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外国人にも大人気、「あしかがフラワーパーク」名物の大藤。入園料は当日朝7時に決定される。ここから未来の働き方を考えてみよう

 昨年、米CNNが「世界の夢の旅行先9カ所」を選出しました。日本でただ1カ所選ばれたのは、国内ではほぼ無名と言ってもよかった「あしかがフラワーパーク」でした。樹齢150年の大藤が醸し出す絶景が名物になっているこのテーマパークには、他にも非常に特徴的なことがあります。それは、入園料が毎日一律ではなく、花の見どころの程度が日によって変化するために、それに合わせて当日の朝7時に決定されるということです。

 この画期的とも言える価格の決定方法は、私たちの仕事の「価値」を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。

・価格は固定である必要はない

 この事例は、私たちが当然「固定が常識」だと思っている価格が、実は可変にすることも可能だということを意味しています。そもそも、ものの値段というものは、その商品やサービスが提供する「価値」によって変わるはずと考えれば、花のテーマパークにおける最大の付加価値である花の見栄えが、実際毎日変化しているのに価格が一律というのは、よく考えてみればその方が不自然な話です。受益者である顧客にとっての価値が変わっているのに、主に提供者側の管理上の理由から固定価格となっているというのが、一般の商品やサービスにおいても大抵の場合当てはまるでしょう。

 ただし、実際に毎日変える、しかも当日の朝決定するとなったら「前例がなく聞いたこともない非常識な話だ」という意見が噴出して、実現が困難なのは十分に予想されます。しかし、これはまぎれもない現実です。要するにいま固定料金が当然だと思っているものでも、日によって変えるというのはこの話に限らず十分現実性がある話です。

・固定だったはずのものを可変にしてみる

 このように固定が当然と思っていたものを可変にしてみるというのは、会社の中でも様々なことに応用してみることが可能です。「未来の職場」はこんな状況もありうるかもしれないと、現在の法律や規則など諸々の制約条件を忘れて大胆に想像してみましょう。先の事例を参考にすれば、例えば「毎朝その日の状況に応じて◯◯を決める」の◯◯にいろいろなものをあてはめてみれば、面白い未来像が見えてくるかも知れません。

 「入園料」に相当するものとして、実は価値が変動するということで「残業割増率」を変えてみたらどうでしょう? 社内の仕事でも1時間あたりの仕事の付加価値は時と場合によって変わっているはずです。「需要と供給との関係」から価格が決まるという経済学の鉄則を当てはめれば、誰もが残業をしたがらない日(例えばW杯の日本代表の試合日)の残業の(会社にとっての)価値は他の日よりもはるかに高いことになりますから、この日だけは単価が2倍になるとか、曜日や季節等によって変えるとか、現在は休日や深夜などのみ「別枠」となっているものをさらに細分化して「時価」としてしまうことも考えられます。

 いまはごく一部の商品やサービスにしか使われない「時価」という発想はありとあらゆる商品やサービスに用いることだって可能です。「いつどこで買っても」値段が同じというのは、消費者にとっての安心感や管理側が楽であるというメリットの反面で「提供価値」から考えれば実に不合理なことが当たり前になってしまっているのです。

 さらに仕事の付加価値について考えてみます。各従業員の仕事でも付加価値の高いものから低いものまで、様々な仕事があるはずです。例えば経費精算のレシート整理の単純作業であれば、役職者などの「高給取り」であっても本来仕事の生み出す付加価値から考えれば、一般社員と同じでしかるべきでしょう。「単に出席しているだけで一言も発言しない会議」も同様です。一週間の大半そういう時間の使い方をしているのであれば、本来はその週は給料も下がってしかるべきだし、逆に特別ボーナスをもらってよい月や週、あるいはそれが日単位でもありうるはずです。

 ある程度内容を標準化できるような仕事であれば、それを毎朝オークションで単価を決定し、応募者を募集するなんていうこともあるかも知れません。

・時間の自由度も上げてみる

 入園料や残業割増率といった金銭的な尺度を可変にすることに加えて、日時などの「時間」についても可変にすることも考えられます。一言で言えば、働きやすい職場というのは個人の状況に合わせて働き方の「自由度が高い」職場ということができるでしょう。「可変にする」という発想は、様々な変数の自由度を上げることを意味します。

 1週間(1カ月)の勤務時間を常に可変にしてしまって、都度決定するとか、休憩時間や食事時間も全て可変にするとか、これまでであれば「一律」が常識であったものも可変にすることも、ICTが発達した現在、あるいはさらにデータ取得活用技術が発達する将来においては可能になってくるでしょう。

 もちろん過度の可変化は様々な混乱も招くし、組織としての規律を守る上で難しい側面もありますから、そのあたりの課題やリスクは十分に考える必要があり、むしろ固定にした方が便利という場面もあります。

 したがって、逆に過度の可変化や細分化が進むと、いままで可変だったものを固定にしてしまうという発想も出てくるかも知れません。商品やサービスの世界で起こった「定期購読型」の価格設定(DVDレンタルにおける月次定額サービスや電子書籍の定額無制限購読サービス)の動きのように、あえて変動リスクを吸収して一律にする方がユーザー側にとっても楽になるという場面も増えてくるかも知れません。

 重要なのは、ICTなどのテクノロジーの発達によって、固定・可変相互のオプションが増えていき、個別のニーズに応じて最適な手段がとれるようになっていくということでしょう。