telework2020_02-000_660.jpg

柔軟な対応が求められる「ウィズコロナ」時代のテレワーク

新型コロナウイルスの新規感染者の減少を受け、世界各国・地域で外出制限が緩和され始めました。早くオフィスを再開し、以前の働き方に戻したいと考える企業がある一方で、これを機に仕事のやり方や働き方を大きく変え、テレワークありきの勤務体系を確立し、生産性向上に取り組もうとする企業も増えています。アメリカでは、Twitter社がいち早く、希望者に対して期限なしの在宅勤務を認めることを決定し、注目を集めました。日本では日立製作所が新型コロナウイルスの終息後も週2~3日は在宅勤務ができるようにし、「ジョブ型」雇用(職務定義書で社員の職務を明確にし、その達成度合いで評価する雇用形態)を本格導入することを発表しました。NTTグループも、新型コロナウィルスのワクチンや治療薬が普及するまで、在宅勤務率を5割以上にし、成果に連動する評価制度の導入を検討しています。

今回の緊急事態宣言では、制度を整える間もなく取り急ぎテレワークを実施する、という企業が多かったように思います。厚生労働省が2016年に公開した「テレワーク導入のための労務管理Q&A」では、テレワークの導入にあたっては、まずは対象業務・対象者を限定し、効果検証しながら少しずつ対象範囲を広げていくという方法を推奨していますが、いつまた状況が急変するかわからない今は、このような方法はあまり現実的ではなく、企業は緊急措置としてのテレワークを実施しながら、制度を改善していかざるをえません。「ウィズコロナ」の長期戦が想定されるなかでは、できる限りのことをテレワークで行えるように業務を見直し、社会の要請や従業員の希望に応じて必要なタイミングで自由にテレワークに切り替えられるような柔軟な制度を導入することが求められています。顔を合わせて密にコミュニケーションを取ることができないなかで、新しいことを始めるのは難しいことではありますが、ここでの企業の振る舞いが、将来に大きく関わってくることは間違いないでしょう。

さて、テレワークを実施するうえで、企業が最優先で解決しなくてはならない課題の一つが、労務管理です。テレワークは労働時間の管理が難しく、長時間労働になりやすいなどの問題点が指摘されています。しかし、テレワークを行う労働者にも、通常の勤務形態と同じように労働基準法をはじめとする各種労働基準関係法令が適用されるため、労務管理はしっかりと行わなくてはなりません。今回は、テレワークに必要な労務管理について、整理してみたいと思います。

テレワークに必要な労務管理:就業規則の変更

労働者が常時10人以上の会社では、就業規則にテレワークに関する規定を定めなくてはなりません(労働基準法89条)。具体的には、下記の3項目について定めておく必要があります。

・在宅勤務を命じることに関する規定

・在宅勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定

・通信費などの負担に関する規定

これらは、就業規則に直接規定する場合と、「テレワーク勤務規程」といった個別の規程を定める場合があります。いずれの場合も、テレワーク勤務に関する規定を作成・変更した際は、所定の手続を経て、所轄労働基準監督署に届出することが必要です。

なお厚生労働省が「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」を公開しています。就業規則の制定を急ぐ場合は、こちらを参考にしてみてはいかがでしょうか。

テレワークに必要な労務管理:労働時間管理

2019年4月の法改正により、企業はすべての労働者の労働時間を客観的な方法で適正に把握することが義務づけられました。テレワークであってもこの義務に変わりはありません。

管理監督者や裁量労働制などで働く労働者も対象です(高度プロフェッショナル制度で働く労働者は対象外)。

労働時間の把握にあたっては、原則として「使用者が直接確認する」、「タイムカード・ICカード・パソコンのログ」などの客観的な記録を用いることとされており、労働者からの自己申告制は例外的な措置となります。テレワークでは目で直接確認したり、タイムカードに打刻したりすることが難しいため、勤怠管理のクラウドサービスを使用したり、パソコンのログを用いたりするなどの方法が必要です。

さて、今回の緊急事態宣言下では、学校の休校、幼稚園・保育園の登園自粛、介護サービスの休止・閉鎖などもあり、育児・介護家庭にとっては厳しいテレワーク環境となりました。育児や介護と在宅勤務を両立しながら、9時出社18時退社、休憩1時間というような通常の勤務体系を継続することは非常に困難です。働きやすい環境を作り、生産性を向上させるためには、労働時間に柔軟性を持たせることが重要です。労働時間の柔軟化にはどのような方法が考えられるのでしょうか。

telework2020_02-001_660.jpg


・フレックスタイム制

フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業および終業の時刻、労働時間を自主的に決めて働くことができる制度です。一般的には1日の労働時間帯をコアタイム(必ず勤務すべき時間帯)と、フレキシブルタイム(その時間帯のなかであれば、いつ出社または退社してもよい時間帯)とに分け、出社・退社の時刻は労働者の決定に委ねられます。必ずしもコアタイムを設ける必要はありません。

フレックスタイム制は清算期間内での総労働時間で考えるので、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えて働いても、ただちに時間外労働とはならず、反対に、1日の標準労働時間に達しない場合でもただちに欠勤扱いとはなりません。「総労働時間(総枠)」に不足があった場合には、不足分を翌月の労働時間に加算して労働させることができるという特別な調整方法も認められています。

ちなみに、フレックスタイム制でも22時から翌5時の間に勤務した場合は深夜割増が必要です。時間の自由が効きやすいテレワークで、特段の理由もなく遅い時間帯に勤務することを避けるためは、フレキシブルタイム(労働できる時間帯)を7時から22時など深夜にかからない時間帯に設定しておくのも、一つの方法です。


・変形労働時間制

変形労働時間制とは、繁忙期と閑散期がはっきりしているような場合、月単位・年単位で労働時間のバラつきを調整できる制度です。繁忙期には勤務時間が8時間を超える日が多くなることが想定されますが、労働基準法では、1週40時間・1日8時間を超えて労働することはできません。

1カ月単位の変形労働時間制」は、1カ月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働日ごとの労働時間を設定することで、特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる、という制度です。

1年単位の変形労働時間制」では、1ヶ月を超え1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間であれば、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて働かせることが認められます。例えば閑散期に労働時間を短く設定しておけば、繁忙期に勤務時間が増加しても時間外労働として扱わなくてもよくなる、ということです。

ただし、変形労働制はフレックスタイム制と異なり、それぞれの日の労働時間は使用者が決めます。労働者の側が労働時間を自由に決められるわけではないので、テレワークとの親和性は特に高いとは言えないかもしれません。自社の業務と照らし合わせて、検討する必要があります。


・裁量労働制

裁量労働制は会社側が労働時間を把握することが難しい社員に対し、実際に働いた時間にかかわらず、事前に決めた時間働いたものとみなす制度で、みなし労働時間制ともいわれます。

例えばある企業で「この職種の1日の労働時間は大体8時間くらい」と決めた場合、実際の労働時間が1時間であろうと10時間であろうと「8時間勤務」とみなし、8時間分の賃金が支払われます。このように説明すると、みなし労働時間制を導入すれば「実労働時間を管理する必要がない」・「残業代を支払う必要がない」・「深夜・休日労働の割増賃金も支払う必要がない」と勘違いされるかもしれませんが、これらは全て誤りです。みなし労働時間が「1日10時間」というように法定労働時間を超える場合には、36協定を結ぶ必要があり、法定外労働時間にあたる時間の給与については割増賃金を支払う必要があります。また深夜・休日労働についても、原則通り割増賃金が適用されます。


さて、裁量労働制には利用可能な対象業務に制限があります。現在認められているのは次の2種類です。
◎専門業務型裁量労働制
◎企画業務型裁量労働制

◎専門業務型裁量労働制
「専門業務型裁量労働制」は、その業務の専門性から業務の遂行方法を大幅に労働者自身の裁量に委ねる必要がある業務にのみ認められます。適用できるのは、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた19の業務に限られます。

▶厚生労働省「専門業務型裁量労働制」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/

企画業務型裁量労働制
「企画業務型裁量労働制」は、企業の中核を担う部門で企画立案などを自律的に行う労働者に対してのみ認められます。

▶厚生労働省東京労働局「企画型裁量労働制」の適正な導入のために
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/201221613571.pdf

専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制は、誰にでも適用できるわけではないので、注意が必要です。また業務の遂行手段や時間配分などに関して、使用者が具体的な指示をしないことが条件となっています。利用可能な条件に当てはまっているかどうか、しっかりと検討することが必要です。


・テレワークに事業場外労働のみなし労働時間制を利用できるか?

さて、みなし労働時間制には、もう一つ「事業場外労働のみなし労働時間制」という制度があります。これは、例えば外回りの営業マンや新聞記者など、業務を社外で行っているために労働時間を正確に算定するのが難しい、もしくは業務の時間配分を指示するのが困難である場合には、その事業場外労働について、事前に設定した所定労働時間の労働を行ったとみなすことができるという制度です。

ここで重要なのは、事業場外みなし労働時間制の適用条件として下記の3点を満たす必要があるということです。

(1)事業場外(会社の外)で業務に従事

(2)会社の指揮監督が及ばない

(3)労働時間を算定することが難しい

テレワーク勤務を行う場所は原則として事業場外なので(1)の要件は満たしています。しかし、それだけではみなし労働時間制を適用することはできず、(2)、(3)の要件も満たす必要があります。

今の時代は、いつでもどこでもインターネットに接続されている状態なので、PCやスマートフォンを使えば、離れた場所にいても、使用者が労働者に対して随時、具体的な指示を行うことが可能です。したがって、事業外といえども指揮監督が及ばない状況であるかといわれると、疑問が残ります。また、勤怠管理のクラウドサービスなどを用いれば、「労働時間を算定することは難しい」ともいえません。事業場外みなし労働時間制を採用できるかどうかは、専門家の意見も聞くなどして、慎重に検討する必要がありそうです。

さて、今回はテレワークにおける柔軟な働き方を実現する様々な制度について整理してみました。先が見えない「ウィズコロナ」時代の労務管理で重要なのは、柔軟性です。例えばフレックスタイム制ひとつとっても、通常出勤の場合はコアタイムありのフレックスタイム制を導入し、テレワークの場合にはフルフレックスにする、というような形で、臨機応変に働き方を変えることができれば、労働生産性向上にも大きなメリットとなります。そのためには勤怠管理も柔軟に行えなければなりません。「ウィズコロナ」時代の企業には、クラウドサービスなどを積極的に活用し、変化に強い環境を整えておくことが求められています。