在宅勤務時の中抜け時間の問題

在宅勤務時の勤怠管理で問題となるのが、業務の中抜け(一時中断)時間の問題です。緊急事態宣言下では、家族みんなが在宅しているために、業務の一時中断が発生しやすい状況でした。必要な時に業務を抜け、育児や介護に対応できることが在宅勤務の大きなメリットです。在宅勤務制度があるからこそ、育児・介護と仕事を両立できるという人も多いでしょう。ただ、仕事と私生活の境界線が曖昧な点は在宅勤務のデメリットでもあります。中抜け時間の管理方法を不明瞭なままにしていると、生産性が確保されず在宅勤務制度自体が危ういものとなってしまいます。

そもそも「中抜け時間」とは、何を意味するのでしょうか。

厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、中抜け時間について次のように書いています。

「在宅勤務等のテレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられる。そのような時間について、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、その開始と終了の時間を報告させる等により、休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時刻を繰り上げる、又は終業時刻を繰り下げることや、その時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことが考えられる。なお、始業や終業の時刻の変更が行われることがある場合には、その旨を就業規則に記載しておかなければならない。また、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要である」

つまり、業務から完全に離れ、自由に利用することが認められている時間が「中抜け時間」となります。自由な時間といいながらも、合間で電話の応対やメールなどでの業務指示に対応が求められる場合は「中抜け時間」とはいえません。

上記ガイドラインによると、中抜け時間についての法的な対応については、次のような方法が考えられます。

・休憩時間として扱ったうえで、始業・終業時刻の繰り上げ、繰り下げを行う。

例えば「始業9時、終業18時、休憩は12時~13時」だった場合、15時から16時までの1時間を中抜けした日には、その時間を休憩時間として扱ったうえで終業時間を1時間繰り下げ、19時まで仕事をすることを可能にする、という対応です。このような対応を行うためには、あらかじめその内容を就業規則に記載しておかなくてはなりません。上記の例では、「始業9時、終業18時、休憩は12時~13時。ただし、業務の都合により始業・終業の時刻を繰り上げ、繰り下げることがある」などと、明記しておくことが必要です。

・時間単位の年次有給休暇を付与する。

中抜け時間を「時間単位の年次有給休暇」として付与する方法です。「時間単位の年次有給休暇」とは、年5日の限度内で1時間単位での年休取得を可能にする制度です。

この制度を使用する場合は、事前に労使協定を締結する必要があります。労使協定では、以下の内容を決める必要があります。

①時間単位年休の対象労働者の範囲
②時間単位年休の日数(年間5日以内)
③時間単位年休1日の時間数(1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するか)
④1時間以上の時間を単位とする場合はその時間数(1時間未満の時間を単位とすることは認められていません)

「中抜け時間」を「時間単位の年次有給休暇」として付与することは、年次有給休暇の利用促進につながるというメリットがあります。労働基準法の改正により、10日以上の年休を有する労働者には、最低5日間の年休を消化させることが義務化されました。もちろん時間単位の年次有給休暇の取得合計時間が1日を超える場合には、5日の付与義務のうちの1日分とすることができます。

「中抜け時間」を「休憩時間」とするのか「時間単位の年次有給休暇」とするのかは、メリット・デメリットを考えたうえで決めることになりますが、どちらで対応する場合でも、「どのような時間単位での取得を認めるのか」・「どのように申告、記録するのか」・「承認を必要とするのかどうか」など、社内の運用ルールを決めることも重要です。

中抜け時間の連絡や承認はメールやチャットで、時間の記録はエクセルで、となると業務が煩雑になり、人事担当者の確認作業も重労働になってしまいます。裁量労働制やフレックスタイム制など、社内でさまざまな働き方が混在するなか、手作業で労働時間や休暇を管理し、正しい給与計算を行うことは、ほぼ不可能でしょう。働き方の自由度が高まると、労働時間の管理はその分複雑になります。労働時間管理を正確に、そして手間なく行うには、さまざまな働き方に柔軟に対応できる勤怠管理システムの導入が不可欠です。

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テレワークでの長時間労働の問題

さて、テレワークのデメリットとしてよく挙げられるのが長時間労働の問題です。特に在宅勤務では仕事と私生活の切り替えが難しく、何時でも仕事ができてしまうため、ダラダラ仕事になり、長時間労働が誘発されやすくなります。長時間労働を放置していれば、労働者の健康障害のリスクが高まることはもちろん、企業は生産性の低い仕事に対しても残業代を支払い続けることになってします。


厚生労働省が策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、長時間労働対策として、①時間外、休日または深夜のメール送付の抑制、②システムへのアクセス制限、③テレワーク時の時間外・休日・深夜労働の原則禁止、④長時間労働を行う労働者への注意喚起、などの方法が挙げられています。

①については「メール」と記載されていますが、最近はビジネスチャットを使用する企業も増えています。チャットの最大の魅力は手軽さとスピード感です。それゆえに、チャットにはすぐに反応することが求められがちです。深夜にメッセージを確認・返信することも、もちろん「労働時間」に含まれます。長時間労働やサービス残業を避けるためには、例えば業務連絡は自粛する、業務時間外は通知をオフにするなど、ルールを明確にしておく必要があります。

③・④については、実際に誰が、いつ、何時間働いているのかという記録がない限り、有効な対策をとることはできません。「テレワーク時の時間外・休日・深夜労働は禁止」と決めて残業をさせないようにすれば、ある一定の効果は生まれるかもしれません。しかし、本当にやらなくてはいけない業務があった場合、企業が管理できないところでのサービス残業が発生するリスクがありますし、長時間労働の根本的な解決にはなりません。見えないところで働かれてしまうと「長時間労働を行う労働者への注意喚起」など、もちろんできません。


勤怠管理の一番の課題は、労働時間の記録が働く人の実態を正しくとらえているのか、ということです。お互いの姿が見えないテレワークでは、記録が実態とかけ離れてしまうリスクがさらに高まります。勤怠管理を形がい化させないためには、一人ひとりの働き方を「見える化」し、生産性を向上させる基盤としての勤怠管理の仕組みを構築することが重要です。


テレワークにおける働き方の「見える化」と生産性の向上

では働き方を「見える化」し、生産性を向上させるには、どのような仕組みを構築すればよいのでしょうか。TeamSpiritの機能とともに、そのポイントをご紹介します。

・中抜け時間の管理
TeamSpiritの勤怠管理は、一日のうちに10回まで出勤と退勤の打刻ができます。就業時間中に業務を抜ける際には、その旨をコメントとして入力して退勤。戻った時にはその旨をコメントして再度出勤。中抜けの時間は、自動で非勤務時間(休憩時間)に振り分けられ、自動的にこの時間を除いた時間が勤務時間として計算されます。コラムの冒頭で説明したように、仕事と私生活の境界線が曖昧になりがちなテレワークでは、生産性が低いままダラダラと仕事をすることを避けなければなりません。そのためにも、仕事をする時間と休憩時間はしっかりと分け、それぞれの時間を正確に管理することが重要です。



・工数管理による業務内容の把握
TeamSpiritの工数管理は、就業時間内にどんな仕事を何時間行ったかを記録することができるほか、フリーテキストでコメントを残すこともできるため、日報として活用することができます。日々の仕事を振り返ることなくして、生産性を向上させることはできません。働く「時間」ではなく「成果」で評価することが、無駄な残業を削減することにつながります。

・残業の事前申請
TeamSpiritには、電子稟議の機能が統合されており、特定の時間を超えて勤務をする場合に、残業申請を必須にすることができます。長時間労働対策として、残業の事前申請制度は非常に有効です。

・リアルタイムな労務管理
TeamSpiritでは、あらかじめ設定した残業時間を超えた社員について、上司や本人にメールなどでアラートを出すことができます。36協定では時間外労働に関しては原則として月45時間、年360時間が上限です。特別条項付き36協定を締結した場合でも年720時間、単月70時間未満になるよう従業員の勤務状況を管理しなければいけません。月末になって初めて時間外労働を集計するようでは、法律を守れているのかどうかを確認することができません。TeamSpiritを使えば、時間外労働の上限に達する前に、対策を取ることができます。

ここまで見てきてわかるように、働き方の「見える化」と生産性の向上は、テレワークだから必要なわけではなく、企業の競争力を高めるために常に意識していなければならないことです。普段は残業し放題なのに、テレワークの時だけ残業申請を義務化しても、効率的な働き方ができるようになるわけではありません。有事の際にも生産性が落ちない強い組織を作るためには、どこでどう働いても生産性を維持できる基盤を、普段から作っておくことが重要です。

コロナ禍の不安定な状況は、これまでなかなか変えられなかった業務の進め方や働き方を変えられる大きなチャンスでもあります。世の中の変化をポジティブにとらえ、今の労務管理が適正かつ、生産性の向上に寄与する仕組みになっているのかどうか、この機会にぜひ見直してみてはいかがでしょうか。