企業の変革を支えるプラットフォームをサービスとして提供するチェンジウェーブ。うまく変革を進めるには、ビジョンを明確にし、組織を形作る一人ひとりの人に変化を促すことが大切だと、同社代表の佐々木裕子氏は語る。

 佐々木氏は、ワークスタイル変革やダイバーシティ社会の実現など、現代の働くことへの様々な世の中の動きについてはどのように見ているのだろうか。そして、変革屋を名乗るチェンジウェーブ自身に集う人材はどのように働いて、その中で変化をしているのだろうか。企業が今後の成長を描けるような変革の要求に応える働き方とはどのようなものか、佐々木氏に聞いた。

change_kouhan_main_580.jpg

 コンサルティングから、研修やコーチングなどの実務で、企業の変革をサポートするチェンジウェーブの代表を務める佐々木裕子氏は、変革のポイントとして「ビジョン」と「人」を掲げる。"これだけは変えない"というブレない芯をビジョンとして共有することで、人が変わりやすくなり、変革の波及効果が一人ひとりに及ぶというストーリーである。

 「ビジョンと日本語で言うと漠然としたもののように感じますが、英語で言えば"Vision"は見えているもののことですよね。ビジョンの共有とは、『皆さん、同じ光景が見えていますか?』ということなのだと思います。言葉としてのフレーズを理解するということではなく、イメージしている情景やストーリーの意味が共有できるかどうかです。多分にエモーショナルなものだと思います。そうした情景が"自分ごと"になり、ストーリーの意味が自分にとって腑に落ちたとき、ビジョンが共有できたと感じるのでしょう。だからビジョンは、一生懸命伝えるというよりも、どれだけ一緒に作れたかによって共有できるものだと思います」

やりたい仕事ができていると感じることが成果を生む

 変革のもう1つのポイントである「人」も、佐々木氏が示す「ビジョン」のあり方を通してみると、どのようなときに人が自ら動いてくれるのかのヒントが見えてくるようだ。佐々木氏はこう続ける。

 「究極の変革が起きるとき、人は会社のためや組織のためではなく、自分のために行動を起こしていることが多いと感じています。自分の人生の大切な時間を費やしているわけですから、会社の売り上げを伸ばすことだけを目標にして時間を使っているのではないですよね。自分が生きているうちに世の中に対して良いことをしたいという思いと、会社が目指しているビジョンとの間に交差点があると感じるからこそ、自分のこととして仕事ができるのでしょう。そうした交差点を感じられるように企業と社員との間にコミュニケーションがあり、そのように考えられる人材を育てていることが大事です」

 昭和の時代を振り返ると、企業がやりたいことに対して社員はパーツとしての自分を提供して給料という対価をもらっているという働き方が多かった。佐々木氏は、変革を前提にすると、これからの企業と人との関係はもう少し緩いものになっていくだろうと指摘する。個人としての社員の生き方や価値観と企業のビジョンが、良い意味で共存できるような社会が求められるというのだ。

 「すでに若い人は、就職した会社に一生勤めるという意識が少なくなっています。何によって人は集まり、チームを組み、新しい物を産もうと思うのかを理解しないと、企業は成長できないでしょう。そこでは、自分が行きたい方向へ進めそうだとか成長できそうだと感じるビジョンへの共感が必要なのです」

 ビジョンへの共感が人を動かすという視点は、ワークスタイルの変革にも適合しそうだ。既に物理的な場所を問わずに仕事ができる環境は、ITの進展でかなり実現してきた。国内では人材の流動性はまだまだだが、それでも転職は当たり前になり、2枚目、3枚目の名刺を持つ人も増えた。佐々木氏は、今後はもっと「個」が重視される時代になっていくだろうと予測する。

 「ワークスタイル変革というと、ITの仕組みに目を向けてしまうことが多いですが、実際には働く人の意識の変革が求められます。やらされて仕事をしているのか、やりたい仕事をしているのかで、人の意識は大きく変わってきますよね。やりたい仕事ができていることと、その人のパフォーマンスには必ず相関があります。ある人材が欲しい企業と、やりたい仕事をしたい働き手とのすり合わせができれば、パフォーマンスの高い仕事をしてもらえるのです」

 そう指摘されると、ワークスタイルの変革とは、「ITを駆使した在宅勤務」といった形だけで実現できることではないように思えてくる。企業と働き手のビジョンの共有を通して、働き方がより良い形へと変わっていくことが、結果としてワークスタイルの変革になるのだと考えられそうだ。

多様な人の経験や知を結合して新しい物を生み出す

 働き方の変革のもう1つのお題目として、「ダイバーシティ推進」がある。性別や人種、年齢などが異なる多様な人材を活用しようという考え方である。女性活用の推進などと曲解されることもあるダイバーシティ推進について、佐々木氏はこう語る。

 「ダイバーシティ推進で真っ先に問われることは、なぜダイバーシティ推進をするのかです。この答えは女性活用のためといった次元の話ではなく、異なる知と知を結合させてイノベーションを起こすためなのです。人はどうしても、男女や人種、年齢などで無意識に他者をカテゴリー分けしがちです。イクメンという言葉はありますが、イクジョ(育女)とはいいません。育児は女性のものという社会イデオロギーがあるからです。すると、特定の知を持っている人が、社会イデオロギーのために無意識のバイアスをかけられて、個々の知を生かせなくなります。性別、人種、国籍、年齢など様々な無意識のバイアスを取り除いて、一人ひとりの知を結合できるようにすることが必要だと考えています」

 無意識のバイアスが生み出すひとりひとりのわずかな言動の差が、相互に呼応し、積み重なって実績の大差になる。それがお互いの固定概念を増幅させ、本来個人が一人ひとりもっているものを最大限に生かすことの妨げになっていく。

 「実際に、男女という属性差にまつわる"無意識バイアス"は依然としてあります。チャレンジ度の高い仕事は実力が同じでも男性に任されやすいですし、子育てや家事に至っては、本来の個々人の得意不得意を無視して"女性のほうが向いている、女性がやるべきもの"と一般的に思いがちです。

 本来、ダイバーシティ推進は中途半端ではダメで、やるならば徹底して実行することが必要です。属性ではなく、一人ひとりそのものを見て評価することを突き詰めなければなりません。無意識のバイアスを消し去るのは決して簡単ではないけれど、本当の意味のダイバーシティ推進を行なううえで、一番最初に真摯に向き合うべき壁ではないでしょうか」

 そう語る佐々木氏が興したチェンジウェーブは、性別のダイバーシティという意味では日本の一般的な企業とは逆の構造になっている。女性が多く、男性が少ない構造だ。しかし、女性という性別で選んで採用しているのではなく、変革を生み出すための多様な知を集結させたら、結果として今の段階では女性が多くなっているだけだという。男女を問わず多様な人材が、正社員から週1回程度出社するスタッフまで多様な働き方でチェンジウェーブの仕事を進めている。

 「企業として絶対に必要なこと、譲れないことだけを決めて、それ以外を開放したらこういった形になりました。チェンジウェーブのビジョンに共感してくれて、世の中を変える波を作ることにプロとして貢献してくれるならば、働き方のスタイル自体は多様で構わないと考えています」

 多様な働き方を認めながらも、核はしっかりしている。それは「何のためにチェンジウェーブに参画して、何をやりたいか」を明確にすることだ。やりたいことは数ヵ月単位で変わっていっても問題はなく、シフトしていけば良いとの考えだが、結果として目に見える変化を生むためにどれだけ貢献できたかは厳しく問う。ひとりひとりが変革屋としての価値をどれだけ提供できるかが、チェンジウェーブそのものの存在意義に直結するのだ。

 「変革屋としてのチェンジウェーブの役割は、クライアント企業の中でやるべきことを提案したり、代わりに何かを設計することではない。持続可能な変化を起こすには、当事者ひとりひとりが自ら考え、自ら気づき、変化して動き始めることが最も重要です。変革屋は、求められる変革が起きやすいように、立て付けや舞台を作っていくのが仕事。変革のための化学反応を起こす仕掛けを作るカタリスト(触媒)が、チェンジウェーブの役割だと考えています」

 佐々木氏が興したチェンジウェーブが提供する変革のプラットフォームは、特定のクライアント企業に対してだけでなく、日本の社会に対してのカタリストとしての役割も果たしていきそうだ。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara