「働き方は企業文化の中で最も重要なDNAであり、変化に対応できる組織を作るためにワークスタイル変革の推進は欠かせない」。こう語るのはフォンアプリのチーフワークスタイル変革オフィサー(CWO)である吉田順一氏。自身が先導して「在宅勤務」や「フリーアドレスオフィス」「BYOD」などを導入。トライアンドエラーを繰り返しながら最適な運用方法を見つけ出し、そのノウハウは自社が提供するさまざまなソリューションに反映し、顧客にも提供している。

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 ワークスタイル変革の取り組みは、規模が小さい組織のほうが全社導入しやすいといわれる。しかし、吉田氏によると例えば社内SNSツールでコミュニケーションを図る場合は、部門ごとにグループを作るなど、しっかりと仕組みを作っておくことで大企業でも十分に運用できるとのこと。あらかじめ社員が同じビジョンを共有することも重要だという。

 「当社の経営理念は『人と人、人とモノをインターネットでつなぎ、イノベーションを生み出すお手伝い』。企業のITインフラの活用で、簡単にコミュニケーションやコラボレーションができる環境を提供することをミッションとしています。お客様にサービスとして提供する立場から、自分たちもビジネスにおけるコミュニケーションの重要さを認識し、アナログな会議や一方的なメールでの共有以外のコミュニケーションを工夫しているのです」

 フォンアプリでは、仕組みづくりの一環として役職に応じた「期待と役割」や「行動イメージ」を設定。社員それぞれが迷わずに自分の役割を最大限に果たせる仕組みを作っている。これにより均一化された幹部育成と評価軸が明確になり、ワークスタイル変革のカギである離れた場所にいる社員をどう評価していくかも明確になる。その根底には仕組みというハード面だけではなく、考え方や行動の指針といったソフト面の両方がないと自走する集団は創れないという吉田氏の強い想いがある。

 ちなみに、仕事はどのように評価しているのか。同社はクラウド型経営管理ツールの「TeamSpirit」で勤怠管理を行なうことで、業務を可視化。さらに、データをグラフィカルに表示する「ダッシュボード」機能を活用している。ここでは社員の平均残業時間などがひと目で分かるため、会社側はその増減に応じて残業手当の額を見直すといった施策もすぐに取れるという。

 もちろん、労働時間だけで仕事を評価することはできない。フォンアプリではTeamSpiritの工数管理機能も使い、ここに何をどのくらいやったのか社員が毎日報告するようにしている。

 「TeamSpiritを導入するまでは特にエンジニアの仕事は可視化が難しく正当に評価してほしいといった声が聞かれました。TeamSpiritで工数管理することで、例えば残業は少ないけれど、多くの仕事をこなしているといった成果が分かるようになりました。社内SNSツールの『Chatter』で積極的にコミュニケーションを取るようになったことと合わせて、エンジニアの"見られている感"というか、評価の目線はだいぶ変わったと思います。総務や営業といったエンジニア以外の職種でも同様に評価をしています」

 システム系の業務の場合、人月単価で仕事を請け負うこともあるが、その場合ももちろん請求額が一緒だから社員の評価も一定というわけではなく、TeamSpiritで社員のパフォーマンスをチェックし、きちんと評価している。

 また、工数管理は社員の評価に使えるだけでなく、リアルタイムに案件の進捗状況を把握できるため、管理者が月の途中で軌道修正を指示し、最終的に計画通り終わらせるといった使い方もできる。

 「TeamSpiritを導入する前は、例えば客先に常駐しているエンジニアの稼働状況を把握できず、1ヵ月経って実は毎日のように残業をしていたとか、誰かが体調が悪くなるまで業務をしていた、というようなことがよくありました。今はあらかじめ指定した勤務時間を超えると自動で本人や管理者にアラート通知およびメールが届くようになっています。仕事の中身も分かりますので、単純に仕事が多いのか、本人の仕事の配分の問題なのかといったことが正確に把握できます」

 客先で想定外の長時間労働が発生している場合は営業を通して連絡をするなど、大きな問題になる前に対処できるのもTeamSpirit導入によるメリットといえる。今後はプロジェクトごとの利益を可視化して工数管理に紐づけることで、さらに正確な評価ができるようなシステムの構築も検討しているという。

仕組みを作ってBYODも積極的に推進

 フォンアプリでは、個人所有のデバイスを業務に使用するBYODにもいち早く取り組んでいる。BYODという言葉自体はビジネスシーンでよく耳にするようになったが、実際に運用できている企業はまだ少ないのではないだろうか。

 まず欠かせないのは、在宅勤務となったときに顧客からの電話にどう対応するかということ。同社では、自社の商材でもある「フォンアプリ(PACD+)」を使用している。このアプリ及びIPフォンの仕組みを利用すれば、例えば自宅にいても会社の番号に掛かってきた電話に個人所有のスマートフォンで出られる。個人所有のスマートフォンから顧客の電話番号に掛けることも可能で、その場合、顧客には会社の番号から掛かってきていることになり、個人の電話番号が知られることはない。電話代もすべて会社持ちになる。

 フォンアプリは個人所有のスマートフォンで社内共通の顧客の連絡先を閲覧できる。着信があったときはそのデータベースからポップアップする。顧客の情報は社内のサーバやクラウドにあるものを参照するため顧客の連絡先は一切スマートフォンに残らない仕組み。利用した履歴もキャッシュがゼロの「スマホシンクライアント」仕様であるため、万が一、端末を紛失しても顧客情報が流出する心配はほとんどない。なお、以前はスマートフォンのデータを全て遠隔消去する仕様が主流だったが、誤操作で個人で買ったアプリやデータも消えてしまうなど色々なリスクがあるため、最近の企業向けアプリではスマホ側に情報を持たない仕様が業界の主流だという。

 個人のスマートフォンを業務で利用する場合は、プライバシーをいかに配慮するかも重要なポイントとなる。フォンアプリでは社内で利用する場合は、フリーアドレスで誰がどこにいるか分かるように無線LANアクセスポイントと自社のサービスを組み合わせ、スマートフォンの位置情報を取得し在席状況をスマホから確認することができる。一方で、会社の無線LANアクセスポイント以外からはGPSなどを利用して位置情報を取得しないといった運用をしている。

 「在宅勤務については突き詰めると、社員のリテラシーや人事規定、管理・セキュリティの観点から難しいというお客さまも当然いらっしゃいます。ただ例えばフォンアプリを導入して会社として顧客情報が個人の端末に残らない仕組みまで用意しておいて、それでも情報を持ち出したということになると、それは明らかに本人の故意という話になります。そういったリスクに対して極限までIT投資をしないといけないのが在宅勤務の仕組みづくりなのではなく、多様な働き方を会社として確立し、機動力やモチベーションを向上する方向にならないと意味がありません。

 常にお話させていただくのは、最初からこれが正解というのはなく、その企業によって取引先は異なりますし、セキュリティの考え方も違うということ。うちとしても必ずこの製品を導入してください、ということはなくて、さまざまな選択肢の中でどれがよいかをお客さまと一緒に検討していければと考えています」

 ちなみにフォンアプリはスマートフォンだけでなく、フィーチャーフォン(ガラケー)に対応しているのも特徴だ。一度スマートフォンを社員に配布したが、コストや多機能端末ならではのリスクがあるからフィーチャーフォンに戻したい、といったニーズは今でも1,000台規模で配布している企業にとっては珍しくないという。フィーチャーフォンはメーカーごとにデータベースが独自だったり、端末には限られた件数までしか登録できなかったり、色々と制約があるので電話帳をまとめられるフォンアプリのサービスは重宝されているようだ。

社員の声を反映して柔軟に仕組みを見直す

 変化に対応できる組織を作るためにしっかりと仕組みを作るという点では、吉田氏は社員に対する手当てにも柔軟に対応している。例えば、在宅勤務を導入した当初は、家で仕事をすると電気代が余計に掛かってしまうという社員の声を配慮して、週一回在宅勤務をしても電気代が賄える500円を毎月手当として支給していた。

 「基本的には納得感だと思うんです。そういう項目があるかどうかで社員のモチベーションは変わる。コンビニで一個買い物をしたら終わりという額であっても、会社として仕組みを作る姿勢が大切だと思います」

 今後も「会社支給のパソコンをなくしてその代わりに手当てを出したり、IoT関連のサービスやウエアラブル端末を業務に活用するために手当てを出したり、可能性は色々とある」と語る吉田氏。その時代に合わせて柔軟に仕組みを見直して運用していくことも、ワークスタイル変革に欠かせない大切なポイントといえそうだ。