変革の波が生まれる。

 「1つの理想は、経営者はあまり細かいことを言わないこと。掲げているビジョンに社員ひとりひとりが共感していれば、あとは社員が自らの志で動いてくれるはずです。ゴルフで言えばフェアウエーが明確に決まっていて、この中に入っていればOKというプレーのスタイルですね。そのためには、皆が本気になれるフェアウエーを描き、社員一人ひとりの志と潜在力を信じるのが経営者の役割でしょう」

 企業や組織が動くための明確なビジョンを整理し、それと呼応する形で人ひとりが自ら成し遂げたいことを考え直す指針を示す----。変革屋であるチェンジウェーブが提供する変革へのプラットフォームとは、そうした意識づけそのもののことを指すのかもしれない。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara