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AIの発展によって人間の大部分の仕事が置き換えられるという話が最近の話題のひとつです。単なる定型業務はもちろんのこと、従来であれば難関の資格試験を突破できるような、限られた「優秀な」人でなければなれなかった医者や弁護士といった仕事のように、膨大な知識量が要求されるような仕事にも(むしろ膨大な知識が重要であるが故に)AIが進出し始めてきています。さらには、小説を書いたり作曲をしたり絵を描いたり、はたまた服のデザインをしたりといった創造的な世界にまでAIの「活動領域」は広がってきていて、とどまるところを知りません。

そうなってくれば、会社の中にも「AI従業員」が登場してくる日も遠い将来ではないでしょう。ここでは少し変わった「思考実験」として、「もしあなたの上司がAIになったら」ということを考えてみましょう。

一昔前には「突然上司が外国人になったら」という話がありましたが、今度やってくるのはAI国からの「外国人」あるいは「AI星」からの異星人です。置き換えられる対象は「職種」ではなくマネジャーや取締役のような役職と考えてみましょう。

AIが上司になるなんてことは心理的に絶対に許容できないと考える人も多いでしょう。「機械が人間の上に来る」なんてことは本末転倒だと考えるかもしれません。ただ意外にもこの「AI上司」、いまの職場の課題を次々と解決してしまうかも知れないのです。


実は色々な問題が解決する?

上司が突然外国人になる場合には、どちらかというと先に立つのは不安でしょう。言葉の問題、文化の問題でうまくやっていかれるのだろうかというのが普通の人にとっての最大課題になるはずです。でもAIなら少なくとも言葉の心配はありません。強いてあげれば「人間と機械の文化の違い」ですが、これも特定の文化に馴染むようにアルゴリズムを設定しておけば限りなくその摩擦は少なくできるでしょう。

実はそれどころか、「AI上司」は現状の数々の「上司 - 部下間の課題の大部分を解決してしまう可能性すらあります。例えば職場でよく聞く部下から上司への「不満」は以下のようなものではないでしょうか?

  • 言うことがコロコロ変わる
  • 評価が個人的な好き嫌いで決まり、公平性がない
  • 感情の起伏が激しく、機嫌の良し悪しが仕事に影響する
  • 早く帰りたいのにいつまでも会社に残っている
  • 指示が曖昧で抽象的でわかりにくい
  • 上に弱く下に強い
  • 行きたくもないのに飲みに誘われる
  • パワハラ・セクハラ
  • 失敗しても責任は部下に押し付ける
  • でも成功すると自分の手柄にする
    ・・・

では「AI上司」ならこれらの問題がどうなるか考えてみましょう。

まず言うことに一貫性があり、極めて論理的ですから発言が理不尽にコロコロと変わることはありません。評価についても客観的な基準が明確なので、感情的な好き嫌いで公平性を欠くことがなく、また(良くも悪くも)感情的ではありませんので、「今日は機嫌が良いのか悪いのか」の心配をする必要もありません。

指示も明快かつ具体的です。指示が曖昧であれば「エラーメッセージ」になってしまうからです。

早く帰りたいので、上司が離席しているタイミングを狙ってこっそり帰るなんていう小技もAI上司なら使う必要はないでしょう。

AI上司は「飲みニュケーション」もしないのでやたらに飲み会にも誘わないし、そこでいつもの愚痴を延々と聞かされることも、ましてや無理やりカラオケを歌わされるなんてこともやりません(そういう「パワハラモード」を備えたAIが出てこないとも限りませんが、わざわざ好き好んでそんなものを作る人もいないでしょう)。また「性別」を敢えて設定しなければ、セクハラをする心配もありません。

責任範囲を明確に定義され、行動記録に忠実に従って事実を認識するAI上司なら無闇に責任を転嫁したり手柄を横取りすることもないでしょう。そもそも出世欲もなければ「左遷される心配」もしないからです。



あなたはどちらを選ぶ?

もちろん、ここまで挙げたように様々な問題を解決できるのは良いことですが、マイナス面だってたくさんあります。

「熱い思い」を語って元気づけてくれることもなければ、意外な人間臭さを見せて「この人のためなら頑張ろう」と思わせることもないでしょう。責任を転嫁もしないかわりに、あえて部下の責任をかぶってかばってくれることもないでしょう。

いつまでもオフィスで残業していない代わりに、神出鬼没で「いつでもどこでも」現れて仕事を振ってきますから、出張先で息抜きすることもできないし、「24時間体制」でメールが飛んできます。

不正もしないかわりに(これはもしかすると遠い将来は「妙な野心」を持って人間に対しておかしなことを始めるかも知れないというのは様々なSFで出てくる話ですが)、こっそり規則違反を見逃してくれることもなくなるでしょう。

さて皆さんならどちらが良いですか?


AI上司が出現するのは意外に近いのかも知れません。実際ガートナー社は2015年10月に発表した「戦略的予言」の1つで「2018年までに世界で300万人を超える労働者が、ロボット上司の下で働くことになる」と予想しています。

犬のような動物が「社員」になったりする会社もありますが、次に出てくるのはAIが取締役になるといったことかも知れません。むしろ客観的かつ私心を捨ててチェックする「監査役」のようない役割はAIの方が向いている仕事になるのではないでしょうか?