インディーズ音楽配信サイト「monstar.fm」の提供に始まり、多様性を生かすというコーポレートアイデンティティの下でビジネスを拡大してきたモンスター・ラボ。2014年にグローバルソーシングサービス「セカイラボ」の提供を開始してからは、多様な開発チームをマッチングするビジネスにも領域を広げている。

 自社のビジネスを多様化させつつ、人々に多様性がもたらす豊かな世界を提供していくモンスター・ラボは、人材についてどのような管理をしているのだろうか。多様化するエンジニアの人材活用を最適化する方策はあるのだろうか。同社 代表取締役社長の鮄川(いながわ)宏樹氏に聞いた。

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 モンスター・ラボでは、「monstar.fm」に代表される自社ブランドのサービスのほか、セカイラボで人材のグローバルソーシングプラットフォームを事業に加え、さらにサービスの開発も受託している。こうした受託業務も2006年の創業の2年後から続く歴史のある業務で、Web開発やアプリケーション開発など既に通算900件ほどのプロジェクトにかかわってきた。鮄川氏はこう語る。

 「企業などが新しいプロダクトやサービスをデジタル領域で作りたいと思ったときに、モンスター・ラボが力になっています。技術面、サービス面の提供だけでなく、企画から一緒に進めたりすることもあります。デジタル化が進み、非IT系の企業がデジタル領域のサービスを作っていくときに、インパクトを最大化できるようにモンスター・ラボが蓄積したノウハウを提供しています」

 コンテンツのマッチング、人材のマッチングに加えて、求める人には多様なノウハウもマッチングして提供する。モンスター・ラボの「多様性を活かす仕組みを創る」というコーポレートアイデンティティは、ここでも一貫してゆるぎないものに見える。

ビジネスの多様性をライトな方法の組み合わせで管理

 モンスター・ラボでは、多様なビジネスや人材をどのように管理しているのだろうか。きっちりしたシステムを作り上げて効率化を徹底しているかと想像したが、実際は情報インフラに対して柔軟な考えで対処しているようだ。代表取締役社長である鮄川氏はこう語る。

 「業績管理などは、ExcelやGoogleスプレッドシートなどを使っている状況です。仕事の流れは透明化したいと思っていますし、どこかでシステム化する可能性はあるでしょう。ただし現時点では、コストをかけて自分たちの会社向けの基幹システムを作ってしまうのではなく、もう少しライトな方法を組み合わせて柔軟に対応できるほうがよいと考えています」

 必要なところに必要なツールを使って、それらの組み合わせによって「現時点」の最適解を見出すスタンスである。勤怠管理や経費計算のために導入したチームスピリットの「TeamSpirit」はそうしたツールの一つだ。

 「従来はExcelで勤怠管理をしていましたが、社員数も増えたことで正確な集計やデータ保管、信頼性の担保を考えたときにシステム導入の必要性を感じました。開発企業であるため、プロジェクト原価管理の元データとして工数管理が必要であり、勤怠管理と工数管理が連動したシステムを探したところ、TeamSpiritが適していると判断して導入に至りました」

 TeamSpiritを導入したことで、管理者側では正確な勤怠情報を把握できるようになったほか、コンパクトで柔軟性の高いデータ管理が可能になったという効果を感じている。従業員も、アプリ、カードリーダー、手入力など多様な勤怠の申請方法が選べること、タイムリーに勤怠登録ができることなどのメリットを享受している。交通費の申請がアプリ連動で手軽にタイムリーにできる点も評価が高い。

 「一人が様々なプロジェクトにかかわることが多いので、勤怠管理をきちんとして原価計算をしないと、プロジェクトごとの収支すら分からなくなってしまいます。TeamSpiritの導入で、勤怠管理と経費計算のデータの信頼性が担保できるようになりました。今後は、プロジェクトごとの原価計算を横串で見られる仕組みや、管理会計と財務会計の連携など、やりたいことはたくさんありますね」

海外のフリーエンジニアを活用する仕組みづくり

 人材の管理もまた、現時点ではタレントマネジメントシステムを導入するといった状況ではないようだ。鮄川氏は「個々のエンジニアのスキルシートは作っていますが、ワークフローにしたりシステムでレーダーチャートにして見られるようにしたり、といったことはしていません」と笑う。しかし、一方でタレントマネジメントのノウハウを生かして、外部に向けた人材サービスや人材データベースといった分野にはビジネスとして手を伸ばしている。

 「既にサービスを提供しているセカイラボは、海外のエンジニアのチームに対して日本企業が業務を発注できるグローバルソーシングプラットフォームです。日本企業は、特にITエンジニアの人材不足に悩んでいます。しかし海外に開発拠点を設けて現地のエンジニアを雇用するとなると、日本から安定した仕事の供給ができるかどうかという懸念材料があります。そこでセカイラボでは、海外の開発チームに日本企業が開発を依頼できるプラットフォームを作りました」

 日本企業が、海外のエンジニアの多様なスキルを活用したいと考えたときにセカイラボを経由すると、半年、1年といった一定期間、自社専属の開発チームを持つことができる。国内で不足している分野のエンジニアであっても、海外では人材が豊富なケースもあり、その間のマッチングをするサービスだ。もちろん、国内よりも低コストで開発したいといった要望に応えることもできる。

 セカイラボは「日本企業が海外のエンジニアを活用する」プラットフォームであるが、鮄川氏のサービスの多様化の手綱は緩むことがない。次の新しいプラットフォームとして、海外のエンジニアの人材データベースとも言えるサービスを企画しているという。

 「新しい人材データベースは、2016年夏のサービスインを目標にして開発を進めています。セカイラボとの違いは、セカイラボが日本の企業を対象に、海外のエンジニアのチームをマッチングさせるものであるのに対して、新サービスは海外の企業に海外の個人のエンジニアをマッチングさせる点です。プロジェクトリクルーティングのような考え方で、『プロジェクトに人が足りないから一緒に働こう』というワークスタイルを実現します」

 鮄川氏は、新サービスと、いわゆるクラウドソーシングとの違いの説明に少し力を込めた。クラウドソーシングはフリーランスの人材に対してプロジェクトの仕事の一部を委託するものだが、モンスター・ラボの新サービスではフリーランスのエンジニアがプロジェクトのチームのメンバーとなって働く形態も想定しているというのだ。採用してしまうと企業はリスクを抱えてしまうが、プロジェクト単位でチームのメンバーになってもらうならば雇用のリスクは少ない。フリーランスのエンジニアにとっても、自分のスキルを生かせる仕事を選んで、プロジェクト単位で参加できる。

 「新興国に行くと、フリーランスのエンジニアが多いことに気が付きます。新サービスで人材データベースを活用するようになれば、エンジニアの需要と供給のアンバランスを平準化できるでしょう。中国、ベトナム、バングラデシュ、フィリピンなどで提供し、現地の開発会社が現地の人材を活用しやすくなることを目指しています」

プロフェッショナルの流動性を担保する

 こうしたIT人材サービスを次々に提供する背景には、モンスター・ラボが提供する働き方の規範がかかわっていそうだ。モンスター・ラボの行動規範の一つに、「チームとして最高のパフォーマンスを出す」というものがある。人間が一人でできることには限りがあるが、チームになれば大きな力を発揮できるとの考えだ。「三人寄れば文殊の知恵」の現代版解釈かもしれない。

 「実際に多くの仕事は、一人で完結することはほとんどないと思います。モンスター・ラボを見ても、エンジニアやデザイナーといったプロフェッショナルであっても、チームで仕事を進めているケースが多いわけです。一方で、全員を同じ立場の正社員として雇用することにはリスクがあり、企業として必ずしも健全な状態とは言えません。自社、他社を問わず、プロフェッショナルとしてのスキルを高めた人材が、流動性を持ってチームに参加できるような仕組みを作ることが必要ではないでしょうか」

 ITの世界では、プロフェッショナルとして正社員よりも給料が高いフリーランスのエンジニアを、必要に応じてチームのメンバーとして招き入れるケースもある。こうした仕事の仕方が広まれば、企業にとっても、働くエンジニアにとっても、ハッピーな世界ができる可能性がある。多様性を受容し、多様性を生かすということは、働き方の形をも変えていくのだろう。セカイラボや今後の新しいIT人材サービスは、そうした雇い方や働き方の変化を、サービスを提供する形でモンスター・ラボ自身が実践するものなのだ。

 「人材の多様化や流動性が高まれば、日本企業が海外の人材を活用するだけでなく、海外の仕事を日本で請け負うことも考えられます。エンジニアが日本流のきめ細かい対応で海外の仕事をすれば、日本に新しい価値を生み出すことも考えられます。既に中国の沿岸部よりも日本の地方のほうが、賃金が安い逆転現象も起きています。日本が海外から仕事を取れるような国になっていけば、地方再生にもつながるかもしれません」

 鮄川氏の目には、コンテンツや人材はもちろん、国籍も国境すらも垣根がない本当に多様化を受け入れた未来の社会が映っているようだ。

text:Naohisa Iwamoto pic:Takeshi Maehara